
クリーントーンは、いつ冷たくなったのか。飽和しない静けさが仕様になるまで
ギターのクリーントーンには、長いあいだ一つの理想があった。
真空管がわずかに潰れる。倍音が増える。押し込むと粘る。煌びやかで、太い。「良いクリーン」とは、その微細な飽和のことだった。
だが1980年前後の音楽には、それとは逆方向のクリーンが並んでいる。
硬い。乾いている。潰れない。広いのに、中心が薄い。温かさを目指していない音が、はっきりと美として鳴っている。
この音は長く、ソリッドステートアンプの欠点として説明されてきた。真空管が使えない代用品だから冷たい、という説明である。
しかし時系列を並べ直すと、順番が逆に見えてくる。
冷たさは避けられなかった副作用ではなく、選ばれた仕様だった可能性がある。
いつ、何が、それを選ばせたのか。
「冷たい」は回路方式では決まらない
先に前提を一つ置いておく。
冷たさは真空管対トランジスタの二択では決まらない。ギター、ピックアップ、スピーカー、マイク、EQ、コンプレッション、コーラス、残響、そして編曲。それらの関係の中で生じる知覚である。
反例がある。
Yamahaは1979年にFシリーズを出している。100W、12インチ1基、A/Bの2チャンネル。Aチャンネルは入力感度を低くして、音量を上げても歪みの少ないクリアな音を狙う。Bチャンネルはゲインとマスターを分けてプリアンプ歪みを作る。100Hzから5.5kHzまで周波数、Q、レベルを動かせるパラメトリックEQ、プル・ブライト、リバーブ、ダイレクトアウトまで積んでいる。
高出力のソリッドステートで、歪まないチャンネルを持ち、精密なEQを備えている。冷たい音の条件は揃っているように見える。
ところが当時のカタログは、このシリーズの基調を「ウォームな音質」と説明している。
ソリッドステートであることは、冷たさの十分条件ではない。
逆向きの反例もある。Gang of FourのAndy Gillは、真空管の温かさを称える風潮に反発し、1970年代のCarlsbroのトランジスタ・コンボが持つ、細部まで見える攻撃的な音を意図的に選んだと語っている。
一方は同じ方式で温かさを訴求し、他方は冷たさを積極的に選ぶ。
分岐点は回路ではない。歪まない音を何のために使うか、にある。
この先は、CSL公式サイトの全文で続けている。
1975年に起きたのは、製品の登場であって美学の成立ではない
転換帯は、製品ではなく編曲の側にある
冷たさは、歪まないことで何を保存するのか
ハイゲイン音楽が「静」を必要とした
真空管側の回答は、音色ではなく制御から始まった
冷たさは、その後どこへ行ったか
飽和しないことは、判断である
まとめ
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