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『月をみる』|シロクマ文芸部|~月の裏側の地球展望台~

    シロクマ文芸部に参加します。
    小牧幸助様、お題をありがとうございます。
    いつもスキを下さる皆様ありがとうございます。
    #月をみる
    #シロクマ文芸部


    『月の裏側の地球展望台』

    月を見る。

    丸い月の中で、

    誰かが手を振っていました。

    午前二時六分。

    こん。

    こん。

    「まだ起きてるの?」

    猫の車掌さんが、

    あなたの窓から入ってきました。

    今夜は、

    大事そうに革の箱を抱えています。

    猫がエメラルドの懐中時計を開くと

    《至急》

    《月の裏側・地球展望台》

    「この箱を月に届ける。」

    「中身は?」

    猫が留め金を外すと、

    箱の中で、

    淡い青い乳白色の光が揺れました。

    大きなムーンストーンのレンズ。

    「宝石王国で研磨された、

    特別な望遠鏡のレンズ。」

    「遠くまで見えるの?」

    「距離じゃない。」

    猫は箱を閉じました。

    「いちばん大切だった時間に、
    焦点が合う。」

    窓の外には、

    星屑線。

    月へ向かって夜空を走ります。

    列車は月の縁を回り、

    誰も見たことのない月の裏側へ着きました。

    そこには、

    地球をのぞくための望遠鏡が、

    たくさん並んでいます。

    順番を待っていたのは、

    片方の靴。

    赤い三輪車。

    針の止まった時計。

    耳の擦り切れた、

    小さなウサギのぬいぐるみ。

    「みんな、

    地球で役目を終えたものたち。」

    猫が言いました。

    「もう一度だけ、

    大切だった人を見るために、

    ここへ来る。」

    ウサギの順番札には、

    《待ち時間 六十八年》

    「長かったね。」

    「月は、

    予約が多いから。」

    ところが、

    ウサギの望遠鏡には、

    大きな穴が開いていました。

    流れ星が、

    レンズを割ったのです。

    係員の月ウサギが、

    時計を見ます。

    「地球が沈むまで、

    あと三分。」

    猫とあなたは、

    新しいムーンストーンのレンズを抱え、

    急いで取り換えようとしました。

    途中で月が揺れます。

    ひゅーん。どん。

    他の流れ星が通りました。

    レンズが、

    手から滑りました。

    レンズは月面を跳ね、

    ころころ転がっていきました。

    ウサギのぬいぐるみが飛びつき、

    長い耳でつかみました。

    「耳って、

    便利だね。」

    「六十八年、

    やぶれたままだけど、まだ使える。」

    三人でレンズをもちあげ、

    望遠鏡へレンズをはめます。

    残り、十秒。

    ウサギが、

    望遠鏡をのぞきました。

    地球の小さな家。

    窓辺には、

    白髪の女性が座っています。

    膝の上には、

    古い一枚の写真。

    幼い女の子が、

    あのウサギを抱いて笑っていました。

    女性は月を見上げ、

    小さく言いました。

    「おやすみ、ミミ。」

    ウサギは、

    擦り切れた耳を、

    ゆっくり振りました。

    見えるはずのない女性も、

    こちらへ手を振りました。

    「見つけてもらえたね。」

    猫が言います。

    ウサギは答えず、

    望遠鏡をのぞいたまま、

    何度も頷きました。

    翌朝。

    窓辺に、

    小さな順番札が落ちていました。

    《地球展望台》

    《次に月を見るときは、

    少しだけ長く》

    その夜。

    あなたが月を見ると、

    たくさんあるクレーターの一つで、

    小さな灯りが、

    二度、

    瞬きました。

    誰かは分かりません。

    それでもあなたは、

    月へ向かって、

    そっと手を振りました。



    ◆過去のシロクマ文芸部 参加作品

    こちらに参加させて頂きました。


     
     
    眠れない夜、あなたの窓辺に現れる星屑線。 灰色の猫の車掌・ポシェが、 少し不思議な場所へご案内します。 眠れない夜の物語。 最後まで読まなくて大丈夫です。 眠くなったところで、おやすみなさい。

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