
鶏むね肉に偏ると、人生が偏る
昔、娘にこう言われた。
「パパ、また鶏むね肉?」
「また」じゃない。今日は塩コショウじゃなくてカレー味だよ。
「……同じじゃん」
同じじゃない。今日はブロッコリーもあるよ。
「きのうもあった」
…あった。
この会話、筋トレ民の家庭では日常茶飯事だと思う。
自分は東大医学部を卒業した内科医で、トレーニングは20年以上続けてきた。BIG3合計520kg。ベンチ140kg、スクワット180kg、デッドリフト200kg。
体はそこそこ仕上がった。でも、食卓の平和はまったく維持できていない。
この記事では、20年以上「鶏むね肉と共に生きた医師」が家庭で犯してきた罪と、そこからたどり着いた食事の最適解を書く。
筋トレしている人にも、そのパートナーにも、たぶん役に立つ。
筋トレ民の冷蔵庫のリアル
自分の家の冷蔵庫を開けると、こうなっている。
右半分は妻と子供用の「普通の食材」。左半分は自分の燃料。
燃料の内訳はこうだ。
鶏むね肉2kg
ブロッコリー3袋
オートミール
卵10個×3パック(できれば平飼い)
オイコス(プレーン)
以上。
妻いわく「冷蔵庫の中で食文化の断絶が起きてる」。
・・・否定できない。
筋トレ民が家庭で犯す5つの大罪
全部、自分がやらかしたことがあるやつだ。
罪その1:外食先でメニューの裏のカロリーを確認する
妻に「もう一緒に外食行きたくない」と言われた。
いまは確認するけど、黙って注文する。成長した。
罪その2:子供のお菓子の成分表を読み上げる
「これ1個で砂糖12gだよ。果糖ぶどう糖液糖もたくさん入ってるね」
「…パパうるさい」
正しいことを言っても嫌われる。医師として、そして父親として学んだ。
罪その3:旅行先にプロテインを持っていく
家族旅行の初日。ホテルでスーツケースを開けたら、シェイカーの蓋が開いていた。
妻と娘の服がダブルチョコレート味の粉まみれになっていた。
妻の顔を一生忘れない。
それ以来、プロテインは個包装のものだけ持っていく。教訓は血で学ぶ。
罪その4:家族の食事中に自分だけ別メニュー
「パパなんで私たちと同じもの食べないの?」
「パパはこれがおいしいんだよ」
「嘘でしょ」
嘘だった。
罪その5:子供の粉ミルクの隣に謎の粉を大量に置く
「起きてすぐ」「トレ前」「トレ後」「寝る前」とラベルが貼ってある。
妻にガチでキレられた。いまは棚を分けている。物理的に。
医師として伝えたいこと。鶏むね肉ばかり食べる必要はない
ここから真面目な話をする。
鶏むね肉が「最強」と言われるのは、高タンパク・低脂質・安いの三拍子が揃っているから。
100gあたりタンパク質23g、脂質1.9g、カロリー約105kcal。コスパも栄養効率も文句なし。
でもそれは「効率」がいいというだけで、「正解」とは限らない。
タンパク質は鶏むね肉じゃなくても摂れる。
魚でいい。卵でいい。豆腐でいい。豚ヒレでも牛赤身でも全然いい。
むしろ医師の立場から言うと、同じタンパク源に偏りすぎるほうが問題だ。
鶏むね肉にはEPA・DHAがほぼない。鉄分もビタミンB12も少ない。
亜鉛は牛肉や牡蠣のほうが圧倒的に多い。
「鶏むね肉だけ食ってれば間違いない」は筋トレ界の迷信だ。
体の中で起きていることは、マクロ栄養素だけでは見えない。
鶏むね肉に限らず、ふだん食べている肉は、ほとんどが動物の「筋肉」だ。約12万5000年前のネアンデルタール人は、骨を砕いて、中の脂肪まで取り出していたらしい。自分がサプリでコラーゲンを摂っている理由も、そこにつながっている。
原始人の生活を参考にサプリを選んだ話(メンバー限定)
自分が20代のときは一人暮らしだったから、毎日鶏むね肉でも問題なかった。むしろ効率最高だった。
結婚して、子供ができて、気づいた。
「効率」だけじゃ食卓は成立しない。
いまは週3で鶏むね肉。残りは魚と豚と、たまに牛。
娘が「パパ、今日のごはんおいしい」と言ってくれるのと、PFCバランスが完璧なのと、どっちが大事かと聞かれたら
どっちも大事だ。
でも正直、娘の笑顔のほうがテストステロンは上がると思っている。
ちなみに、いま食事で決めているルール5つは、こちらにまとめた。
もさり先生何食べてるんですか?に答えました|決めているのは5つだけ(メンバー限定)
「最適化」と「人生」は別の話
筋トレにハマると、体を最適化したくなる。
PFCバランス、睡眠時間、サプリメント、トレーニングのボリュームとインテンシティ。
全部数字で管理できる。数字で管理できるものは改善できる。
経営者のクライアントにも同じタイプが多い。事業のKPIを追うのと同じ感覚で、体のKPIを追い始める。それ自体は悪いことじゃない。
でも家族との食卓は最適化できない。
「今日は脂質が多いからパパはパスで」
栄養学的には正しい。
でも5歳の娘は「パパがいっしょに食べてくれない」としか思わない。
チョコレート味の粉まみれの服を黙って洗濯してくれた妻に、PFCバランスの話をする気にはなれない。
鶏むね肉を完璧に焼くより、家族と同じ鍋をつつくほうが、たぶん長期的には健康にいい。
根拠はない。論文もない。
でも20年以上トレーニングして、2人の子供を育てて、いまいちばん確信していることがこれだ。
人間の健康はスプシでは測れない部分がある。食卓を囲む時間、笑いながら食べる食事、「おいしいね」という会話。そういうものが免疫やホルモンに与える影響を、自分たちはまだ数値化できていない。
でも体感では、わかる。
20年以上かけてたどり着いた食事の最適解
鶏むね肉は週2〜3回 それ以上は家庭が壊れる。味変のバリエーションを3つ以上持っておくこと。
魚は週2〜3回 鮭とサバがあれば人生なんとかなる。EPA・DHAは鶏むね肉ではほとんど摂れない。
卵は毎日食べていい 神が作った完全食。食べる個数は体質と目的による。
豆腐と納豆は好きなだけ 安い。うまい。妻にも怒られない。イソフラボンがテストステロンを下げるという話は、通常の摂取量なら気にしなくていい。
たまに牛赤身か豚ヒレ 鉄分とビタミンB12は鶏むね肉だけでは不足する。特に女性やトレーニング量が多い人は、鉄分を意識的に摂りたい。
そして週に1回は、家族と同じものを食べる
「パパ、今日は一緒のごはんだね」
この一言のほうが、プロテイン1杯より効く。
たぶん。
今日からやること
冷蔵庫を開けて、自分のスペースと家族のスペースを見比べてみてほしい。
「食文化の断絶」が起きていたら、今週1回だけ、家族と同じメニューを食べてみる。
それだけでいい。
PFCバランスは翌日に調整すればいい。
筋肉は1日じゃ落ちない。でも家族の信頼は、積み重ねでしか貯まらない。
まとめ
鶏むね肉が「最強」なのは効率の話。EPA/DHAはほぼなく、鉄・B12・亜鉛も少ない
同じタンパク源に偏ると栄養が偏る。週2〜3回・残りは魚・豚・牛・卵・豆腐でローテーション
家族の食卓は最適化できない。1人だけ別メニューは長期的に信頼を削る
週1回は家族と同じものを食べる。「パパ、今日は一緒のごはんだね」が効く
筋肉は1日じゃ落ちない。家族の信頼は積み重ねでしか貯まらない
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⚠️ この記事は一般的な栄養情報であり、特定の医学的アドバイスではありません。食物アレルギーのある方、治療中の方は主治医にご相談ください。なお、我が家の食卓の平和については現在も交渉中です。