
ニイアス・サウィン祭の一幕【短編小説】
ニイアス・サウィン祭とは? まずは下記を一読。
では、本編、2500文字程度の短編小説になります。

第一話 トックリラン
数日前に見つけた自生トックリラン。
何故か親近感を覚えた農家の男は、持ち帰り、家の中に飾ることにした。
そのトックリランが飾られている窓辺の反対方向、街の中央広場からは祭りの賑やかな喧噪が聞こえてくる。
サウィン祭。
確か、そう呼ばれていたな。
コーヒーを飲みながら、男は物思いにふける。
今年のサウィン祭の目玉は、第1回ニイアス尻尾コンテスト、なんと賞金が……でないらしい。主催者の懐事情が厳しいのだとか。それがニイアスの常識だとも言っていたな、ご本人が。
そうして、男は変体の魔法を試す。
口から牙がはみ出し、腕に大きな力が宿り、お尻から尻尾が……生えなかった。まだまだ身体コントロールは不十分なようだ。
窓辺のトックリランを見る。その垂れ下がる葉は、まるで尻尾の様。
ポニーテール・パーム(馬の尻尾のヤシ)とも、子ブタのしっぽとも呼ばれるらしい。
その葉を参考に、縄と端切れで尻尾めいたものを作り、ベルトの後ろにくくりつける。
尻尾が見えるよう、丈の短いフード付き革マントを羽織り、お菓子の入った小袋をポケットに突っ込むと、男は街の広場へと出かけることにした。
お気に入りのバケットハットは、お留守番だ。
第二話 木製のカチューシャ
ニイアスの中央広場には、様々な露店が並んでいた。
サウィン祭の喧騒の中、各露店も繁盛しているようで、その活気の熱量たるや、普段、静かな暮らしをしている男にとっては落ち着かないものだった。
ふとヒューマンたちの声が耳に届く。
「これ、本物そっくりじゃないか!」
「うさ耳、彼女につけてもらいたい…」
そちらを見やると数人のヒューマンたちが一つの露店にたむろしていた。
男は気になり、その輪に紛れ込み、露店の品を見る。
その露店では仮装用のアクセサリーを主に扱っているようだった。
どれも精工で、本物そっくりだ。
ふと露店の端にある、試作品の立て札が置かれたエリアが目にとまった。
そこにあったのは木だけで作られ、その木目の特徴を生かした、シンプルな装飾品たちだった。
その中のひとつ、猪耳のカチューシャを手に取る。
木の弾力、木目の使い方、削り出しの精度、どれも申し分なかった。
露店の店主を見やる。かわいらしい女性だった。ヒューマンたちの相手で忙しそうだったが、彼女がふとこちらを向いた時、購入する旨を伝え、無事、手に入れることができた。
男は露店を後にする。
その露店には「ヒジカ工房出張露店」という木彫りの看板が掲げられていた。
第三話 野菜チップス
思い思いの仮装姿の住人たちが行き交う中央広場。
周りを眺めながら、圧倒されつつも、その楽しそうな雰囲気を味わいつつ歩いていると、いきなり何かが男に衝突した。
それはカバンを脇にかかえた銀髪の少女で、男にぶつかった反動で、尻餅をついていた。お尻からは銀色の尻尾(仮装アクセサリー)も見える。
「おい、大丈夫か?」
そう声をかけた男に対し、涙目になりながらも少女は答える。
「お菓子をくれなきゃ、世界征服しちゃうぞ!」
男はフードの中でニヤリと笑い、少女に手を差し出す。
少女を立たせると、その手に小袋を握らせた。
小袋の中に入っているのは、にんじん、さつまいも、かぼちゃの野菜チップス(各野菜をスライスして、天日干しにした後、オーブンで焼いたもの)に、近所の猫耳研究者さんから頂いた塩をまぶしたシンプルなお菓子だった。
「その元気があれば、大丈夫だな!」
小袋の中を覗き込んだ少女の「ありがとう!」の声を背に、男は再び中央広場の賑わいの中へと身を投じた。
第四話 味の変わるワイン
中央広場を横切り、ひと際、にぎやかな屋台へ向かう。
そこは料理だけでなく、お酒も扱う「狼の集い亭」の出張屋台だ。
屋台の前に置かれた各テーブルでは住人たちが各々楽しんでいた。
そのひとつ、豪快な笑い声をあげながら、同じテーブルに着く住人たちと語り合う、恰幅のいい、狸の獣人のもとへ、男は向かう。
(獣人も、いろんな仮装するんだな)
そんなことを思っていると、「よう! 久しぶり!」と狸の獣人から声をかけられた。
いつぞやの同期会振りの再開。
狸の獣人は、気さくに男に話しかけ、男はその輪の中に入る。
「最近、仕入れたこのニイアス産ワイン、人によって味が変わる不思議なワインだぞ!」
そう言って、狸の獣人に勧められるまま、男はそのワインを飲んだ。
それは、とても懐かしい味だった。
隣の席では、夜空を見上げる狼族の女性の星座うんちくを、目を輝かせながら葉っぱの髪飾りをつけた少女が聞いている。そして、その少女のテーブルに、するっとプリンを置くレッサーパンダ族の男は、二人の邪魔をしないよう静かに立ち去るのだった。
どこかから、バイオリンの音色が風に乗って流れてくる。
くだらないやり取りと笑いの中、ニイアスの夜は更けていくのだった。
第五話 裏方
吾輩は……いや、私は畑である。ニイアスの大地を統べる意識の一端である。
中央広場の花壇から、住人たちの祭り風景を眺める。
彼らの楽しむ姿を見て、私の顔もついつい綻ぶ。
そんな片隅で、忙しなく動き回る、紫イソギンチャクを背中に乗せたカニが気になったのは必然と言えよう。
カニの動きに合わせ、意識を次々と近場の花壇に飛ばす。
カニは何やら調べ事をしているようだった。
巡回中のニイアス軍の守備兵に話しかけたりもしている。
……あの守備兵、ニイアスに来た当初より、かなりオシャレになったような……連れに何かされたのかもしれない。とかく、人族の男はパートナーに弱いしな。などと思っていると、カニが視界から消えた。
おっと、いけない。カニを追跡せねば。
再び、意識を飛ばす。
カニは長い髪の猫族の女に何かを渡していた。
「落とし物ですか? 預かっておきますね」
そう女はカニに話していた。
どうやら、カニの恩返し的な話ではないようだ。
しばらくして、満足したのか、カニは中央広場を後にし、南西の商業地区へと向かった。
ニイアス書房。
カニはその中へ入ると、
祭りは大盛況。
これといったトラブルはなし。
ニイアスは今日も平和である。
そう、報告していた。
……報告相手が居眠りしているように見えたのは、きっと見間違えだ。
私は畑である。
土のあるところに、我あり。
ニイアスを監視する大いなる意志の片鱗と思ってもらって構わない。
( 了 )
( 続編 )
あとがきと登場人物
案外、時間がかかったけど、とりあえず、完成。
あらすじっぽい流れですが、こういうスタイルなので、文章の肉付けは諦めます!
登場人物は、ちょっと人数が多いので……下記の「ニイアス住人地図(試作)」を見て、誰が誰に該当するのか、不明な場合は確かめてみましょう!
一応、各キャラの最低限の特徴を押さえて書いたつもりです。
短文登場の方は、これ、私だーっとか思ってもらえれば幸いです。
尚、各話、メインポジションの方の記事は下記より。
第二話
第三話
今回の物語での登場人物描写は上記記事ベース。移住申請書ベースではない。
第四話
第五話
守備兵さんの物語中のネタは奥様の記事より。
祭り中は落とし物も多いだろうから、大変だろうなぁ…