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資金繰り表と予実管理|事業計画を「作って終わり」にしない #13

    こんにちは!
    株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。

    前回の振り返り

    前回の第12回では、毎月どれだけ資金が減っているかを示すバーンレートと、あと何か月資金がもつかを示すランウェイを解説しました。
    架空の会社A社の試算では、新規の獲得が計画の7割にとどまると、次の調達に動き出すべき時期が4か月も早まることを確認しました。
    そして、残高だけを眺めていては、計画とのずれに気づくのが遅れてしまうこともお伝えしました。

    今回のテーマ

    第13回となる今回は、第4部「資金を管理する」の締めくくりとして、前回のランウェイの管理を日々支える2つの道具を扱います。

    • 資金繰り表:実際のお金の出入りを記録し、数か月先までの資金の動きを管理するための表

    • 予実管理:事業計画(予算)と実績を比べ、差の原因を突き止めて打ち手につなげる仕組み

    第3回で、3点セットは「調達後の予実管理の基準」にもなるとお伝えしました。第4回・第5回で作り込んだ事業計画を「作って終わり」にせず、毎月の経営に生かし続ける。
    そのための具体的な方法を、A社の例を使って解説します。

    【はじめての資金調達さくせん会議】

    【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】

    資金計画と資金繰り表の違い

    第5回で、事業計画の一部として資金計画を作りました。
    「資金計画があるなら、資金繰り表は必要ないのでは」と思われるかもしれません。
    しかし、この2つは役割が異なります。

    • 資金計画:調達額を決めるために、この先18〜24か月程度のお金の動きを見通した計画です。一度作ったら、大きな前提が変わらない限り、基本的にはそのまま「ものさし」として使います。

    • 資金繰り表:実際のお金の出入りを毎月記録し、最新の実績を踏まえて、数か月先までの見込みを更新し続ける表です。

    資金計画が「出発前に描いた航路図」だとすれば、資金繰り表は「航海中に毎日つける航海日誌と、その先の見通し」です。
    航路図だけでは、いま船がどこにいて、燃料があとどれだけ残っているのかはわかりません。

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    資金繰り表の基本構造

    資金繰り表は、縦に収入と支出の項目を、横に月を並べた表です。
    基本的な構造は、次のとおりです。

    1. 月初の現預金残高:その月の始まりの時点の手元の資金

    2. 収入:売上の入金など、事業によって入ってくるお金

    3. 支出:人件費、広告費、家賃、仕入れなど、事業によって出ていくお金

    4. 収支:収入から支出を差し引いた額。赤字のベンチャー企業では、これがネットバーンにあたります

    5. 財務の動き:借入、借入の返済、増資など、資金調達に関わるお金の動き

    6. 月末の現預金残高:月初の残高に、収支と財務の動きを加えた額。これが翌月の月初の残高になります

    このほか、設備投資や税金の支払いなど、毎月ではなく特定の月にまとまって発生する支出は、別の行を設けて管理するとわかりやすくなります。

    そして大切なのが、横に並べる月の使い方です。
    過去の月には確定した「実績」を、これから先の月には「見込み」を入れます。
    毎月、1か月が終わるごとに、その月の見込みを実績に置き換え、さらに先の月の見込みを1か月分付け加えていきます。
    こうすることで、常に「直近の実績」と「この先数か月の見込み」を1枚で見られる表になります。

    資金繰り表の作り方

    資金繰り表は、次の手順で作ります。

    1. 収入と支出の区分を決める:自社の事業に合わせて、行の項目を決めます。あまり細かくしすぎず、金額の大きい項目を中心に区分するのがコツです。

    2. 実績を入れる:通帳の入出金や会計の記録をもとに、過去の月の実績を入れます。

    3. 予定を入れる:給与、社会保険料、家賃、借入の返済、税金など、時期と金額があらかじめわかっている支払いから先に入れていきます。そのうえで、売上の入金や広告費など、変動する項目の見込みを入れます。

    4. 最低限残しておく資金を下回らないかを確かめる:第5回で決めた「最低限残しておく資金」の基準を、月末の残高が下回らないかを確認します。

    5. 毎月更新する:月が終わるごとに見込みを実績に置き換え、見込みの月を1か月分延ばします。

    なお、資金に余裕がない時期には、月単位ではなく週単位で資金繰り表を管理することもあります。
    給与日や大きな支払いの日の前後で、資金が一時的に不足しないかを確かめるためです。

    A社の資金繰り表を作ってみる

    それでは、A社の資金繰り表を見てみましょう(数字はすべて説明のための仮のものです)。
    シードの調達から6か月目を終えた時点で、4か月目から6か月目までの実績と、7か月目から9か月目までの見込みを並べたものが、次の表です。

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    表の下から2行目には、参考として、第5回の資金計画(当初計画)の月末残高を並べています。
    また、いちばん下の行には、最新の見込みのまま進んだ場合の、資金計画にもとづくランウェイを示しています。

    表から読み取れること

    まず目を向けていただきたいのが、月末の現預金残高と、当初計画の月末残高の差です。
    6か月目の時点で、実績の残高は1億3,450万円、当初計画は1億3,489万円です。差はわずか39万円で、ほとんど計画どおりに見えます。

    ところが、いちばん下のランウェイの行を見ると、話が変わってきます。
    当初計画では、6か月目の時点のランウェイは約15か月ありました。
    それが最新の見込みでは、約12.6か月に縮んでいます。
    残高はほとんど変わらないのに、ランウェイは2か月以上も短くなっているのです。

    なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
    収支(ネットバーン)の行を見ると、その手がかりがあります。当初計画では、売上の伸びとともにネットバーンは少しずつ小さくなっていく見通しでした。
    ところが実績では、ネットバーンが小さくなるどころか、わずかに大きくなり続けています。売上の入金が計画ほど伸びていないためです。

    第12回で、残高を眺めているだけでは、計画とのずれに気づくのが遅れるとお伝えしました。
    資金繰り表で、残高だけでなく、ネットバーンの推移と、見込みを踏まえたランウェイまで確かめることで、こうした小さなずれに早く気づくことができます。

    では、売上の入金が計画ほど伸びていない原因は何なのでしょうか。
    それを突き止めるのが、次にお話しする予実管理です。

    予実管理とは|計画と実績の差から打ち手を考える

    予実管理とは、「予算(計画)」と「実績」を比べて管理することです。
    ただし、計画と実績の差を確かめるだけでは、予実管理とは言えません。
    予実管理は、次の一連の流れのことを指します。

    1. 計画と実績を比べ、差を確かめる

    2. 差が生じた原因を突き止める

    3. 原因に対する打ち手を決める

    4. 打ち手を踏まえて、この先の見通しを更新する

    差を見て「計画に届かなかった」と確認するだけで終わってしまえば、翌月も同じことが繰り返されます。
    原因を突き止め、打ち手を決め、見通しを更新するところまでやり切ってはじめて、予実管理は経営の道具になります。

    予実管理の進め方

    予実管理は、次の5つの手順で進めます。

    ① 比べる項目を、KPIツリーから選ぶ

    売上や利益といった結果の数字だけを比べても、なぜ差が生じたのかはわかりません。
    第4回で作ったKPIツリーを使い、売上を構成する要素まで含めて比べる項目を選びます。
    A社であれば、売上だけでなく、商談の件数、成約率、新規の獲得店舗数、解約率、契約店舗数なども比べます。

    ② 差を、要素に因数分解する

    売上の差が見つかったら、それを要素に因数分解します。
    たとえば「売上=契約店舗数×月額単価」であれば、差の原因は契約店舗数にあるのか、単価にあるのかを確かめます。

    ③ 原因を、さらに細かい要素までさかのぼる

    原因となる要素が見つかったら、さらにその要素をさかのぼります。
    契約店舗数が足りないのであれば、新規の獲得が少ないのか、解約が多いのか。
    新規の獲得が少ないのであれば、商談の件数が少ないのか、成約率が低いのか。
    KPIツリーを上から下へたどるように、原因を突き止めていきます。

    ④ 打ち手を決める

    原因が突き止められたら、それに対する打ち手を決めます。
    打ち手は、「誰が、いつまでに、何をするか」まで具体的に決めることが大切です。

    ⑤ 見通しを更新し、ランウェイに反映する

    最後に、最新の実績と打ち手を踏まえて、この先の見通しを更新します。
    そして、更新した見通しを資金繰り表に反映し、ランウェイがどう変わるのかを確かめます。
    ここで、資金繰り表と予実管理がつながります。

    A社で予実管理をしてみる

    それでは、A社の6か月目の予実管理を、先ほどの5つの手順に沿って進めてみましょう(数字はすべて説明のための仮のものです)。
    計画と実績を比べ、差の原因と、この先の見通しをまとめたものが、次の表です。

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    差を確かめ、因数分解する

    6か月目の売上は、計画の696万円に対して、実績は664万円でした。
    32万円、約5%の差です。
    月額単価は計画どおりの1万円なので、差の原因は契約店舗数にあります。
    月末の契約店舗数は、計画の783店舗に対して、実績は735店舗でした。

    原因をさかのぼる

    契約店舗数が足りない原因を、さらにさかのぼります。
    契約店舗数は、新規の獲得と解約によって増減します。

    まず解約率を見ると、計画の2.0%に対して、実績は1.5%でした。
    計画より解約が少なく、これは良い方向の差です。
    一方で、新規の獲得店舗数は、計画の101店舗に対して、実績は80店舗と、約2割下回っています。
    差の主な原因は、新規の獲得にあることがわかります。

    では、なぜ新規の獲得が少ないのでしょうか。
    新規の獲得店舗数は「商談の件数×成約率」に因数分解できます。
    商談の件数は、計画の402件に対して、実績は400件と、ほぼ計画どおりでした。
    ところが成約率は、計画の25%に対して、実績は20%にとどまっていました。
    さらに過去の月をさかのぼると、成約率は4か月目から下がり始めていたことがわかりました。

    つまり、A社の売上が計画に届かない原因は、「商談はつくれているが、契約に結びつく割合が下がっている」ことにあったのです。

    打ち手を決める

    原因が成約率にあるとわかれば、打ち手も具体的になります。
    A社では、商談の記録を見直し、契約に至らなかった店舗の声を確かめました。
    その結果、「導入時の初期設定が手間に感じる」という声が多いことがわかったとします。

    そこでA社は、導入時の初期設定をA社が代行するサービスを始めることにしました。
    営業の責任者が、7か月目のうちに準備を整え、8か月目から提供を始める、という形で、誰が、いつまでに、何をするかまで決めます。

    見通しを更新する

    最後に、見通しを更新します。
    まず、打ち手を講じずに、このままのペースで進んだ場合です。
    成約率が20%のまま続くと、18か月目の契約店舗数は約1,750店舗にとどまり、マイルストーンの2,000店舗には届きません。
    資金が尽きるのは約18.6か月目となり、当初計画の約21か月目より2か月以上早まります。
    第12回で決めた「ランウェイが9か月を切る前に動く」という基準に照らすと、次の調達に動くべき時期は、当初計画の12か月目から10か月目に前倒しになります。

    第12回の「新規の獲得が計画の7割にとどまった場合」ほどではありませんが、このままのペースが続けば、少しずつそのケースに近づいていくことになります。

    一方で、打ち手が効果を上げ、8か月目から成約率を25%に戻せた場合はどうでしょうか。
    18か月目の契約店舗数は約2,010店舗となり、マイルストーンに届きます。
    18か月目の残高も約1,600万円と、当初計画の約2,000万円に近い水準まで回復します。

    このように、予実管理で差の原因を早く突き止め、打ち手を講じることで、計画とのずれを取り戻すことができます。
    6か月目の時点では、残高の差はわずか39万円でした。
    この小さな差の段階で気づけるかどうかが、その後の経営を大きく左右するのです。

    毎月の運用|月次の数字を早く出す

    資金繰り表と予実管理は、毎月続けてこそ意味があります。
    そのために大切なのが、月次の数字をできるだけ早く出すことです。

    「月末から何営業日で数字を出すか」を決める

    予実管理は、実績の数字がそろわなければ始められません。
    月が終わってから実績が出るまでに1か月以上かかっていては、差に気づいたときにはすでに2か月が過ぎてしまいます。
    A社のように、4か月目から始まっていた成約率の低下に、気づくのがさらに遅れることになります。

    そこで、「月末から何営業日以内に、実績の数字を出す」という目標を決めておきます。
    会計の記録や請求の処理の流れを整え、少しずつこの期間を短くしていくことが大切です。

    経営会議や取締役会で共有する

    実績の数字がそろったら、資金繰り表と予実管理表を、毎月の経営会議や取締役会で共有します。
    第12回でお伝えした、現預金の残高、ネットバーン、ランウェイの3つの数字とあわせて、同じ形式で毎月報告する習慣をつくりましょう。
    株主である投資家にも定期的に報告しておくと、信頼関係が深まり、追加の支援を相談しやすくなります。

    上場の準備では、予実管理の精度そのものが問われる

    もう1つ知っておいていただきたいのが、予実管理は、将来の上場の準備でも重要になるということです。
    上場の準備では、会社が計画を立て、そのとおりに実行し、ずれが生じたときには適切に対応できる体制があるかが確かめられます。
    上場したあとも、投資家に業績の見通しを示し、その達成状況を説明していくことになります。

    つまり、予実管理の精度は、上場企業としてふさわしい経営管理の体制があるかどうかを示すものでもあるのです。
    早い段階から予実管理の習慣を身につけておくことは、将来の上場への備えにもなります。
    上場に向けた準備については、第20回でくわしく扱います。

    資金繰り表と予実管理でよくある失敗

    最後に、よく見かける失敗を5つ紹介します。

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    1. 事業計画を作ったまま、実績と比べていない:資金調達のために事業計画を作ったものの、調達が終わったあとは一度も見返していない、というケースです。事業計画は、調達後こそ使い続けるべき道具です。

    2. 差を確かめて終わりにしている:「今月は計画に届かなかった」と確認するだけで、原因や打ち手まで考えていないケースです。予実管理は、見通しの更新までやり切ってはじめて意味を持ちます。

    3. 計画を毎月作り直してしまう:実績に合わせて計画そのものを毎月書き換えてしまうと、当初の計画からどれだけずれているのかがわからなくなります。当初の計画は「ものさし」として残し、最新の見通しは別に持つことが大切です。

    4. 資金繰り表と会計の数字が合っていない:資金繰り表の残高と、通帳や会計の記録の残高が一致していないと、資金繰り表そのものが信頼できなくなります。毎月、実績の残高が一致しているかを確かめましょう。

    5. 月次の数字が出るのが遅い:実績の数字が出るまでに時間がかかり、打ち手が後手に回ってしまうケースです。月次の数字を早く出す仕組みづくりは、予実管理の土台です。

    まとめ

    今回のポイントは、次の3つです。

    1. 資金計画が出発前に描いた航路図なら、資金繰り表は航海中の航海日誌とその先の見通しである。実績と見込みを並べて毎月更新し、残高だけでなく、ネットバーンの推移とランウェイまで確かめる

    2. 予実管理は、計画と実績の差を確かめるだけでなく、差を因数分解して原因をさかのぼり、打ち手を決め、見通しを更新するまでの一連の流れである

    3. 月次の数字を早く出し、経営会議や取締役会で毎月共有する。予実管理の精度は、将来の上場の準備でも問われる

    自社の資金繰り表と予実管理を確認するためのチェックリスト

    • 実績の月と見込みの月を並べた資金繰り表を、毎月更新しているか

    • 給与、社会保険料、税金、借入の返済など、時期と金額がわかっている支払いを漏れなく入れているか

    • 資金繰り表の実績の残高が、通帳や会計の記録と一致しているか

    • 売上などの結果の数字だけでなく、KPIツリーの要素まで計画と実績を比べているか

    • 差を因数分解し、原因となる要素までさかのぼっているか

    • 打ち手を、誰が、いつまでに、何をするかまで具体的に決めているか

    • 当初の計画を「ものさし」として残し、最新の見通しを別に持っているか

    • 月末から何営業日で実績の数字を出すかを決めているか

    次回予告

    次回からは、第5部「バリュエーションを理解する」に入ります。
    第14回は「バリュエーションの基本|プレマネー、ポストマネー、希薄化」です。
    これまでA社の例で何度も登場してきた企業価値の考え方を、あらためて基本から整理します。

    お問い合わせ・ご相談について

    「はじめての資金調達、何から準備すればいいのかわからない」「次のラウンドに向けて、3点セットをきちんと作り込みたい」とお考えの経営者様へ。

    弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
    銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
    この連載でお伝えしてきた内容を、貴社の実情に合わせて、一つずつ形にしていくのが私たちの仕事です。

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    私たちは、ベンチャー企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考える「社外のCFO」でありたいと考えています。
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    社長の「右腕」になる社外CFO。メガバンク出身。プライム上場企業執行役員経験。中堅中小企業には銀行との付き合い方を、ベンチャー企業には資金調達と成長の財務戦略を。銀行・コンサル・上場企業の現場で見てきた「お金の勝ち筋」をnoteで発信中。

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