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ランウェイとバーンレート|会社の残り時間を把握する #12

    こんにちは!
    株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。

    前回の振り返り

    前回の第11回では、株式を渡さずに資金を得る方法として、補助金、助成金、クラウドファンディングの特徴を解説しました。
    これらはエクイティやデットの代わりではなく「補完」の手段であること、そして後払いの資金は、受け取るまでの資金を別に用意しておく必要があることをお伝えしました。
    これで、第3部「調達方法を選ぶ」は完結です。

    今回のテーマ

    今回から、第4部「資金を管理する」に入ります。

    第1回で、資金調達は着金した瞬間がゴールではなく、むしろそこからがスタートだとお伝えしました。
    第12回となる今回は、その「スタート」のあとに欠かせない、調達した資金の管理を扱います。
    具体的には、毎月どれだけ資金が減っているかを示す「バーンレート」と、調達した資金があとどれだけもつかを示す「ランウェイ」です。

    第5回では、A社の資金計画をもとに、「18か月目に残る資金は約2か月分しかなく、シリーズAの調達活動は12か月目ごろには始める必要がある」とお伝えしました。今回は、その判断を毎月の数字でどのように行うのかを、A社の試算を使って解説します。

    【はじめての資金調達さくせん会議】

    【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】

    なぜ経営者がランウェイを毎月把握すべきなのか

    赤字が続くベンチャー企業にとって、手元の資金が尽きることは、そのまま事業の終わりを意味します。
    どれだけ有望な事業でも、資金がなくなれば、従業員への給与も、取引先への支払いもできなくなるからです。

    さらに見落とされがちなのが、資金が尽きかけてから次の調達に動くことのリスクです。
    第2回でお伝えしたとおり、資金に余裕がない状態で投資家と交渉すると、足もとを見られ、不利な条件を受け入れざるを得なくなります。
    最悪の場合、調達が間に合わないこともあります。

    だからこそ経営者は、「会社の残り時間」であるランウェイを、毎月必ず把握しておく必要があります。
    ランウェイは、会社の健康状態を示すもっとも基本的な数字の1つなのです。

    バーンレート|毎月どれだけ資金が減っているか

    バーンレートとは、会社の資金が1か月あたりにどれだけ減っているかを示す数字です。
    「バーン(燃やす)」という言葉のとおり、資金が燃えていく速さを表しています。
    バーンレートには、次の2つの見方があります。

    • グロスバーン:1か月の間に出ていくお金の総額です。人件費、広告費、家賃など、すべての支出を合計したものです。

    • ネットバーン:出ていくお金から、売上の入金など入ってくるお金を差し引いた、純粋な資金の減少額です。

    A社の場合、シードの調達直後の1か月目は、出ていくお金が約1,390万円、売上の入金が約300万円で、ネットバーンは約1,090万円です(数字はすべて仮のものです)。

    ランウェイを計算する際に使うのは、ネットバーンです。
    ただし、グロスバーンも合わせて見ておくことが大切です。
    売上が伸びてネットバーンが減っていても、グロスバーンが急に増えていれば、支出の管理に問題が生じている可能性があるからです。

    なお、第5回でお伝えしたとおり、PLの赤字と、お金の減り方は一致しません。入金と支払いのタイミングのずれや、消費税、設備投資などがあるためです。
    バーンレートは、PLの赤字ではなく、実際の現預金の増減で見ることが基本です。

    ランウェイ|あと何か月、資金がもつか

    ランウェイとは、今の手元の資金で、あと何か月事業を続けられるかを示す数字です。
    もともとは飛行機の滑走路を意味する言葉で、「飛び立つ(次の調達や黒字化を達成する)までに残された滑走路の長さ」というイメージです。

    基本の計算は「現預金の残高÷ネットバーン」

    ランウェイは、基本的には次のように計算できます。

    ランウェイ = 現預金の残高 ÷ ネットバーン

    たとえばA社の場合、シードの調達直後の現預金は2億円、1か月目のネットバーンは約1,090万円なので、ランウェイは約18か月と計算できます。

    単純な割り算だけでは、実態を見誤ることがある

    ただし、この計算には注意が必要です。
    ネットバーンは毎月一定ではないからです。

    A社のように売上が伸びていく会社では、入金が増えるにつれてネットバーンは小さくなり、実際のランウェイは単純な計算より長くなります。
    反対に、採用を進めて支出が増えていく会社や、売上の伸びが計画より遅れている会社では、ネットバーンが大きくなり、実際のランウェイは単純な計算より短くなります。

    そこで大切になるのが、第5回で作った資金計画をもとに、「この先の毎月のお金の出入りを踏まえると、何か月目に資金が尽きるのか」を計算することです。
    今回は、こちらを「資金計画にもとづくランウェイ」と呼ぶことにします。単純な割り算のランウェイは目安として使い、判断には資金計画にもとづくランウェイを使う、というのが基本です。

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    A社のランウェイを計算してみる

    それでは、A社の資金計画をもとに、現預金の残高がどのように推移するのかを見てみましょう(数字はすべて説明のための仮のものです)。
    ここでは、第5回の資金計画どおりに進んだ場合と、新規の獲得が計画の7割にとどまった場合の2つを比べます。
    7割の場合は、獲得のための費用は計画どおりに使ったものの、獲得できた店舗数だけが計画の7割にとどまった、という想定です。

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    計画どおりの場合

    計画どおりに進んだ場合、A社の現預金は、18か月目の時点で約2,000万円が残ります。
    第5回でお伝えしたとおりです。
    シリーズAの調達をしなければ、約21か月目に資金が尽きる計算になります。

    12か月目の時点で見てみましょう。
    現預金の残高は約7,400万円、その月のネットバーンは約980万円です。
    単純な割り算では、ランウェイは約7.5か月です。
    しかし、売上の伸びとともにネットバーンは小さくなっていくため、資金計画にもとづくランウェイは約9か月になります。

    新規の獲得が計画の7割にとどまった場合

    一方で、新規の獲得が計画の7割にとどまった場合はどうでしょうか。
    売上の伸びが鈍くなるため、ネットバーンは小さくなるどころか、少しずつ大きくなっていきます。
    その結果、資金は約17か月目に尽きてしまいます。
    18か月目のマイルストーンを迎える前に、資金がなくなってしまうのです。

    12か月目の時点では、現預金の残高は約6,000万円、ネットバーンは約1,220万円で、ランウェイは5か月を切っています。
    この時点で次の調達に動き始めても、間に合わない可能性が高くなります。

    グラフから読み取れること

    2本の線を見比べると、調達直後の数か月は、ほとんど差がないことがわかります。
    差がはっきり見えてくるのは、半年が過ぎたころからです。
    つまり、預金の残高を眺めているだけでは、計画とのずれに気づくのが遅れてしまうということです。

    だからこそ、残高だけでなく、毎月のネットバーンと新規の獲得件数を計画と比べ、ずれが小さいうちに気づくことが大切です。
    この「計画と実績を比べる」仕組みについては、次回の第13回でくわしく解説します。

    次の調達に動くタイミングを逆算する

    ランウェイを把握する最大の目的は、次の調達に動くタイミングを、余裕をもって判断することです。

    「何か月を切ったら動くか」を先に決めておく

    調達活動には、投資家との面談、デューデリジェンス、契約の協議、そして着金まで、少なくとも数か月はかかります。
    計画どおりに進まないことも考えれば、余裕も見込んでおく必要があります。

    そこでおすすめしたいのが、「資金計画にもとづくランウェイが何か月を切ったら、次の調達に動き出す」という基準を、あらかじめ決めておくことです。
    たとえば、調達活動にかかる期間を6か月、交渉で足もとを見られないための余裕を3か月と見込むなら、基準は「ランウェイが9か月を切る前」になります。

    A社の場合

    A社がこの基準を使うと、計画どおりに進んだ場合は、資金計画にもとづくランウェイが約9か月になる12か月目に、シリーズAの調達活動を始めることになります。
    第5回で「12か月目ごろには始めておく必要がある」とお伝えしたのは、この考え方によるものです。

    ところが、新規の獲得が計画の7割にとどまった場合は、ランウェイが9か月を切るのが8か月目になります。
    つまり、計画より4か月も早く、調達に動き出さなければならないのです。
    しかも、その時点では計画を下回る実績で投資家と向き合うことになります。

    この差を早く知ることができれば、調達の開始を前倒しする、支出を見直す、借入で資金を足すといった手を、余裕をもって打つことができます。
    ランウェイを毎月確かめる意味は、ここにあります。

    ランウェイを延ばす3つの方法

    ランウェイが想定より短くなりそうなとき、打てる手は大きく3つに分けられます。

    ① 入ってくるお金を増やす、早める

    売上を伸ばすことはもちろんですが、入金のタイミングを早めることも、ランウェイを延ばす有効な手段です。
    たとえばA社のような月額のサービスであれば、年間契約で利用料を前払いしてもらうプランを用意することで、まとまった資金を早く受け取ることができます。

    ② 出ていくお金を抑える

    支出の見直しも欠かせません。
    オフィスの家賃などの固定費や、成果につながっていない広告費を見直すほか、採用のペースを調整することも選択肢になります。
    ベンチャー企業の支出の多くは人件費であるため、採用を数か月遅らせるだけでも、ランウェイは大きく変わります。

    ③ 資金を足す

    第9回でお伝えしたように、借入を組み合わせることで、ランウェイを延ばすことができます。
    A社の試算では、3,000万円の借入を上乗せすることで、18か月目に残る資金が約2か月分から約5か月分に増えました。
    第11回の補助金や助成金も、条件が合えば選択肢になります。

    借入は、資金に余裕があるうちのほうが借りやすいものです。
    ランウェイが短くなってから慌てて相談するのではなく、早めに金融機関との関係をつくっておくことが大切です。

    「いざというときの計画」を事前に決めておく

    もう1つおすすめしたいのが、計画どおりに進まなかったときに、どの支出を、どの順番で抑えるのかを、あらかじめ決めておくことです。

    資金が厳しくなってから支出の削減を考えると、判断が遅れたり、本来守るべき投資まで削ってしまったりしがちです。
    「ランウェイが◯か月を切ったら、まず広告費を抑え、次に採用を止める」というように、段階ごとの打ち手を平時のうちに決めておけば、いざというときにも落ち着いて判断できます。

    毎月確かめる仕組みをつくる

    ランウェイの管理で大切なのは、一度計算して終わりにせず、毎月同じ形で確かめ続けることです。
    具体的には、次の3つの数字を毎月確認することをおすすめします。

    1. 現預金の残高:月末時点の手元の資金

    2. ネットバーン:その月に減った資金の額と、計画との差

    3. 資金計画にもとづくランウェイ:最新の実績を踏まえて見直した、資金が尽きるまでの月数

    この3つを1枚の資料にまとめ、毎月の経営会議や取締役会で共有する習慣をつくりましょう。
    株主である投資家にも定期的に報告しておくと、いざ追加の支援が必要になったときにも、話がスムーズに進みます。

    ランウェイの管理でよくある失敗

    最後に、ランウェイの管理でよく見かける失敗を4つ紹介します。

    1. 単純な割り算のランウェイで安心してしまう:売上の伸びが計画より遅れている会社では、実際のランウェイは単純な計算より短くなります。判断には、資金計画にもとづくランウェイを使いましょう。

    2. 預金の残高だけを見て、バーンレートの変化を見ていない:A社のグラフで見たように、残高の差がはっきり見えてくるのは、ずれが生じてからしばらくたったあとです。毎月のネットバーンと、その内訳の変化に目を向けることが大切です。

    3. 調達活動の期間中も、資金が減り続けることを見込んでいない:調達活動を始めてから着金するまでの数か月間も、資金は減り続けます。その期間の資金が足りるかどうかまで見込んでおく必要があります。

    4. 採用を前倒しした結果、バーンレートが急に増えたことに気づかない:採用が想定より早く進むのは喜ばしいことですが、そのぶん人件費は早く増えます。採用の進み具合も、ランウェイと合わせて確かめましょう。

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    まとめ

    今回のポイントは、次の3つです。

    1. バーンレートは毎月どれだけ資金が減っているかを、ランウェイはあと何か月資金がもつかを示す。ランウェイの計算にはネットバーンを使い、PLの赤字ではなく実際の現預金の増減で見る

    2. 単純な割り算のランウェイは目安にとどめ、判断には資金計画にもとづくランウェイを使う。売上の伸びが遅れると、ランウェイは想定よりずっと短くなる

    3. 「ランウェイが何か月を切ったら次の調達に動くか」という基準と、計画どおりに進まなかったときの打ち手を、平時のうちに決めておく

    自社のランウェイの管理を確認するためのチェックリスト

    • 毎月の現預金の残高、ネットバーン、ランウェイを把握しているか

    • グロスバーンとネットバーンの両方を確かめているか

    • バーンレートを、PLの赤字ではなく実際の現預金の増減で見ているか

    • 単純な割り算ではなく、資金計画にもとづくランウェイを計算しているか

    • 売上の伸びが計画を下回った場合のランウェイを試算しているか

    • 「ランウェイが何か月を切ったら次の調達に動くか」という基準を決めているか

    • 計画どおりに進まなかったときに、どの支出をどの順番で抑えるかを決めているか

    • ランウェイを、経営陣や株主と定期的に共有しているか

    次回予告

    次回は「資金繰り表と予実管理|事業計画を『作って終わり』にしない」です。今回のランウェイの管理を支える日々の道具として、資金繰り表の作り方と、事業計画と実績を比べて打ち手につなげる予実管理の進め方を解説します。

    お問い合わせ・ご相談について

    「はじめての資金調達、何から準備すればいいのかわからない」「次のラウンドに向けて、3点セットをきちんと作り込みたい」とお考えの経営者様へ。

    弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
    銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
    この連載でお伝えしてきた内容を、貴社の実情に合わせて、一つずつ形にしていくのが私たちの仕事です。

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    社長の「右腕」になる社外CFO。メガバンク出身。プライム上場企業執行役員経験。中堅中小企業には銀行との付き合い方を、ベンチャー企業には資金調達と成長の財務戦略を。銀行・コンサル・上場企業の現場で見てきた「お金の勝ち筋」をnoteで発信中。

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