
3_ゲームの値段の決め方|市場価格はいくらで、その中でどう決めるか
本記事は、自分のゲームの値段を決める立場にある人に向けて書いています。個人開発者、小規模スタジオの代表、そしてF2P(基本無料)タイトルの課金設計を見ている人です。
本記事は連載形式で展開しています。
1回目|ゲーム企画書の書き方
2回目|ゲーム開発の予算の決め方
前回の記事では、開発予算の決め方を書きました。そのなかで「1本あたりの手残り」という数字を使いましたが、今回はその手前の話です。
そもそも定価をいくらにするのか。
話は二つに分けます。前半では、Steam、コンシューマ、F2Pという異なる市場で、価格がどのように動いているかを見ます。
後半では、その市場の中で自分のゲームをどのような回収モデルで売るのかを決めます。
先に断っておきます。価格の決め方に正解はありません。ここに書くのは、公開されているデータと、私が20年以上ゲームの現場で見てきたことからの解釈です。
扱うのはSteamの買い切りゲーム、コンシューマ向けの買い切りゲーム、そしてソーシャルゲームの課金設計です。スマートフォンの有料アプリ、すなわちアプリそのものを買い切りで売るモデルは、今回は扱いません。
はじめに|安くすることは、安全策ではない
値段を決めるとき、多くの人が最後にこう考えます。
とりあえず安くしておこう。高くて売れなかったら怖いから。
気持ちは分かります。私も同じことを考えたことがあります。ただ、安くすることは安全策ではありません。
Steam市場を分析するGamalyticの2023年の推定では、Steamのゲームの67%は生涯グロス収益が5,000ドル未満で、50%以上は1,000ドル以下でした。ここでいうグロス収益はValveの手数料を引く前の数字で、DLCやアプリ内課金は含みません。また、同社独自のアルゴリズムで推定した数字であり、各タイトルの実売公表値ではありません。
市場の大半は、すでに安い。あとで数字を出しますが、無料を除いても六割以上が10ドル未満という観測があります。
そこへ、理由もなくさらに安く出しても、同じ場所に並ぶだけです。
安くすることが間違いだと言いたいわけではありません。安さは「数を取る」戦略です。数を取る算段があるなら、正しい選択になります。ただ、算段がないまま安くするのは、戦略ではなく逃げ場になりやすい。
その判断をするために、まず市場のほうを見ます。
第Ⅰ部|市場はいま、どのように価格が動いているのか
Ⅰ|Steamの価格
まずSteamです。Steamは、PC向け買い切りゲームがもっとも多く集まり、個人開発者も直接販売できるプラットフォームです。
6割以上が10ドル未満だった
Steamのマーケティングを分析しているChris Zukowskiは、VGInsightsのデータを用いて価格分布を紹介しています。これは2022年に公開された記事であり、現在の市場構成をそのまま示すものではありません。ただし、低価格帯にゲームが集中していた構造を知る材料にはなります。
同記事が示した構成では、2018年時点で無料が21%、無料以外で4.99ドル未満が46%でした。また、記事執筆時点の前年には、無料を除いたインディーゲームの62%が10ドル未満だったとされています。
インディーゲームの平均価格は、同氏の集計では2006年の5.20ドルから、2022年には約7.20ドルへ上がりました。16年で約2ドル、約40%の上昇です。同じ記事では、AAAタイトルの平均価格は当時33ドルで、10年で大きく上昇したと指摘されています。
ここから「インディーは絶対に値上げできない」と結論づけることはできません。ただ、低価格帯にタイトルが密集し、比較対象も安く見えやすい市場であることは、値付けを考える出発点になります。
定価だけでは、Steamの売れ方を見誤る
Steamには、値引きが購入のきっかけとして働きやすい構造があります。Zukowskiは実務家として、Steamでは値引き販売を前提に価格を考えるべきだと強く主張しています。これは市場の絶対法則ではなく、彼のデータ観察と経験に基づく助言です。
Steamworksの公式資料によると、20%以上の割引はウィッシュリストに登録したユーザーへの通知を自動的に発生させます。ただし、値引きをいつでも繰り返せるわけではありません。通常の値引きには原則30日のクールダウンがあり、Steam全体の季節セールには例外があります。実施時には必ず公式ルールを確認してください。
だからSteamの相場を見るときは、定価だけでは足りません。同じ棚に置かれるゲームが、最終的にどの価格で売られているか、どの頻度で値引きされ、どの時点で最安値に到達したかまで見ます。
Ⅱ|コンシューマの価格
次にコンシューマです。ここでは、家庭用ゲーム機向けの買い切り販売を指します。新作の定価水準はある程度維持されている一方で、売り方と儲かり方の両方が変わっています。
パッケージだけを見て、価格は決められない
カプコンの2026年3月期の実績では、ゲームソフト販売本数5,907万本のうち、デジタル販売は5,493万本で93.0%、パッケージ販売は413万本で7.0%でした。これはカプコン一社の実績であり、業界全体を代表する数字ではありません。ただ、デジタル販売が主戦場になっていることを示す強い事例です。
国内市場では、2024年の家庭用ゲーム市場は前年比25.4%減の3,013億円で、パッケージ版ソフトに限ると17.9%減の1,119億円でした。ここにはダウンロード販売を含まないため、デジタルを含む市場全体の減少を意味する数字ではありません。あくまで、パッケージ市場の縮小を示すものです。
デジタル販売が中心になると、価格は「一度決めて終わり」の数字ではなくなります。プラットフォームの規則と販売計画の範囲内で、地域、時期、セール、セット販売に応じて機動的に動かせる数字になります。
安く長く売れる作品は、収益性が高い
カタログタイトルとは、前期以前に発売した作品を、その後も継続して販売する呼び方です。新作と違い、開発費や発売時の大きなマーケティング費をすでに回収している場合があります。そのため、単価を下げても利益を積み上げやすい。
カプコンの2026年3月期では、リピート作、すなわち前期以前に発売した作品の販売本数は4,946万本となり、前期の3,949万本から約1,000万本増えました。長期販売、デジタル流通、価格施策を組み合わせて収益を積み上げるモデルの象徴的な事例です。
これは責めるような話ではありません。完全に合理的な戦略です。初期コストを回収した作品を、価格を下げながら長く売るほうが、収益を出しやすい。私が同じ立場なら、同じことを考えます。
問題は、その価格が新作の比較対象になること
カタログタイトルの低価格は、初期コストを回収した後の価格です。だから安くできます。しかし遊ぶ側からは、新作かカタログか、どこまで開発費を回収済みかは見えません。ストアに並んでいるのは、同じ「ゲーム」です。
その結果、これから開発費を回収しなければならない新作が、すでに回収し終えた作品の価格と比べられます。原価の構造はまったく違う。それでも同じ棚で比較される。この構造は、値付けを難しくします。
私の見立てでは、「どうせすぐ安くなる」と考えて購入を待つ行動は増えやすいと思っています。これは公開データだけで確かめた事実ではなく、現場感覚と市場観測を重ねた推測です。ただ、この見方が当たっているなら、新作の定価を通す難しさは増していきます。
Ⅲ|ソーシャルゲームの課金単価
三つ目はソーシャルゲームです。ここは私が長くやってきた領域なので、自分の経験を書きます。
市場は300円、私は500円で作っていた
私はソーシャルゲームの課金設計を長くやってきました。ガチャの単価を決めるのも仕事の一つでした。ガチャとは、お金を払うと中身がランダムに出てくる仕組みです。
当時、市場では1回300円程度の価格が広く使われていました。私は500円を基準に設計していました。相場より約67%高い設定です。
「作っている体験が濃いから、高くても払ってもらえる」と考えたわけではありません。理由は二つです。自分の客が誰なのかを知っていたこと。そして、高い単価でも成立する回収構造を作れると判断していたことです。
300円は、別の客層の数字だった
当時の300円という相場は、広く長く遊ばれるカジュアルなタイトルが作っていた水準でした。たくさんの人が短い時間ずつ遊び、少額を広く積み上げる。そこでは低い単価が合っています。
私が作っていたのは、コアなRPG体験が中心のタイトルでした。遊ぶ人の数は相対的に少なくても、深く長く付き合ってくれる人に向けていた。だから300円という市場平均は、私の客にとっての価格ではありませんでした。
同じ「ソーシャルゲームのガチャ」という括りでも、中で成立している商売は違います。市場価格を見るときは、まず「誰の価格か」を見ます。平均だけを取ると、自分の客ではない人の財布に合わせた数字になります。
Ⅳ|私の見立て|中価格帯の買い切りゲームは、値付けが難しくなる
三つの市場を見てきました。ここで、この先についての私の見立てを書きます。
私は、中価格帯の買い切りゲームは、これからも値付けが難しくなる方向に動くと見ています。Steamの低価格帯への集中、デジタル流通の拡大、カタログタイトルの長期セールが同時に進むためです。
加えて、基本無料ゲーム、セール、サブスクリプションに慣れた人ほど、「ゲームは安くて当たり前」と感じやすくなるかもしれません。娯楽に回すお金がどう変わるかも、価格の受け止め方に影響します。ここは統計から一意に導ける結論ではありません。現場感覚と市場観測を重ねた、私自身の見立てです。
個人的には、買い切りゲームほど時間あたりのコストパフォーマンスが高い娯楽は少ないと思っています。数千円で数十時間遊べる。しかし比較される相手は映画や飲み会ではなく、無料ゲームやセール中の別のゲームです。同じゲームの棚で比べられる限り、時間あたりの単価が安いという主張だけでは選ばれにくい。
下がる方向に動く市場で平均に合わせ続ければ、自分の価格も下がり続けます。そこで必要になるのが、後半の話です。
第Ⅱ部|その中で、あなたはどう決めるか
第一部で見たのは、どの市場・流通モデルで売るかという話です。ここからは、その市場を選んだ後に、単価と客数をどう組み合わせ、どの規模で回収するかという話に移ります。市場区分と回収モデルは別の軸ですが、価格はその二つをつなぎます。
Ⅴ|客数で取るか、単価で取るかを先に選びます
ここが今日いちばん書きたいところです。価格を決めるとは、客数で取るか、単価で取るかを選ぶことです。
二つの型は、必要なものが違う
客数で取る型は、安く、広く、回数で成立させます。1人あたりの金額が小さいため、必要なのは母数と、何度も戻ってくる仕組みです。人数が減った瞬間に崩れやすいので、集客と継続の設計に力を入れることになります。
単価で取る型は、高く、狭く、濃さで成立させます。必要なのは体験の密度と、その金額を払う理由です。人数が少なくても回りますが、1人が離れたときの穴は大きい。だから満足度と関係の設計に力を入れます。
どちらが正しいという話ではありません。先に選ばないと、価格が決まらないという話です。
選ばずに平均を取ると、どちらの設計も立たない
客数も単価も両方欲しくて市場平均に寄せると、集客の設計としては足りず、濃さの設計としても足りない中間地帯に落ちます。安いから母数が要るのに、母数を作る仕組みがない。高くないから濃さで支える必要がないと思い、密度も作らない。
これがいちばんよくない形だと思っています。
安くするなら、成立条件がある
周りが安いから合わせる。それ自体は間違いではありません。市場の水準を大きく外した価格では、そもそも比較してもらえないことがあります。
ただ、安くするなら、少なくとも次のいずれかの理由を持っていたほうがいいと私は考えています。
数を取れる前提があること。すでにいるフォロワー、読者、流通、話題化の仕掛けなど、母数を作る手段がある。
次の高額商品や正式版へのつなぎであること。安い1本目は利益が出なくてもよいが、次でどう回収するかが決まっている。
将来に使える接点を蓄積すること。レビュー、ウィッシュリスト、フォロワー、コミュニティ、次作を知らせられる接点を取りにいく。
逆に言えば、このどれにも当てはまらないなら、安くする理由をもう一度考えたほうがいい。ここにあるのは一般則ではなく、私が実務で使ってきた判断基準です。
比較対象は、平均ではなく「同じ棚のもの」で見る
回収モデルを選んだあとに、はじめて比較対象を見ます。Zukowskiは、同じジャンル、同じ規模で、過去3年以内に出たタイトルを並べる方法を勧めています。大ヒットだけでなく、伸びなかった作品や、目立たないが売れている作品も含めて、10本程度を見る。
市場全体の平均ではなく、自分と同じ棚に置かれるものを見るという方法です。さらに割引履歴をSteamDBなどで追い、どの頻度で割引し、最低価格にいつ到達したかを見る。そうして初めて、自分の棚の「実売価格の相場」が分かります。
比較対象より20%高く置く、期待値が非常に高いなら50%上乗せする、というのはZukowskiの助言です。その数字をそのまま使う必要はありません。重要なのは、市場平均ではなく、選んだ客層と比較対象から価格を決める順番です。
Ⅵ|価格を決めることは、設計を背負うことです
500円で出すと決めた瞬間に、やることが増えます。500円の価値がある中身を作る責任が発生するからです。
1回500円のガチャなら、1回引いたときに得られるものが、300円のガチャと同じでは成立しにくい。1回で手に入るものの重さ、何回引けば目的に届くのかという見通し、更新の頻度を考える必要があります。単価が高いほど、ユーザーは1回の判断に時間をかけます。考えた結果として引いてもらうには、引く理由が要ります。
買い切りでも同じです。20ドルで出すと決めたなら、7ドルのゲームと同じ分量・完成度・対応言語・サポート範囲では比較に耐えにくい。価格が上がると、比べられる相手も上がります。
逆に安くするなら、回数や継続が前提になります。1回で回収できないので、何度も戻ってくる仕組み、更新、コミュニティ、あるいは次作につながる導線が必要です。安いほうが設計が楽になるわけではありません。必要な設計が別のものになるだけです。
だから価格は、最後に決めるものではありません。設計と一緒に決まるものです。
Ⅶ|手残りから逆算して、回収できるか確かめます
最後に、決めた価格を数字で点検します。手に入るのは定価ではありません。
プラットフォームの手数料、税、返金、セール時の値引き、為替による目減り。これらを引いたあとに残るのが「手残り」で、開発費の回収に回せる1本あたりの金額です。
たとえば2,000円で売るSteamタイトルなら、手数料30%を引いて1,400円です。説明のために1,000円前後と仮置きすることはできますが、これは相場ではありません。販売地域、価格設定、返金率、セール比率、税の扱いによって、手残りは変わります。自分の条件で入れ直してください。
1,000万円を回収するのに、何本必要か
開発と販売促進に1,000万円かけたゲームを、Steamで売るとします。以下は比較のための単純化した試算です。手数料30%と返品率0.5%だけを置き、税、為替、セールの値引きは入れていません。
定価 × 0.7(手数料30%を引く)× 0.995(返品0.5%を引く)= 1本あたりの手残り
定価500円 → 手残り約348円 → 1,000万円 ÷ 348円 = 約28,700本
定価1,000円 → 手残り約696円 → 1,000万円 ÷ 696円 = 約14,400本
定価2,000円 → 手残り約1,393円 → 1,000万円 ÷ 1,393円 = 約7,200本
定価3,000円 → 手残り約2,090円 → 1,000万円 ÷ 2,090円 = 約4,800本
500円と3,000円で、同じ1,000万円を回収するための必要本数は6倍違います。
ただし、単純に高くすればよいわけではありません。定価を上げれば、見込み客数も減ります。見るべきなのは、必要本数の下がり方と、見込み客数の下がり方のどちらが大きいかです。必要本数の下がり方が大きければ、値上げは通る可能性がある。見込み客数の下がり方が大きければ、通りません。
この計算は当たりません。前回の記事に書いたとおり、予算計画は前提を置いたシミュレーションです。それでも、「値上げがなんとなく怖い」で判断するのか、必要本数と見込み客数の往復で判断するのかで、結論の質は変わります。
28,700本は、どれくらいの難易度か
数字だけ見てもピンと来ないので、市場と並べます。1,000万円は1ドル150円で約6.7万ドルです。ZukowskiはSteamの収益を自身の経験則でティアに分け、1万ドルまでをBronze、1万〜24.9万ドルをSilverとしています。Silverは副業や趣味なら利益といえるかもしれない、という位置づけです。
また同氏は、25万ドル以上を稼ぐゲームではSteam上の露出が増えやすいと経験上感じていると書いています。これはSteam公式の仕様ではありません。
500円で28,700本という数字は、こうした市場の分布と並べると、決して軽い目標ではないと分かります。
Ⅷ|安く売るなら、キャッシュと作るコストを見る
必要な本数が出たら、次はその本数がいつ積み上がるのかを考えます。ここで、利益率とは別の話が出てきます。キャッシュフローです。
少額商品は、1件あたりの回収が小さいため、投じたコストを回収し終わるまでに時間がかかります。28,700本は、発売初月に全部売れる数字ではありません。何か月、何年かけて積み上がるのかを考える必要があります。
その間も、お金は出ていきます。生活費、次の作品の準備、不具合対応、アップデートの人件費。利益率の計算では成立していても、手元の現金が尽きれば、その計算に到達する前に終わります。利益の話とキャッシュの話は別のものです。
問題は価格ではなく、その価格に対して作りにかけた額
少額商品そのものが悪いわけではありません。危ないのは、その少額商品を生み出すための工数とコストが大きすぎる場合です。
500円の商品を作るのに1,000万円かけたなら、それは少額商品ではありません。少額で売っている、高コスト商品です。だから安く売るなら、安く作れていなければなりません。
釣り合っていない場合に取れる道は二つあります。
一つは、外れたときの許容損失を計算したうえで、リスクを承知してやること。もう一つは、回収に何年かけるのか、その間の資金をどこから持ってくるのか、何をもって回収完了とするのかを先に決めることです。
前に挙げた「次へのつなぎ」と「接点の蓄積」は、この長期戦略の具体的な形です。どちらも用意できないなら、低価格での継続はかなり難しいと思っています。
Ⅸ|定価は、セール後の価格を決める天井
最後に、決めた定価がそのあとどう扱われるのかを見ます。
Steamでは、定価は実際に売れる価格の天井として働きます。10ドルのゲームを半額にすれば5ドルですが、20ドルのゲームを半額にしても10ドルです。同じ割引率でも、着地点が変わります。
逆に高く置きすぎると、定価では売れず、セール時だけ売れる状態になります。定価が強すぎても、弱すぎても、値付けの意味が薄れます。
Zukowskiは、早い段階で深く値引きすると、より高い価格で買った可能性がある人にも安く売ることになると説明しています。Steamworksの公式資料も、値引きを時間とともに段階的に深くしていく考え方を紹介しています。
定価、発売時の値引き、最初の季節セール、その後の最安値。この流れを発売前に考えておくと、定価をどう置くべきかが見えやすくなります。
おわりに|価格は、客を選ぶ行為
前半で見たのは、市場の現実です。Steamには低価格帯のタイトルが多く、デジタル流通が価格を動かしやすくし、カタログタイトルは安く長く売ることで収益を積み上げます。
問題は、初期コストを回収した作品の価格と、これから回収する新作が同じ棚で比べられることです。市場全体の価格がどう動くかについて、私は厳しい方向を見ていますが、これは統計の結論ではなく私の見立てです。
だから後半は、平均から離れる話でした。客数で取るか、単価で取るかを先に選ぶ。選んだあとに、同じ棚の比較対象を見る。定価を決めたら、手残りから必要本数を逆算する。必要本数がいつ積み上がるかを見て、キャッシュが持つかを考える。そして、セール後の価格まで含めて定価を置く。
いちばん短くて効く実践を一つ置いておきます。
次に値段をつけるとき、「市場はいくらか」を調べる前に、「私は客数と単価のどちらで取るか」を1行書いてみる。
この1行が決まると、比べるべき相手が決まりやすくなります。
比べるべき相手が決まると、定価が決まります。定価が決まると、必要な設計と回収に必要な本数が決まります。
価格は、客を選ぶ行為です。安くすれば多くの人が買いやすくなりますが、それは「多くの人に向けて作る」と決めたときに初めて意味を持ちます。決めていないなら、安くする理由はありません。
業界のために価格を守るのではなく、自分が次の1本を作れるようにするために、選んだ価格を守る。それだけです。
最後に一つ聞かせてください。あなたは自分の作品の値段を、何から決めましたか。市場に合わせたか、原価から積んだか、それとも客の顔から決めたか。コメントで教えてもらえるとうれしいです。値段の話は、みんな決めているのに、決め方をあまり話さない領域だと思っています。
※本文のうち、「客数で取るか単価で取るかを先に選ぶ」という整理、「価格と設計は同時に決まる」という見方、必要本数と見込み客数の下がり方を比べる判断、カタログ価格が相場になることで新作が圧迫されるという見立ては、研究や統計の結論ではなく、私の現場経験からの解釈・提案です。
参考資料
[Ⅰ]Chris Zukowski「Are indie games too cheap?」How To Market A Game、2022年8月17日
https://howtomarketagame.com/2022/08/17/are-indie-games-too-cheap/
[Ⅱ]Chris Zukowski「4 tips to help you price your indie game」How To Market A Game、2022年8月23日
https://howtomarketagame.com/2022/08/23/4-tips-to-help-you-price-your-indie-game/
[Ⅲ]Steamworks Documentation「Discounting」
https://partner.steamgames.com/doc/marketing/discounts
[Ⅳ]Gamalytic「Steam video game market report」2023年。Game World Observerによる集計方法・収益概念の補足も参照。
https://gamalytic.com/blog/steam-revenue-infographic
https://gameworldobserver.com/2023/10/06/steam-stats-41k-games-last-3-years-half-made-500-or-less
[Ⅴ]Mike Rose(No More Robots)のインタビュー「The idea that the longer you spend on a game the more money it will make is just a complete fallacy」Game World Observer、2021年9月14日
https://gameworldobserver.com/2021/09/14/no-more-robots-mike-rose-the-idea-that-the-longer-you-spend-on-a-game-the-more-money-it-will-make-is-just-a-complete-fallacy
[Ⅵ]株式会社カプコン「コンシューマ販売本数 | データ集」2026年5月13日現在。2026年3月期の総販売本数5,907万本、デジタル販売比率93.0%、リピート本数4,946万本、新作本数960万本を掲載。
https://www.capcom.co.jp/ir/business/title.html
[Ⅶ]「2024年国内家庭用ゲーム市場規模(店頭販売分)は3,013億円 ~『ファミ通』マーケティング速報~」KADOKAWAグループ、2025年1月16日
https://group.kadokawa.co.jp/information/promotional_topics/article-11464.html
[Ⅷ]Chris Zukowski「Benchmarks for selling a game on Steam」How To Market A Game、2022年9月25日
https://howtomarketagame.com/2022/09/25/benchmarks-for-selling-a-game-on-steam/
あわせて読む
インディーだけじゃない。4000万円予算のゲーム開発が行き詰まった構造と、同じ失敗を避ける方法
https://note.com/ukyousan/n/nc68ea5638ff2
運営型モバイルゲームが生き残りづらい構造的理由と、その突破口
https://note.com/ukyousan/n/n68014445fb7f
ゲーム企画書、仕様書の書き方、フォーマットをご紹介
https://note.com/ukyousan/n/neea2e631702b