
インディーだけじゃない。4000万円予算のゲーム開発が行き詰まった構造と、同じ失敗を避ける方法
これは、他人事ではない
先日、あるインディーゲーム開発の失敗談が、なるにぃ様のXで大きな話題を呼びました。クラウドファンディングで約5000万円を集め、そのうち約4000万円を投じたゲームプロジェクトが、4年の開発を経ても実質的な完成には程遠く、当初の体制では事実上のやり直しが必要な状況にある、という衝撃的な内容です。
この話を聞いて「インディー開発だから起きた特殊なケースだろう」と感じた方もいるかもしれません。しかし、そんなことはなく、これはゲーム開発に内在する、非常に普遍的なリスクが表面化した1つの事例だと考えています。
大前提として失敗は起きる。その時どう向き合うかが大事
こうした失敗が起きると、プロジェクトオーナーが悪い、開発者が悪い、ディレクターが悪いと、特定の誰かに原因や責任を追及しがちです。しかし、プロジェクトの失敗は「誰か一人の失敗」ではなく、プロジェクトオーナーとチーム全体が負うべき課題だと考えています。
責任の転嫁は無意味です。「あの人が悪かった」で終わらせても、次のプロジェクトで同じ失敗を繰り返すだけです。重要なのは、なぜそうなったのか、どうすれば防げたのかという構造的な問題を理解し、次に活かすことです。この認識を持つことが、プロジェクトを成功に導く第一歩だと考えています。
モバイルゲームという観点ですが、こちらの記事でもゲーム開発が破綻する理由について具体的に言及しています。 運営型モバイルゲームが生き残りづらい構造的理由と、その突破口
筆者の経験から感じた未完成の対策
私自身、プロデューサーとしてもイチ企画者としても、個人・法人問わず、複数の案件に関わりました。残念ながら予算の大小を問わず、同じ構造でプロジェクトが停滞し、未完成のまま数年が経過してリリースされないタイトルをいくつも見てきましたし、実際にやってしまったこともあります。
(別プロジェクトですが、最大で10年を棒に振った知人も多く見てきました)。
今回はこの事例を入口に、なぜゲーム開発はこれほどまでに頓挫しやすいのか、その構造的な問題と対策を解き明かします。 特に「開発知識がない起案者・プロデューサー」がチーム開発・外部委託で失敗を避けるための、IT業界の知見も交えた具体的で実践的な対策を徹底解説します。
1|失敗の構造学 - なぜプロジェクトは破綻するのか?
今回の事例の第三者レポートを詳しく見ていくと、いくつかの典型的な「失敗の兆候」が浮かび上がってきます。これらは多くの頓挫するプロジェクトに共通する危険信号です。
▼ 失敗原因の見立て:各方面からの指摘
ネット上では、この失敗の原因について、様々な立場からの意見が飛び交いましたが大きくは下記の3点について触れられています。
コミュニケーション不足
チーム内での意思疎通が決定的に欠けていたのではないか。進捗のブラックボックス化
開発が実際にどこまで進んでいるのか、誰も正確に把握できていなかったのではないか。責任の所在の曖昧さ
誰が最終的な意思決定を下すのか、その権限と責任が不明確だったのではないか。
これらの指摘は、どれも的を射ています。しかし、これらは表面的な症状に過ぎません。本当の問題は、これらがなぜ起きるのかという、より深い層にあります。
▼ 隠された動機:「プロジェクト継続=収入確保」という心理的インセンティブ
今回の事案とは直接関係しませんが、開発案件でよく見られる構造的な問題として紹介します。
ゲーム開発を外部に依頼する場合、開発会社やフリーランスにとって、そのプロジェクトは単なる仕事ではなく生活を支える収入源です。ここに、構造的な問題が潜んでいることがあります(※すべてのケースに当てはまるわけではありません)。
「プロジェクトが破綻する=収入が減る、またはなくなる」という現実は、開発側の心理に強く働きます。結果として、無意識のうちにプロジェクトを継続させるモチベーションが優先されやすくなります。
この心理状態の下では、以下のようなことが起こりやすくなります。
◆「ダメなことをダメと言わない」
実装が難しい要件が出てきても、「これはできません」と明確に言わない。代わりに、曖昧な返答や「工夫してみます」といった非承諾的な返事をする。
◆「不都合な真実を隠蔽する」
予定通りに進んでいない、バグが多発している、技術的な問題が解決できていない——こうした不都合な事実があっても明確に報告しない。「なんとかしています」「大丈夫です」という言葉で煙に巻く。
◆「進捗報告を避ける」
「まだ見せられる段階ではない」「もう少し待ってください」という言葉で、実際の進捗状況の確認を先延ばしにする。
これらは決して開発側が悪意を持って行っているわけではありません。プロジェクト継続という経済的な圧力の下で無意識に起きてしまう心理的な防衛機制なのです。あるいはシンプルに技量不足で問題解決できない、何が問題か分からないまま時間をかけすぎているケースもあります。
逆のケースも頻繁に起こります。
非開発者の権威者が無理難題を言い続け、都度仕様が変わる。その仕様が見えるまで納得しない、だから開発が進まない——このパターンも非常に多いです。
開発未経験側と受注側というパワーバランスが働きすぎてしまうことも、トラブルの原因になりやすい典型例です。
▼ プロジェクトオーナーの脆弱性:未経験と多忙が生み出す「判断停止」
ここで問題を複雑にするのが、プロジェクトオーナー(起案者やプロデューサー)の状況です。
プロジェクトオーナーが開発経験を持たないと、開発側の「曖昧な返答」が本当の進捗なのか、それとも問題を隠蔽しているのか判断できません。「専門家がそう言っているなら、そうなんだろう」という思考停止に陥りやすくなります。
また、他業務に忙殺されている場合や複数のプロジェクトを抱えている、あるいは本業が忙しい場合、プロジェクトの進捗を細かくチェックする時間や余裕がなくなります。結果として「とりあえず大丈夫だろう」という楽観的な判断に頼ってしまいます。
この状況では、プロジェクトオーナーは開発側の曖昧なコミュニケーションに対して抵抗力を持てません。むしろ、「ダメなことをダメと言わない」という開発側の心理と、「判断停止」というオーナー側の脆弱性が完全に一致してしまうのです。
▼ 「気づいた時には遅い」という悪循環
こうした状況が数ヶ月、あるいは数年続くと、どうなるでしょうか。
実は、プロジェクトの内部ではすでに深刻な問題が積み重なっています。実装が進んでいない、技術的な問題が解決できていない、チーム内の士気が低下している——こうした問題は言語的なコミュニケーションの曖昧さの中に隠されたままです。
そして、ある日、プロジェクトオーナーが「実際に動くものを見せてほしい」と要求した時、初めて真実が明らかになります。
「実は、まだこの部分は実装されていません」 「この要件は、技術的に実現が難しいことが分かりました」 「予算が足りなくなる可能性があります」
——こうした言葉が、一気に飛び出してきます。
しかし、この時点ではもう手遅れです。予定していた納期は過ぎ、予算は底をつき、チームのモチベーションも失われている。プロジェクトオーナーはようやく問題の深刻さに気づきますが、その時にはプロジェクトを救う手段はほぼ残されていないのです。
これが、「進捗を報告したくない空気」が生まれた瞬間に、プロジェクトは破綻への道を突き進み始めるという、私の経験から導き出した結論です。この悪循環は決して特定の個人の失敗ではなく、法人クラスでもシステム的に起きやすい問題なのです。
実際、市場を眺めると「未完成感が強いままリリースされたタイトル」が少なくないことは、肌感覚としても感じやすいと思います。
表に出ているタイトルだけでもこれだけあるので、リリースに至らず予算だけが消えていったプロジェクトは、その倍以上あってもおかしくないと想像しています。
2|破綻を防ぐための超具体策 - IT業界の知見に学ぶ
では、どうすればこの「失敗の構造」から抜け出せるのか。
ここからは、ゲーム開発の現場で明日から使える具体的で実践的な対策を、IT業界で培われたプロジェクト管理手法も参考にしながらご紹介します。すべてが活用できるわけではありませんが、参考になる部分はぜひご活用ください。
鉄則1:契約書を「最初の防衛線」とせよ
【前提】 ※鉄則1は参考として、以下のようなケースを想定しています。プロデューサーまたは起案者(がいる個人・法人)が、外部の開発者または開発会社に委託するケースとします。ただ、開発以外のことにも応用できます。インディー界隈ではあまり取り交わさない文化かもしれませんが、大きなお金を動かすためには細かい取り決めが重要です。
プロジェクト起案を行う個人または法人(プロデューサー側)が、その実装を外部に委託する際にどのような契約を結ぶべきかについての事例を紹介します。
私の場合は、インディーゲーム開発の一部リソースを外部に委託する際も細かく契約書を交わします。それは双方の約束をお互い合意する、責任を持って取り組もうという意思表示だと考えているからです。
特に外部に開発を依頼する場合、契約書は単なる事務手続きではありません。これはプロジェクトの成功を左右する最初の、そして最も重要な防衛線です。契約書は「進捗を報告したくない空気」を物理的に抑止し、双方の破綻を防ぐ最初のセーフティネットと言っても過言ではありません。
▼ ステップ1:事前に仕様と全体像を決める
成果物を定義するためには、事前に仕様と全体像をある程度決めておく必要があります。これは「何を作るのか」を明確にし、「成果物の曖昧さ」を根本的に解決するステップです。
次のような事項を事前に決めておきましょう。
コアメカニクスとその実装担当者
「ゲームの面白さの核は何か」を明確にすること。企画概要書、仕様書作成の叩きを設計し、それをベースに対話します。もちろん、開発中に変更することはよくありますので、変わるときや変わった後の承認フローも明確にしておきます。また開発に関わる人をバイネームで明確にしておくことも必要です。途中で離脱されると大打撃を受けやすくなるため、後述しますが、担当変更または降りる場合の撤退ラインも明確にしておきます。
スコープの担当者を明記する(できれば)
開発会社だけに限りませんが、各パート単位でも似たようなことを決めて契約を交わします。
仕様書・企画概要書には当たり前ですが最低限の情報を盛り込みます。ゲームプレイの流れ、簡単な設計や仕様、画面レイアウトのラフ、世界観、コンセプト、ゲームバランスの概算など。分かる範囲で全体像を可視化しましょう。これも契約書の添付書類として取り扱います。
▼ ステップ2:マイルストーンを細かく分割し、調整を前提にする
次に、仕様を基にマイルストーンを細かく分割しましょう。例えば、以下のような粗い分割が考えられ、これを暫定でもいいので期日もセットで記載します。
1. プリプロダクションフェーズ
コアメカニクスを最小限実装し、「本当に面白いか」を検証している段階。 成果物:プレイ可能なビルド、コアメカニクスの動作確認。
2. α版フェーズ
コアが確定した上で、基本的な機能を実装している段階。 成果物:プレイ可能なビルド、基本的なゲームループが完成。
3. β版フェーズ
コンテンツを実装し、バランス調整を進めている段階。 成果物:プレイ可能なビルド、一通りのコンテンツが実装。
4. ゴールドマスターフェーズ
最終的な作り、バグ修正、最適化を完了させる段階。 成果物:リリース可能なビルド。
重要なのは、調整が入ることを前提にするということです。計画通りに進みません。一つのフェーズを進める中で予想外の問題が発生した、あるいは仕様変更が必要になった場合、その時点で双方がスケジュールと内容をすり合わせて次のマイルストーンを再設定します。
これを契約書に明記しておくことで、「計画通りにいかないことを理由に開発会社が進捗を隠蔽してもいい」という心理を根絶しやすくします。
プロジェクト起案者側としては、やり直しや開発の巻き戻しもある程度想定した上での資金計画を持っておくことも超重要です。また、コアサイクルが体感できるまではいきなり人を増やしすぎないことも想定して開発会社と握っておくことが大事です。
▼ ステップ3:検収条件を客観的に定義し、不正を防ぐ
次に、各マイルストーンでの検収条件を客観的に定義します。ゲーム開発では検収条件があいまいなまま進行することが多く、これが後々の大きなトラブルの原因になります。なるにぃ氏の失敗事例でも「途中状態が良くわからない」ことが破綻理由の一つとして挙げられていますが、これは検収条件の曖昧さに起因しています。
重要なのは、フェーズごとに検収基準が異なるということです。 全てのフェーズで同じ基準を適用するのではなく、各フェーズの目的に応じた検収基準を事前に定義しておきましょう。
❶フェーズ別の検収基準の具体例
検収基準を定義する際の基本的な考え方は、以下の通りです。
❷コアメカニクスとその実装担当者
「ゲームの面白さの核は何か」を明確にすること。ここは契約書に盛り込む前の段階の話です。そのための企画概要書、仕様書作成の叩きを設計し、それをベースに対話します。
もちろん、開発中に変更することはよくありますので、変わるときや変わった後の承認フローも明確にしておきます。また開発に関わる人をバイネームで明確にしておくことも必要です。途中で離脱されると大打撃を受けやすくなるため、後述しますが、担当変更または降りる場合の撤退ラインも明確にしておきます。
❸スコープの担当者を明記(できれば)
開発会社だけに限りませんが、各パート単位でも似たようなことを決めて契約を交わします。
続いては、フェーズ単位での要件などです。
場合によっては各フェーズも細分化しておくといいです。
【プリプロダクションフェーズ】
目的:「コアメカニクスが本当に面白いのか」を検証する段階
必須修正項目
デッドロック、クラッシュなど、ゲームが起動しない、または途中で落ちるバグ。コアメカニクスの動作に直結する不具合。著しく品質やパフォーマンスが低下する場合。容認項目
UIの細かい表示ズレ、グラフィックの簡易版での表示、サウンドの仮実装、テキストの誤字脱字。検収の判定基準
「プレイ可能なビルドが提供されること」「コアメカニクスが意図通りに動作すること」「〇分以上、クラッシュなくプレイできること」
【α版フェーズ】
目的:「基本的なゲームループが完成したか」を確認する段階
必須修正項目:
クラッシュ、デッドロック。ゲームの基本ループに関わる不具合。セーブ・ロード機能の不具合。サービスに必須な要素の不具合。容認項目:
エフェクトの簡易版、ボイスの仮実装、一部のUIの未実装、バランス調整が不十分な状態。検収の判定基準:
「一通りのゲームループが完成していること」「主要な機能が実装されていること」「〇時間以上、クラッシュなくプレイできること」
【β版フェーズ】
目的:「全体的なコンテンツが揃い、バランス調整が進んでいるか」を確認する段階。αを通過したら、βに盛り込む内容を改めて精査し、最終的に実装する要素の見積もりと工数の算出を、予算とセットで調整します。
そのうえで、改めて下記の要素を記載して合意します。
必須修正項目:
クラッシュ、デッドロック。ゲーム進行を阻害するバグ。重大なバランス問題。重大な不具合(S~Aランクバグ)。容認項目:
軽微なUIバグ、テキストの誤字脱字、グラフィックの細かい調整不足、動くけど今後治せそうなバグ。検収の判定基準:
「全体的なコンテンツが揃っていること」「ゲーム全体を通してプレイできること」「主要な不具合が修正されていること」
【ゴールドマスターフェーズ】
目的:「リリース可能な品質に達しているか」を確認する段階
必須修正項目:
あらゆるクラッシュ、デッドロック。ゲーム進行を阻害するバグ。パフォーマンスの問題。容認項目:
なし。このフェーズでは、ほぼ全てのバグが修正対象。どうしても工数の制限等で見送るバグは、その機能の調整等でカバーできるかを検討する。検収の判定基準:
「リリース可能な品質に達していること」「想定されるプレイ時間全体を通してプレイできること」「重大なバグが存在しないこと」「サービス品質を損なう不具合がないこと」
開発会社側の防衛手段:指示のドキュメント化と意思決定権の明確化
もう1つ大事な要素があります。それはプロデューサー側からの指示があいまいすぎることが連続する場合です。これが起きてしまうと、開発会社は何をすればいいのか分からなくなり、結果、形にならない事例が多発します。
これを防ぐために、以下の条項を決めておくことをオススメします。
◆指示のドキュメント化の義務
プロデューサー側からの全ての指示は、口頭ではなく、必ずドキュメント(メール、Slack、専用の指示書など)で記録されなければなりません。このドキュメントには、以下の情報が含まれるべきです。
指示の内容(何を変更するのか、具体的に)
指示の理由(なぜそうする必要があるのか)
指示の期限(いつまでに対応すべきか)
指示の優先度(他の作業と比べてどの程度重要か)
例えば、「もっと面白くしてほしい」という指示ではなく、「ボス戦の難易度が高すぎるため、敵のHPを30%削減し、攻撃パターンを2つから1つに減らしてほしい。理由は、ユーザーテストで70%のプレイヤーがボス戦でゲームオーバーになっているため。期限は3日以内。優先度は高。」といった具体的な指示にすることで、開発会社は明確に対応できます。
ただし、未経験の方がそこまで具体的に言えるのは非常に難しいとは思います。だからこそ、このような事態に関しては、都度時間をもって双方で密にコミュニケーションを取りながら、合意を取っていくことが望ましいです。
◆「動作検証の合意形成」
指示を受けた開発会社は、その指示に対して「どのような動作検証を行うのか」を、プロデューサー側と事前に合意しておきましょう。
例えば、「敵のHPを30%削減した場合、ボス戦のクリア率がどの程度になるのか」「攻撃パターンを2つから1つに減らした場合、ボス戦の難易度がどの程度になるのか」といった検証を事前に合意しておくことで、「指示通りに対応したのに、プロデューサーから『これじゃない』と言われる」という事態を防ぐ可能性があります。
◆「意思決定権者の明確化」
複数のプロデューサーやディレクターがいる場合、「誰の意見でOKが出れば、その指示は確定するのか」を明確にしておかないと、高確率で事故ります。
例えば、「ゲームデザインに関する指示は、ゲームディレクターのAさんの承認でOK」「グラフィックに関する指示は、グラフィックディレクターのBさんの承認でOK」「大規模な仕様変更は、プロデューサーのCさんの承認が必須」といった意思決定権を事前に明確にしておくことで、「AさんとBさんの指示が矛盾している」という事態を防ぐことができます。そしてそこに関しては揺るがないようにしておく必要があります。
▼ ステップ4:支払いを分割し、双方のリスクを低減させる
支払い方法は、プロジェクトの成否を左右する極めて重要な要素です。なぜなら、支払い方法によって、依頼側と開発側のインセンティブが大きく変わるからです。
なぜ分割支払いが必要なのか
一括前払いの場合:
依頼側は、成果物を受け取る前に全額を支払うため、開発側・依頼側双方にとって、進捗や品質に関するインセンティブ設計が難しくなるケースがあります。
一括後払いの場合:
開発会社は、成果物を完成させるまで報酬を得られないため、とくに中小の開発会社にとっては資金繰りのリスクが大きくなります。
そのため、中小規模のプロジェクトでは、金額や立場に応じて分割払いを組み合わせる契約(前払+マイルストーン+最終支払い)を検討するのが現実的です。下請法などの規制が関係するケースもあるため、規模が大きい案件では専門家に確認しながら設計することをおすすめします。
分割支払いの場合:
依頼側は、各段階での成果物を確認した上で支払うため、開発会社のモチベーションを維持できます。同時に、開発会社も各段階での報酬を得られるため、資金ショートのリスクが軽減されます。
特に中小規模のプロジェクトでは、分割払いの方が双方が常に適度な緊張感を維持しやすく、どちらかが途中で音信不通になっても損失をある程度抑えやすい、というメリットがあります。
世間に出ている前払いで会社がトぶっていう話もよくある、前払いが事前に行われるケースです。気を付けましょう。
分割支払いの具体的な方法
分割支払いについてはいろいろな払い方がありますが、下記の方法が一般的です。
事前支払い(全体予算の20-30%):
プロジェクト開始時。依頼側の真摯さを測るため。マイルストーン完了都度の支払い
検収完了時に都度支払うタイプ。しかしこの場合、マイルストーン単位の支払いは全体予算の50~70%程度に抑えることです。最後の完成までを保証するためです。最終成果物引き渡し時支払い(残り20-30%):
プロジェクト完了時に支払い。ここの比重を少し高くしておきます。
この方法により、開発側も依頼側も、各段階でのコミットメントが明確になり、双方のリスクが軽減されます。
開発側の資金ショートを防ぐための予防線
しかし、分割支払いであっても、開発会社が資金ショートに陥るケースはめちゃくちゃあります。特に、以下のような状況では、その危険性が高まります。その対策事例も少しご紹介しておきます。
本来ならショートしないための仕様調整ですし、人的工数の管理ですし、制作するものの計画だったりもします。とはいえ、計画通りにいかないのがゲーム開発なので、その際のケースをお届けします。
1. マイルストーン完了の判定が遅れる場合
プロデューサー側が検収に時間をかけ、「まだ完成していない」と判定し続ける場合、開発会社は報酬を得られません。一方、開発会社は既に人件費や外注費を支払っているため、資金ショートに陥ります。
対策:検収条件と検収期間を事前に明確に定義しておきましょう。例えば、「検収は提出から5営業日以内に完了する」「検収の判定基準は、以下の項目を満たすこと」といった形で、曖昧さを排除します。
2. 仕様変更による工期延長
プロデューサー側からの仕様変更が頻繁に発生し、プロジェクトが予定より大幅に延長される場合、開発会社の人件費負担が増加します。
対策:仕様変更が発生した場合、その変更に伴う追加工数と追加費用を、事前に見積もり、契約書に追記する仕組みを作りましょう。これにより、開発会社は「仕様変更による追加費用」を得られ、資金ショートを防ぐことができます。
3. 支払い期限の遅延
契約書では「検収完了から30日以内に支払う」と定めていても、実際には支払いが遅れるケースがあります。
対策:支払い期限を「検収完了から10営業日以内」といった短期に設定し、遅延時の遅延金(例:日利0.5%)を明記しておきましょう。これにより、依頼側も支払いを優先順位付けしやすくなります。
収益配分の取り決め
ゲームが予想以上の売上を記録した場合、その上余りをどのように配分するかを、事前に取り決めておきましょう。
例えば、「初期開発費用を回収した後の売上については、開発会社に20%を配分する」といった形で、プロジェクト成功時の利益配分を明記しておくことで、開発会社のモチベーションを維持でき、同時にプロジェクト成功時の争いを事前に防ぐことができます。
▼ ステップ5:氏名の公開権利を明確にし、開発者のキャリアを保護する
これまで、契約書の成果物、マイルストーン、支払い、検収条件について説明してきました。しかし、もう一つ極めて重要な項目があります。それがスタッフロールの掲載などの権利です。
ゲーム開発者にとって、「自分がこのゲーム開発に携わった」という実績を公開できることは、転職活動やキャリア形成において極めて重要です。
日本の著作権法では、一定の条件を満たす「職務著作」の場合、著作者が法人となり、著作権が会社に帰属するケースがあります(雇用契約や社内規程で成果物の権利帰属を定めている会社も多いです)。
このような運用の結果として、開発者が自分の関わったゲームについて自由に実績公開できない、あるいは会社の許可が必要になるケースが少なくありません。
そうは言いつつも、開発に関わったタイトルを公表できない点での具体的な問題としては下記の点が指摘されています。
「ゲーム開発に携わったが、スタッフロールに名前が載らない」
「ポートフォリオサイトに実績を掲載することを禁止される」
「SNS等で開発実績を公開することを禁止される」
「転職活動で、具体的なプロジェクト名を挙げることができない」
これらの制限により、開発者のキャリア形成が阻害され、優秀な人材が業界から離れていく悪循環が生まれているのではとも言われています。
ゲーム開発現場で見られる「スタッフロール非表記」の運用という慣行
一部のゲームタイトルや企業では、「スタッフロールにすべての開発者を載せない」「協力会社や短期間の参画者を載せない」といった運用が行われています。
理由1:職務著作を根拠にした運用
企業側が「著作権は会社に帰属するので、スタッフロールの有無・範囲は自社で決める」といった方針をとり、その結果として開発者の名前が掲載されないケースもあります。
理由2:「ゲームは商品であり、作品ではない」という考え方
一部では「ゲームは商品・サービスであって、映画のような作品クレジットは必須ではない」という考え方も見られます。そうした発想から、クレジットを重視しないタイトル運用が行われるケースもあるようです。
理由3:引き抜き対策
大手ゲーム企業では、優秀な開発者が他社に引き抜かれることを防ぐため、スタッフロールに名前を載せないという戦略を取ることがあると聞きます。
例えば一部の大規模タイトルでは、防犯上の配慮や引き抜き対策、機密情報の保護などを理由に、クレジットの範囲を絞ったり匿名表記にしたりする運用が説明されることがあります。
過去には海外で開発者が犯罪のターゲットになった事例も報じられており、それ以降、防犯面から情報公開を慎重にしていると説明されるケースもあります。
理由4:ブランド保護
個人レベルではあまり問題にならないかと思いますが、大型案件の場合は特定個人が自由に発信することはブランド棄損に繋がるという過度な管理体制がある場合もあります。
あとはあの人が絡んでいるんだったら今後お取引はできない。みたいなケースも超稀なケースとしてありました。
契約書に盛り込むべき条項
開発者のキャリア形成を保護し、同時に企業の権利も守るために、以下の条項を契約書に明記することをお勧めします。
条項1:開発実績の公開に関する条項
リリース後は、開発者が自身の開発実績を自由に公開できることを明記します。
例: 「開発者は、本ゲームのリリース後、自身の開発実績として、以下の形式で公開することができる:
ポートフォリオサイトへの掲載
SNS(Twitter、LinkedInなど)での発表
履歴書・職務経歴書への記載
インタビュー記事での言及(ただし、企業秘密に関わる内容は除く)」
条項2:スタッフロール掲載に関する条項
開発者の名前をスタッフロールに掲載することを契約で保証します。掲載位置、肩書、クレジット方法を事前に合意しておくことが重要です。
例: 「本ゲームのスタッフロールには、以下の形式で開発者の名前を掲載する:
掲載位置:エンドロール内、プログラマーセクション
肩書:『プログラマー』
表記方法:本名(または合意したニックネーム)」
条項3:著作権と知的財産権に関する条項
ゲーム全体の著作権は依頼側に帰属することを明確にしつつ、開発者が自身の知見や技術を活用することを許可します。
例: 「本契約により、ゲーム全体の著作権は依頼側に帰属する。ただし、以下の事項については、開発者が権利を保有または利用できる:
開発者が開発したプログラムコードの一般化・汎用化版(ゲーム固有の内容を除く)
開発過程で得られた技術的知見やノウハウ
本ゲーム開発での経験を基にした、他のプロジェクトでの応用」
条項4:氏名表示権に関する条項
開発者の氏名表示権(または開示する権利)を明確に保護します。氏名表示権とは、著作者が自分の著作物に自分の名前を表示させるか、表示させないかを決める権利であり、実名か変名かを決める権利も含まれます。企業秘密に関わる場合を除き、実名での公表を許可することが重要です。
例: 「開発者は、本ゲーム開発への貢献について、実名での公表権を有する。企業秘密に該当する内容を除き、開発者は自由に自身の名前を使用して、本ゲーム開発への参加を公表できる。
※職務著作の場合の著作者人格権や氏名表示の扱いは会社や契約形態によって整理が異なるため、ここでは「契約で実績公開を認めてもらう」という実務的な観点での条項イメージとして書いています。
なぜこれが重要なのか
これらの条項を契約書に盛り込むことで、以下のメリットが生まれます。
開発者側のメリット:
・キャリア形成が可能になり、転職活動がスムーズになる
・ポートフォリオを充実させることができ、次のプロジェクト獲得につながる
・業界での知名度が上がり、コンサルティング業務などの機会が増える
依頼側のメリット:
開発者のモチベーションが向上し、プロジェクト品質が向上する
優秀な開発者が集まりやすくなり、人材確保が容易になる
業界での評判が良くなり、今後の開発委託がしやすくなる
業界全体のメリット:
ゲーム業界の社会的地位が向上する
次世代の優秀な開発者が育成される
「ゲームは文化である」という認識が広がる
契約書は「防衛線」ではなく「約束」
ここまで、契約書の重要性について様々な角度から説明してきました。しかし、契約書の本質を見誤ってはいけません。契約書は「相手を騙さないための防衛線」ではなく、「双方が納得した約束」です。
開発知識がない起案者が、開発会社を「疑う」ために契約書を作るのではなく、双方が「信頼関係を構築する」ための土台として契約書を活用することが重要です。
そのためには、契約書作成の段階で十分な時間をかけて、双方が納得できるまで話し合うことが必須です。
「この条項は何のためにあるのか」「なぜこの支払い方法なのか」「なぜこの検収基準なのか」「なぜ氏名表示権を保護する必要があるのか」——これらの「なぜ」を双方が理解し納得することで、初めて契約書は「約束」として機能するのです。
また、勘違いしてはいけませんが、契約書を結ぶことがゴールではありませんし、契約書を結んだから安心ということでもないということです。当たり前ですけどね。
▼ ステップ6:【必須】瑕疵を明確にし、バックアップを決める
ソフトウェア開発でいう「瑕疵」とは、成果物に実装上の不具合があった場合、それを修正する責任を意味します。
誰が開発を担当したのかを明記する:
「開発会社が担当、一部の機能はフリーランスの××が担当」といった粗い分担を明確にしておきましょう。
バックアップ体制を決める:
主担当者が病気や私事でいなくなった場合、誰が引き継ぐのかを事前に決めておきましょう。これを明確にしておくことで、主担当者が不在時に開発が停止するという事態を防ぐことができます。
▼ ステップ7:「撤退ラインを事前に決める」——プロジェクトの健全性を保つ最後の砦
契約書で最も重要なのが、この「撤退ラインの設定」です。
なぜ撤退ラインが重要なのか
ゲーム開発は不確実性が高く、想定していた技術が実現不可能だった、主要な開発者が離職した、コアメカニクスが面白くないと判定された、予算が想定より早く尽きてしまった、といった問題が頻繁に発生します。
しかし、この決断を先延ばしにすると、埋没コストの罠(既に投下した資金に執着)、開発チームの諦めムード、資金ショート、そして最終的なプロジェクト破綻という悪循環が生まれます。なるにぃ氏の失敗事例でも、この「決断の先延ばし」が最終的な破綻につながったと考えられます。
開発しているものはわが子のようにかわいさがあり、愛着もありますが、この場合はドライに考える部分も基準として大事です。そのための基準設定方法をご紹介します。
撤退基準の設定方法:5つのアプローチ例
アプローチ1:マイルストーンベースの撤退基準(最も実践的)
各マイルストーンを達成できない場合に中止する。
例:「α版リリース予定日から2ヶ月経過してもプレイ可能なビルドが提供されない場合」。マイルストーンは進捗を客観的に測定できる指標なので、最も一般的で実用的です。
アプローチ2:資金ベースの撤退基準
予算が尽きた場合に中止。例:「予算の80%を使用した時点で進捗が50%未満の場合」。資金ショートを防ぐために有効です。
アプローチ3:品質ベースの撤退基準
コアメカニクスやゲームバランスが想定通りに実装できない場合に中止。例:「α版の時点で複数の外部評価者からコアメカニクスが面白くないと判定された場合」。つまらないゲームを世に出すことを防ぎます。
アプローチ4:リスク要因ベースの撤退基準
予期しない問題が発生しリカバリー不可能と判定された場合に中止。例:「主要な開発者が離職し後任が見つからない場合」。
アプローチ5:複数基準の組み合わせ(最も柔軟)
単一の基準ではなく複数を組み合わせる。例:マイルストーン達成度60%以上、予算使用率80%以下、外部評価スコア3.0以上。これら全てを満たさない場合は中止。
「Go/No-Go判定」の実施
撤退基準を設定した後は、マイルストーンごとに定期的に「Go/No-Go判定」を実施します。マイルストーン達成度、予算使用状況、外部評価、リスク要因の有無をチェックし、「このプロジェクトを続けるべきか」を総合的に判定します。
撤退時の対応を事前に決める
あわせて、実際に撤退する際、下記の要素について話し合うことがありますので、あらかじめ方針のみ決めておいて、あとは撤退決定時に詳細を詰められる余白を残しておくことをオススメします。
資金の扱い
一般的には成果物の権利と引き換えに返金しない形が多いです。支払いの期日など、状況に基づいて適切に処遇します。
制作物の権利
完成度に応じて決定してもいいですが、基本は支払い側にわたるケースが多いと思われます。
公開情報の扱い
プロジェクト規模やステークホルダーに応じて、公表、沈黙、部分的公表を判断します。
撤退ラインを決めることで生まれるメリット
埋没コストの罠を回避し客観的な指標で判定できる。開発チームは「撤退ラインを超えないよう最善を尽くそう」というモチベーションが生まれ、進捗隠蔽の心理が生まれにくくなる。失敗時の損失を最小限に抑え、感情ではなく客観的な判定で信頼関係を構築できます。
撤退ラインは「逃げ道」ではなく「責任」
撤退ラインを決めることは、「失敗時の逃げ道を作る」ことではなく、「プロジェクトの健全性を保つための責任を果たす」ことです。プロジェクトオーナーは「どこまで続けるべきか」を明確に定義する責任を果たし、開発チームは「このラインを超えないよう最善を尽くそう」というモチベーションを持つ。この双方の責任感が、プロジェクトの成功につながります。
鉄則2:「風呂敷を広げすぎない」——予算・規模・期間から逆算する開発計画
ゲーム開発における最も一般的な失敗パターンの一つが、「風呂敷を広げすぎる」ことです。なるにぃ氏の失敗事例でも、この問題が顕著でした。
しかし、「風呂敷を広げすぎない」ことと、「資金ショートを防ぐ」ことは、実は同じ根っこの問題なのです。
なぜ風呂敷は広がってしまうのか
開発知識がない起案者が陥りやすいパターンは、以下の通りです:
理想のゲーム像を描く:「こんなゲームを作りたい」という夢を描く
予算・期間を後付けする:その理想を実現するのに、どのくらい予算と期間が必要かを考える
人員を増やす:予算と期間が足りないので、人員を増やして対応しようとする
資金ショート:計画通りに進まず、人件費だけが膨らみ、資金がショートする
この悪循環の根本原因は、「予算・規模・期間を先に定義していない」ことにあります。
アプローチ例:逆算思考でプロジェクトを設計する
ゲーム開発を始める際、多くの未経験者は「こんなゲームを作りたい」という想いから出発し、その後「では、何人必要か?」「予算はいくら必要か?」と考えますが、行き詰まらないためにもゴールからの逆算で計画を立てる思考も大切です。
たとえば、予算5000万円、期間2年として考えてみます。
◆ステップ1:制約条件を定義する
予算:5000万円
期間:2年(24ヶ月)
◆ステップ2:予算配分を決める
ざっくりと割り振ります:
人件費(開発チーム):3500万円
ツール・ソフトウェア:300万円
翻訳費用:200万円
サーバー・インフラ費:300万円
マーケティング・PR費:400万円
外注費(短期製作物):200万円
予備費:100万円
◆ステップ3:人件費から必要な人数を逆算
人件費の相場を1人あたり月50〜100万円程度とした場合、
3500万円 ÷ 70万円(平均) ÷ 24ヶ月 ≈ 2.1名
→ 平均2〜3名体制で進める予測になります。
開発フェーズごとの配置
・プリプロダクション(3ヶ月):
1〜2名(企画、仕様書、プロトタイプ)
・本開発(15ヶ月):
1〜2名(メイン機能、グラフィック、サウンド)
・ポストプロダクション(6ヶ月):
1〜2名(バグ修正、最適化、マーケティング)
◆ステップ4:仕様を調整する
もし「もっと大規模なゲームを作りたい」なら、予算と期間が必要ですが、それが叶わない場合は仕様設計や予測から見直す必要があります。
具体的な仕様調整例
・キャラクター数を減らす:当初10体 → 5体
・ステージ数を減らす:当初50ステージ → 30ステージ
・機能を削減:複雑なマルチプレイ → シングルプレイのみ
・グラフィッククオリティ:最高品質 → 中程度のクオリティ
ゲーム開発の多くは「予算も限られている、期間も限られている、でも大規模なゲームを作りたい」という矛盾した設計のまま、正確な見積もりや調整をせずに突き進み、未完のまま資金ショートすることがよく起こります。
逆算思考を使えば、この矛盾を事前に検知し、現実的で実行可能なプロジェクト計画を立てやすくなります。
「力と勢いだけでは完成しない」
ゲーム開発は、「力と勢いだけでは完成しない」ものです。
すべての要素(予算、規模、期間、人数、仕様)をある程度想定した上で、それらが矛盾なく成立するかを検証する必要があります。
この検証プロセスを、開発知識がない起案者が一人で行うことは困難です。だからこそ、開発の専門家による評価が不可欠なのです。
専門家による評価のポイント
開発の専門家が、風呂敷を広げすぎていないかを評価する際には、以下のポイントをチェックします:
予算と人件費のバランス:予算に対して、必要な人件費が適切か?
期間と開発ボリュームのバランス:期間内に、想定されているボリュームを完成させられるか?
人数と仕様のバランス:想定されている人数で、想定されている仕様を実装できるか?
リスク要因の洗い出し:想定外の問題が発生した場合、対応できるバッファがあるか?
これらの評価を通じて、「現実的で、実現可能な開発計画」が完成するのです。
資金ショートを防ぐための具体的な対策
「風呂敷を広げすぎない」ことが、資金ショートを防ぐための最も重要な対策です。
しかし、それ以外にも、以下のような対策が考えられます:
対策1:段階的な人員投下
序盤は少人数体制で、コアが固定してから段階的に人員を増やす。これにより、序盤の不確実性が高い段階での人件費を最小限に抑えることができます。
対策2:マイルストーンごとの支払い
契約書で、マイルストーンごとに支払いが発生する仕組みを作る。これにより、開発会社の資金ショートを防ぐことができます。
対策3:定期的な予算チェック
開発中、定期的に予算の使用状況をチェックし、計画通りに進んでいるか確認する。もし計画から外れていれば、早期に対策を打つことができます。
対策4:スコープの柔軟な調整
開発中に問題が発生した場合、スコープを柔軟に調整する。「全て完成させる」ことにこだわるのではなく、「予算と期間の中で、最大限の品質を実現する」という発想が重要です。
結局は全体バランスが必要、都度見直しを!
「風呂敷を広げすぎない」ことは、単なる「仕様管理」の問題ではなく、「予算・規模・期間から逆算する」という、より根本的なプロジェクト管理の問題です。
すべての要素をある程度想定した上で、それらが矛盾なく成立するかを検証することで、初めて「現実的で、実現可能な開発計画」が完成するのです。
そして、この検証プロセスに開発の専門家の意見を取り入れることが、資金ショートを防ぎ、プロジェクトを成功に導くための最も重要な対策なのです。
鉄則3:「動くもの」で会話しよう - 非開発者のための進捗観測術
「進捗は90%です」という言葉ほど、当てにならないものはありません。開発知識がない人にとって、進捗を測る唯一の信頼できる尺度は、実際に「動くもの」です。
しかし、「ビルドには時間がかかる」という理由で、動くものの提出が遅れるケースは後を絶ちません。ここで有効なのが、IT業界のCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)という考え方です。
CI/CDとは?
ソースコードが更新されるたびに、ビルドやテストを自動的に実行する仕組みです。
ゲーム開発への応用:
この仕組みを導入すれば、毎日、あるいは数時間おきに、最新のプレイ可能なビルドが自動的に生成されます。これにより、プロデューサーやディレクターは、いつでも「今、動くもの」を確認でき、開発の健全性を常に監視できます。
参考:GitHub Actionsなどのツールを使えば、UnityやUnreal Engineのビルドを自動化することが可能です。初期設定こそ必要ですが、その投資は「進捗の可視化」という絶大なリターンをもたらします。
(参考:Making Game Devs Sane Again with CI/CD – IGDA)
鉄則4:コアが固まるまで「作っては壊す」を許容せよ
ゲーム開発の序盤、特に「コアな面白さ」を模索している段階では、ウォーターフォールのように一直線に開発を進めるのは得策ではありません。むしろ、短いサイクルで「作っては壊す」を繰り返す、アジャイル開発のアプローチが有効です。
バーティカルスライスで検証する:
ゲームの「面白い部分」だけを切り取った、ごく短いプレイ体験ができるプロトタイプ(バーティカルスライス)を、1〜2週間といった短期間で作成します。
定期的にレビューする:
完成したバーティカルスライスをチーム全員でプレイし、「本当に面白いか?」「目指す方向性は合っているか?」を徹底的に議論します。このレビューには、可能であればチーム外の第三者にも参加してもらい、客観的な意見をもらうことが極めて重要です。
このサイクルを繰り返すことで、チームは確信を持って「面白い」と言えるコアゲーム要素を固めることができます。コアさえ固まってしまえば、あとはその面白さを拡張していく量産フェーズに入ることができます。
未経験者のためのファーストステップ
と、いろいろと複雑なことを書いてきましたが、実際何かを作り上げることはとてつもない情報労働が伴います。これはゲームに限らず、未経験分野で例えば家を作るときとか自動車を作るときとかもまったく同じような原理原則が働くと思います。
今回ゲームという領域でしたが、作るために必要なことは大きく以下の通りです。
1.コンセプトを言葉にする:あなたの旅の「目的地」を定める。
2.スコープを決める:無理のない「旅の計画」を立てる。
3.プロトタイプで検証する:その目的地が本当に「訪れる価値のある場所」か確かめる。
4.チームを組む:共に冒険する「仲間」を見つける。
5.契約を結ぶ:仲間との「揺るぎない約束」を交わす。
6.開発を始める:そして、冒険の「第一歩」を踏み出す。
多くの人が「ゲーム開発は難しい」と感じるのは、この準備段階を飛ばして、いきなりコーディングやグラフィック制作といった「冒険の核心」に飛び込もうとするからです。
この記事で紹介した段階的なアプローチは、まさにその「最初のチュートリアル」です。各ステップで「続けるべきか」「見直すべきか」を冷静に判断することで、失敗のリスクを劇的に下げることができます。
知らない人に搾取されないために確認すべきこと
でも知らないことばかりなので、誰かに依頼したい!っていう気持ちは当然あると思います。そんな時は、慎重にリサーチと検証を行ってパートナーを選定する必要があります。
「お金を払ったのに成果物が返ってこない」「連絡が取れなくなる」といったトラブルは実際に多くあります。搾取されないために、依頼前に必ず確認すべきポイントを解説します。
そもそもいきなり誰かに依頼する前に、各種コミュニティや知人を頼って情報収集したり、実際に会話してみることが一番です。
その後に誰か相談役なり、依頼をすることを考えてみましょう。
依頼前に必ず確認すべき3つのポイント
1. ポートフォリオ(実績)があるか
「実際に完成させたもの」を見ることが最重要です。過去の制作物、公開実績、GitHubのコードなどを確認しましょう。
避けるべき相手:
実績がない、または「秘密保持契約で見せられない」と完全に拒否する人
2. コミュニケーションが明確か
質問に明確に回答するか、返信は適切か(1日以内が目安)、契約内容を具体的に説明するかを確認します。
避けるべき相手:
「とりあえずやってみます」「何とかなります」といった根拠のない発言をする人
3. 契約書と見積もりが明確か
契約書の作成に応じるか、見積もりの内訳が明確か、相場と比較して妥当かを確認します。
避けるべき相手:
「契約書は不要」と言う人、相場より極端に安い人(例:「RPGを月5万円で作ります」)
搾取されないための実践方法
小規模なテストから始める
いきなり大金を払わず、小規模なテストや情報交換から実行しましょう。
段階的な支払いを徹底する
全額先払いは絶対に避け、マイルストーンごとに分割します。
例(予算100万円の場合):
企画完了時20万円→α版30万円→β版30万円→最終20万円
契約書に必ず入れる項目
成果物の定義、納期、報酬と支払い条件、著作権の帰属、修正回数と追加費用、トラブル時の対応
絶対に避けるべき相手の特徴
「先払いで全額支払ってください」と言う
「契約書は不要」と言う
「納期は決められない」と言う
実績を見せられない
返信が遅い、または返信がない
まとめ:搾取されないための3つの鉄則
実績を必ず確認する:口だけでなく、実際の成果物を見る
契約書を必ず交わす:理由をつけて省略しない
段階的な支払いを徹底する:全額先払いは絶対にしない
さらなる第三者にも相談する
守秘義務に抵触しない程度に必ず相談しましょう。
最後|完成しないという破綻は避けられる
ゲーム開発に失敗はつきものです。しかし、その多くは、個人の才能や努力不足ではなく、プロジェクトの進め方、つまり「仕組み」の問題に起因します。
今回紹介した鉄則は、決して目新しいものではありません。その多くは、ソフトウェア開発の世界では当たり前のように実践されている、いわば「先人の知恵」です。
重要なのは、これらの知恵を学び、自分のプロジェクトに合った形で実践していくことです。この記事が、あなたのプロジェクトを完成に導くための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
ただ、完成と成功はまた違いますが、少なくとも1つ完成をさせることはものすごいことだということなので、仮に駄作だとしても一旦最後までやりきってリリースまでいくことは、すごく自身にもこれからの未来に繋がるという経験談です。
なるにぃ氏ご自身も「諦めずに再構築する」と前向きな意向を示されており、2025年2月に新たな方針を公開されるとのことです。まさにこれからが正念場かと思いますが、ぜひ最後まで完成させ、リリースに至っていただきたいと心から願っています。
執筆者:うきょう
最近はITスタートアップでサービスの開発PdM(プロダクトマネージャー)もやっています。
お仕事のご依頼・ご質問はXのDMで
noteのメールでも構いません。
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この記事の続きとして、AIを使ってゲームを1本作り、売るところまでを連載で書いています。
何を作るかの決め方、面白さの作り方、作り切れる大きさの決め方、売り方の種類まで。
ゲームの現場で26年、実際に判断してきた順番のまま並べています。
連載の一覧(マガジン「AIを使ったゲーム制作と販売方法」)
https://note.com/ukyousan/m/m1a906d03033f
連載の有料回は、メンバーシップ「ゲーム × 仕事と人生の設計工房」(月980円)で、すべて読めます。
1本ずつ買う(1本1,980円)より安く、新しい回も追加料金なしで読めます。
https://note.com/ukyousan/membership
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運営型ゲームの構造の話も書きました。
・運営型モバイルゲームが生き残りづらい構造的理由と、その突破口
https://note.com/ukyousan/n/n68014445fb7f
・2026年、いまソシャゲを作るならどう考えるか? 捨てるものと残すもの
https://note.com/ukyousan/n/ncc26c85bc75a
・運営型モバイルゲーム開発の『壁』を越える思考法 ― 任天堂などから学ぶ現代開発の生存戦略
https://note.com/ukyousan/n/nae83082b2c08
・スマホゲーム事業者の倒産が過去最多ペース|〜私たちは開発者としてどう生きるのか?〜
https://note.com/ukyousan/n/n0e864280e0b4
売り方と、そのあとのキャリアの話も書きました。
・【ゲームの企画設計】「良いものを作れば届く」は祈りでしかない。"認知の設計"を意図して作れ
https://note.com/ukyousan/n/n5003a14e0c92
・「ノープロモ」ではなく、"設計されたプロモーション"だった。『めっちゃカメレオン』発売前4週間の構造を読み解く
https://note.com/ukyousan/n/n9844cf225a7e
・ソシャゲ経験「しか」ない人の、次の一手 ─26年の現場と知人の話から、20代・30代・40代別に書く
https://note.com/ukyousan/n/nb1963c9f13e0