
運営型モバイルゲーム開発の『壁』を越える思考法 ― 任天堂などから学ぶ現代開発の生存戦略
前回公開した記事「運営型モバイルゲームが生き残りづらい構造的理由と、その突破口」では、現在のモバイルゲーム開発はかなり厳しい世界であるという現実を書き連ねた。
今回の記事では、そんなゲーム開発の現場に横たわる「壁」を直視し、モバイルゲームの企画立案時に必要な視点をできる限り網羅的に整理しつつ、任天堂やSupercellといった成功企業の「創造性の設計図」から学び、出来る限り多くの方が大失敗を防ぎ、数多くの生涯を学びとして実践するための考え方を記述していきたい。
気になるところをご覧いただくか、AI要約でご覧いただければ幸いです。
なお、本記事は20年程の、私個人の経験則のアイディアであり数ある中の1つであることをご了承ください。これが正解ではないですし正攻法は多岐に渡ります。あわせて、ライブ型のモバイルゲームでどうすべきか?という視点に重きを置いております。
はじめに:2億ドルの超大作が、わずか2週間でサービス終了する時代
2024年、ゲーム業界に衝撃が走った。推定4億ドル(約600億円)以上の開発費をかけた超大作『Concord』が、リリースからわずか2週間でサービス終了を発表。同じく巨額の予算を投じた『Suicide Squad』も、1年足らずで新規コンテンツを終了し、その役目を終えた。
プロ中のプロが集まり、最新の技術と莫大な予算を投じても、失敗する。それが今のゲーム開発のリアルである。
一方で、同じ近年、たった一人の開発者が作った『Balatro』や『Vampire Survivors』のようなインディーゲームが、世界中で数百万本を売り上げる大ヒットを記録している。そして、いつの時代も、任天堂は「新しい遊び」を提供し、世界中の人々を熱狂させている。
彼らと、失敗した超大作との間には、一体どんな違いがあるのか? また、今現在、特に国内において立ちはだかる現場にはどんな課題や障壁があるのか?について書いてみたい。
第1部:現場を蝕む「4つの壁」
そもそも大失敗しやすい現場には、根深く存在する大きな4つの構造的な壁があると考えている。これらを理解しておくことで、大きな痛手を防げる可能性を高められる(かもしれない)。
1.【雇用の壁】失敗を認められない現場
「失敗を恐れず、ダメならすぐに撤退せよ」と言うのは頭では理解できる。しかし、その撤退が自身の失業に直結する環境下では、それはあまりに酷な要求でもあり、そう実行できるものでもない。
しかもゲーム開発の多くは正社員だけでなく、業務委託や派遣といった立場の外部スタッフが関わることが多い。その場合、彼らが「このゲーム、売れないぞとか、作り直した方がいいんじゃないか?」と言う発言は非常に言いづらいときも多い。その理由は、プロジェクトが停滞すると、その瞬間に職を失う機会も多くなってしまうからである。この背景があると、多くのプロジェクトが「面白くない」と分かっていながらも突き進んでしまう根本原因となってしまう。
この問題の根底には、プロジェクト単位の雇用形態がある。プロジェクトが中止になれば、契約も終了する。これでは、開発者がプロジェクトの成功よりも、自身の雇用期間を延ばすことを優先しても責めることは難しい。
この構造的な欠陥に対する解決策は、失敗を許容する「組織のセーフティネット」を構築する必要がある。理想的なのは、Supercellのような企業文化である。
Supercellの事例
同社では、プロジェクトが中止されてもチームは解散させられない。メンバーは、そこで得た経験と学びを持って、速やかに他のプロジェクトに合流する。これにより、「プロジェクトの失敗 ≠ 個人の失敗」という文化が醸成され、チームは安心して「勇気ある撤退」を決断できるのである。
しかし、これはあくまで理想論であり、すべての組織で実現できるわけではない。では、より現実的な立場で、私たちにできることはあるのだろうか?
《私たちにできること》
立場別の生存戦略
正直に言って、この問題の根本的な解決策を個人レベルで見つけることは難しい。しかし、自身の立場(社員か、外部スタッフか)に応じて、リスクを軽減するための戦略を立てることは可能である。
【社員の場合】
もしあなたが正社員であるならば、比較的安全な立場にいる。しかし、それに甘んじることなく、組織全体で「失敗から学ぶ文化」を醸成するための働きかけが重要になる。
失敗のナレッジ化を徹底する:中止になったプロジェクトから得られた知見(技術的な課題、市場分析、チーム運営の反省点など)を、誰もがアクセスできる形でドキュメント化し、共有会を開くなどして、組織全体の資産に変える。
経営層への働きかけ:失敗を評価する制度や、次の挑戦を後押しする仕組み(社内公募、R&D予算の確保など)の必要性を、具体的なデータや事例と共に経営層に提言する。
【外部スタッフ(業務委託・派遣)・個人開発者の場合】
より不安定な立場にある外部スタッフや個人開発者にとっては、自己防衛が最重要課題となる。根本解決は難しいからこそ、以下の点に留意しておきたい。
複数の小さなプロジェクトを並行させる:一つの大きなプロジェクトに全てを賭けるのではなく、3〜6ヶ月で完成する小さなプロジェクトを複数持つことである。これはリスク分散の基本であるが、現実的にはリソースに余裕がないと難しい。しかし、常に「もしこのプロジェクトが明日なくなったら?」という視点を持ち、次の選択肢を探し続ける意識が重要である。
撤退基準を事前に、かつ具体的に決める:プロジェクトに参加する際、あるいは個人で始める際に、必ず明確な「撤退基準」を設けておくことが、自身のキャリアとメンタルを守る上で極めて重要である。感情論ではなく、客観的な指標で判断できるように、事前にプロジェクト側と握っておく、あるいは個人で設定しておくのである。
このように、進行、フィードバック、振り返り、そして撤退基準をワンセットでプロジェクトの最初に共有・確認しておくこと。これにより、チーム全体の不安が軽減され、万が一の場合でも、次の準備や心構えがしやすくなる。
悪い例:「面白くなかったらやめる」
良い例:「開発開始から3ヶ月後のアルファ版テストで、テスター10人中8人以上が『もう一度プレイしたい』と答えなければ、プロジェクトの継続を再検討する」「週20時間以上を投入しているにもかかわらず、3ヶ月間収益が1円も発生しなければ、一度開発を中断し、戦略を見直す」
失敗を「個人の資産」として記録する:中止になったプロジェクトは、契約上は「無」になるかもしれない。しかし、そこで得た経験は、あなた自身の血肉となっている。何を学び、何に苦労し、どうすればもっと上手くできたか。その全てを、ポートフォリオやブログ、GitHubなどに、守秘義務に違反しない範囲で記録する。それは、次の仕事やプロジェクトに繋がる、誰にも奪うことのできない貴重な資産になる。
2.【評価の壁】「触って面白い」をどう測るのか?
「面白いものを作れば売れる」と、ある人は豪語する。しかし、その「面白い」の定義は、ゲーム開発において最も難しく、根深い問題である。なぜなら、「面白さ」は絶対的な指標ではなく、環境や時代、そして何より人によって感じ方が全く変わる、極めて主観的な感覚だからである。
では、この曖昧な「面白さ」を、我々はどう評価し、判断の拠り所とすべきなのだろうか?
現場では、大きく分けて2つのパターンが存在する。
パターン1:決裁者の「鶴の一声」モデル
一つは、現場が何と言おうとも、プロデューサーや決裁権を持つ人が「いや、やる」と決定するトップダウンのモデルである。この場合、評価基準はその決裁者の「直感」や「経験」に委ねられる。これは一見、独裁的に見えるが、プロジェクトの責任の所在が明確であるため、一つのプロジェクト形態として成立する。成功も失敗も、全てはその決裁者が背負うのである。
パターン2:「客観的評価」という名の罠
もう一つは、「客観的な数字で評価しよう」という、一見すると合理的でモダンなモデルである。しかし、ここで注意が必要なのは、評価基準が曖昧なまま「客観性」という言葉だけが独り歩きし、結局誰も責任を取らない「なぁなぁ」の状態でプロジェクトが進んでしまうリスクである。
では、どうすればこの壁を乗り越えられるのか。その有効な対策案の一つが、定性評価と定量評価のハイブリッドデータを、開発フェーズに応じて使い分けることである。
定性評価で「直感」を捉える(任天堂モデル)
任天堂のプロトタイプ評価では、評価シートのようなものは重視されないと聞く。彼らが見ているのは、プロトタイプを初めて触った、特に「ゲームに詳しくない人」の理屈抜きの反応であり、定性的な評価を大事にしているそうだ。驚きの表情、思わず漏れる声、時間を忘れて夢中になる姿。そうした直感的な反応の中にこそ、新しい面白さの「種」が眠っていると考えているのである。
定量評価で「感情」を数値化する(DeNAモデル)
一方で、リリース後のライブ運営が前提となるモバイルゲームでは、より客観的な評価が求められる。DeNAが提唱する手法は、ユーザーの「楽しい」という感情を具体的に言語化し、それを表す代理変数(KPI)を設定するというものである。
例えば、ギルド対抗イベント(GvG)の「楽しさ」を、「ギルドメンバー全員が積極的に参加し、相手ギルドと接戦した状態」と定義する。そして、それを測るためのKPIとして「接戦度(敗北チームの得点 ÷ 勝利チームの得点)」や「ギルド内格差(特定メンバーの貢献度 ÷ ギルド全体の貢献度)」を設定する方法である。
これらのKPIを分析することで、「接戦だけど一部のメンバーに負担が偏っている(燃え尽きリスク)」あるいは「格差は小さいが、一方的な試合で盛り上がりに欠ける(マンネリリスク)」といった、具体的な課題を客観的に把握し、改善に繋げることができる。
実際、この開発手法は、かつてモバゲーやグリーがサービス提供するときに徹底して言われたことであり、その手法を踏襲してきたサービスは多い。また、こちらはノーススターメトリックという考え方に通じるプロダクト設計の指標で用いる手法と似ており、IT企業ならではのゲーム設計の工夫、と言えるのかもしれない。
《私たちにできること》
定性評価:「友人・家族テスト」を実施する
あなたが作ったプロトタイプを、ゲームに詳しくない友人や家族に、何も説明せずに渡してみる。そして、口出しせずに、ただ観察する。
眉間にシワが寄ったら → ルールが分かりにくい証拠
思わず笑い声が出たら → そこが「面白さ」の核
すぐにスマホをいじり始めたら → 残念ながら、飽きられている
彼らの感想やアドバイスはとりあえず全部聞く。でも重要なのは、彼らが「どう言ったか」ではなく、「どんな表情をしたか」。その直感的な反応こそが、最も正直な評価としているのでそこを観察する。そして、最終決断は自分たちで決める。
定量評価:シンプルな指標から始める
一方運営ゲームにおいては、以下のようなシンプルな指標を追跡する。
リテンション率:初日に遊んだ人のうち、翌日も遊んでくれた人の割合(Day 1 Retention)
平均プレイ時間:ユーザーが1セッションで何分遊んでくれたか
完了率:チュートリアルや最初のステージを、何%の人がクリアしたか
これらの数字が低ければ、何かが間違っている。Google Analyticsやゲームエンジンの無料分析ツールで簡単に測定できるので絶対にやるといい。
3.【売上の壁】なぜ「面白いゲーム」が売れないのか?
しかしながらこの課題も多くある。多くの開発者が「面白いゲームを作れば、必ず売れる」という神話を信じているが、今やそれだけでどうにかなる時代ではない。ゲーム史には、「面白いのに売れなかった」無数の名作たちが眠っているが、「面白さ(プロダクト価値)」と「売れること(マーケットフィット)」を一度分離し、再結合させる思考が必要である。
なお、「売れる」という現象は、少なくとも以下の3つの要素に分解できる。
1. 発見可能性 (Discoverability)
そもそもユーザーが、そのゲームの存在を知ることができるか?
失敗例:素晴らしいゲームなのに、広告宣伝を全くせず、ストアの片隅に置かれている。
2. 参入容易性 (Accessibility)
ユーザーが興味を持ち、ストレスなくゲームを始められるか?
失敗例:スクリーンショットや動画で面白さが伝わらない。UIが複雑で、何をすればいいか分からない。
3. 継続・収益性 (Retention/Monetization)
ユーザーがプレイを続け、お金を払う価値を感じてくれるか?
失敗例:面白くなるまでが非常に長く、序盤で離脱してしまう。課金しないと先に進めない。
まず「面白いプロトタイプ」を作ることが、全てのスタートラインであることは間違いない。しかし、それはあくまで必要条件であり、十分条件ではない。その面白さを「誰に、どうすれば魅力的に伝えられるか」を考えるマーケティングの視点がなければ、その面白さは誰にも届かない。
「面白い」だけでは不十分で、「面白そう」と思わせて手に取ってもらい、「やっぱり面白かった」と納得させ、さらには対価を払ってもらうまでの「体験全体」を設計する視点が不可欠なのである。
《私たちにできること》
3つの「問い」に答えよう
見つけてもらえるか?(発見可能性)
完成したら、itch.io、Steam、Google Playなどのプラットフォームに公開して反応を見る
X(旧Twitter)で「#gamedev」「#indiegame」「#インディーゲーム」といったハッシュタグをつけて、開発の進捗やスクリーンショットを定期的に発信して、こちらも反応を見る
ゲーム実況者やVTuberに「遊んでみてください」とDMを送ってみて、反応を見る(ただし、押し付けがましくならないように)
すぐに遊べるかを観測する(参入容易性)
最初の1分で「何をすればいいか」が分かるか?複雑なルール説明は不要か?
ストアページのスクリーンショットや紹介動画で、ゲームの「一番面白い瞬間」が伝わっているか?
チュートリアルは、説明ではなく「遊びながら自然に学べる」設計になっているか?
また遊びたいか?(継続性)
クリアした後、あるいはゲームオーバーになった後、心の中に「もう一回!」という気持ちが湧き上がるか?
無料で遊べる部分だけでも、十分に満足できる体験になっているか?
この3つの問いに自信を持って「Yes」と答えられないなら、まだ世に出すには早いのかもしれない。
4.【プラットフォームの壁】コンソールとモバイル、思考法はどう違う?
買い切り型のコンソールゲームと、運営型のモバイルゲームでは、ビジネスモデルも、成功の定義も、そして求められる開発文化も根本的に異なる。この「文化の違い」を理解しないまま、片方の常識をもう片方に持ち込むと、プロジェクトはほぼ確実に失敗する。
コンソールゲーム(買い切り)
・ビジネスモデル :パッケージ販売による一括収益
・ゴール :発売日に「完璧な作品」を提供し、好レビューを集める
・品質基準:リリース時に200%の完成度を目指す
・重視する面白さ:フローゲーム(没入感、物語、達成感)
・開発者の役割:最高の「作品」を作る職人
・IPとの相性:非常に良い
モバイルゲーム(ライブ運営)
・ビジネスモデル :基本無料+継続的なアイテム課金
・ゴール:継続的なアップデートで「終わりなきサービス」を提供する
・品質基準:MVP(実用最小限の製品)でリリースし、ユーザーと共に改善する
・重視する面白さ:競争、収集、社会的地位
・開発者の役割:最高の「サービス」を運営する
・IPとの相性:作品内容による
コンシューマ側からみてソーシャル側は金儲けのことばかりを考えている邪道に見える。見えるが、本質的にはビジネスなので変わらない。ゲーム開発側がどこまでを責任範囲としているかの違いであり、コンシューマではプロデューサと役割分担しているから見えづらいだけである。
勘違いしないでほしいが、これは優劣の問題ではない。両者は全く異なる文化を持つ、別の世界の住人という位置づけである。近年、両者の境界は曖昧になりつつあるが、根底にあるビジネスモデルの違いを深く理解し、相手の文化をリスペクトすること。それが、プラットフォームの壁を越えるための、唯一にして最も重要な第一歩である。
《私たちにできること》
自分が作りたいのは「作品」か「サービス」かを明確にする
上記の性質を見極めたところで、まずはどうしたいのか?を再設計し、適切な市場を選ぶ必要がある。
「作品」を作りたいなら:買い切り型を選び、完成度を最優先にする。
「サービス」を運営したいなら:基本無料のモバイルゲームやPCオンラインゲームを選び、MVP(最小限の機能)で素早くリリースし、フィードバックを得ながら改善していく。
どちらが正解ということはないが、題材選び、どういう収益構造を狙うのか? 自社はどうすべきか、どういう方向性で人材を集めて成長するのか?の基本戦略と、自分の情熱とリソースに合った選択をすることである。
第2部:『何を作るか?』モバイルゲーム企画の4つの羅針盤
「どう作るか」の前に、そもそも「何を作るか」という問題がある。特に競争の激しいモバイルゲーム市場では、企画の出発点がその後の運命を大きく左右する。ここでは、代表的な4つの企画発想方法と、モバイルならではの設計思想について考える。
企画発想の4つのアプローチ
企画の立て方には、大きく分けて4つのアプローチがある。それぞれにメリットとリスクがあり、どれが正解というわけではない。
1. ニーズ起点(マーケットイン)
「今、市場では何が求められているか?」というデータやユーザー調査から企画する。需要が明確で、堅実に売上を見込みやすい。
・メリット:失敗のリスクが比較的低い
・デメリット:革新的なアイデアは生まれにくい。データ解釈を誤ると、的外れなものになる。常に後追いになりがち
2. 自己実現起点(プロダクトアウト)
「自分が本当に作りたいものはこれだ!」という情熱やアイデアを形にしやすい。
・メリット:強い情熱が、独自の魅力と高い完成度を生む。成功すれば、新しい市場を創造できる
・デメリット:独りよがりになり、誰にも受け入れられない可能性がある。市場性を無視した結果、大失敗するリスクが高い
3. トレンド追従
流行りのジャンルやテーマ(例:オートバトラー、サバイバーライク)に素早く乗るような手法。
・メリット:既存の市場があり、初期ユーザーを獲得しやすい。ヒット作の「お約束」を参考にできる
・デメリット:競争が非常に激しい。ブームが去ると、一気に陳腐化する。オリジナリティを出すのが難しい
4. 配信映え重視
「実況配信されたら面白そうか?」という視点で、見て楽しい、参加しやすい企画を考える手法。
・メリット:UGC(ユーザー生成コンテンツ)による拡散が期待できる。コミュニティが形成されやすい
・デメリット:ゲーム本来の「プレイする面白さ」が疎かになる危険性。配信者に飽きられたら、一気に求心力を失うリスク
モバイル特有の設計思想:「面白さ」から「習慣化」へ
コンソールゲームが「面白いかどうか」を重視するのに対し、モバイルゲームでは「毎日起動してくれるか」、つまり習慣化が極めて重要になる。
断続的な起動を促す設計
多くのモバイルゲームは、1回で何時間も遊ぶのではなく、通勤中、休憩中、就寝前など、1日に複数回、短時間で起動されることを前提に設計されている。ログインボーナス、時間で回復するスタミナ、デイリーミッションなどは、すべてこの「断続的起動」を促すための仕組みである。
これは、コンソールゲームの「一度プレイを始めたら、数時間没頭する」という体験とは対極にある。モバイルゲームは、ユーザーの生活リズムの「隙間」に入り込み、習慣の一部になることを目指しているのである。
「面白さ」の多様性:放置ゲームの成立
モバイル市場では、必ずしもアクションの爽快感や、深いストーリーだけが「面白さ」ではない。キャラクターを収集・育成する喜び、放置している間に資源が貯まる満足感(放置ゲーム)、ギルドの仲間とチャットする楽しさなど、多様な「面白さ」が成り立つ。
特に放置ゲームの成立は、モバイルならではの現象である。コンソールゲームでは、「ゲームをプレイしていない時間に進行する」という概念は受け入れられにくいだろう。しかし、忙しい現代人にとって、「ゲームを起動していない間も、キャラクターが自動で戦ってくれて、帰ってきたら報酬が貯まっている」という体験は、むしろ心地よいのである。
「面白くないとゲームじゃない」という固定観念は、モバイル市場では通用しない場合がある。重要なのは、「ユーザーの生活に寄り添い、ストレスなく続けられる体験」を提供することなのである。
企画の「目的」を明確にする
どのアプローチを選ぶにせよ、最も重要なのは「このゲームで何を目指すのか」を明確にすることである。
収益を最大化したいのか?:ニーズ起点やトレンド追従が有効である。
自分の作家性を表現したいのか?:自己実現起点が適している。
多くの人と繋がり、コミュニティを作りたいのか?:配信映え重視が効果的である。
目的が曖昧なまま開発を始めると、途中で迷走し、結局どっちつかずの中途半端なゲームになってしまう。
《私たちにできること》
自分のタイプを知る:あなたはデータ分析が得意な「ニーズ起点」タイプか?それとも、情熱を形にしたい「自己実現起点」タイプか?自分の強みと弱みを理解しよう。
アプローチを組み合わせる:「自分が作りたいもの(自己実現)」に、「流行りの要素(トレンド)」を少しだけ加えてみる、といったハイブリッドな考え方が有効である。
企画の「目的」を紙に書く:このゲームで何を目指すか?「収益を上げること」か?「自分の作家性を表現すること」か?それとも「多くの人と繋がること」か?目的を紙に書いて、デスクに貼っておこう。迷ったときの羅針盤になる。
「つい起動しちゃう」仕組みを考える:あなたのゲームに、ユーザーが「ちょっとだけ」と毎日起動したくなるような仕掛けはあるか?ログインボーナス、デイリーミッション、時間回復スタミナなど、モバイルゲームの定番メカニクスには理由がある。それらを単に真似るのではなく、「なぜこの仕組みが機能するのか」を理解しよう。
特別編:IP(知的財産)を選ぶべきか、選ばないべきか?
企画の方向性を決める上で、もう一つ大きな分かれ道がある。それは、既存の有名なIP(アニメ、漫画、小説など)を使うか、それとも完全なオリジナル作品を作るか、という選択である。
一見すると、有名なIPを使うことは、成功への近道に見える。すでに多くのファンがおり、プロモーションにおいても圧倒的に有利である。しかし、その裏には大きな代償とリスクが潜んでいる。
IP利用の「光と影」
集客力面
既存のファンベースがあり、初期ユーザーを獲得しやすい。プロモーションで話題になりやすい 。IPのファンは期待値が高く、要求も厳しい。
ゲームが失敗した場合、IPのブランドも傷つける
コスト
IPロイヤリティが広告費を超える集客力を見込める場合、支払うメリットはとても大きい 。
高額なライセンス料(売上の15%〜最大50%)。MG(最低保証金)として、売上に関わらず支払う必要がある場合もある。
また、継続的に支払う必要があるため、利益率はかなり低くなりやすい
製作のしやすさ
世界観やキャラクター設定を流用できるため、0から何かをすべて開発する手間が省ける
厳しい監修があり、IPホルダーの承認なしに何も決められない。拡張性の欠如により、原作にない要素を追加しにくく、ライブ運営に向かない
IPとプラットフォームの相性
結論から言えば、制約の多いIPは、ライブ運営型のモバイルゲームには向かないことが多い。
ライブ運営ゲームは、リリース後も継続的にイベントや新キャラクター、新機能を追加し、ユーザーを飽きさせない工夫が求められる。しかし、IP作品では、その全てにIPホルダーの厳しい監修が入り、開発のスピード感を著しく損なう。キャラクターのちょっとしたセリフ一つ、イラスト一枚にも承認が必要となり、自由な発想は制限される。
結果として、原作の世界観をなぞるだけの、拡張性のないゲームになりがちである。
一方で、完結型のコンソールゲームであれば、IPとの相性は比較的良い。初めから終わりが決まっているため、原作のストーリーを忠実に再現し、ファンが満足する「作品」として高い完成度を目指すことができるからである。
《私たちにできること》
自分のIPを育てよう
そもそも、個人開発者や小規模チームが、有名なIPのライセンスを獲得することは、コスト的にも人脈的にもほぼ不可能である。
しかし、悲観する必要はない。インディーゲームの歴史は、オリジナルIPの成功の歴史でもある。『Minecraft』も『Undertale』も、そして『Vampire Survivors』も、最初は誰も知らないオリジナル作品だった。
また、遅かれ早かれゲーム事業を継続するならば、最後は自社のIPが必要にもなってくる。
小さな世界観から始める:壮大な物語は必要ない。あなたの考えたキャラクター、あなたが作ったステージ、その一つ一つが、新しいIPの「種」である。
ファンと共に育てる:早期アクセスやSNSを通じて、ファンからのフィードバックを取り入れ、キャラクター設定やストーリーを一緒に作り上げていこう。ファンは、あなたのIPの最初の「伝道師」になる。
焦らない:IPが育つには時間がかかる。目先の利益を追うのではなく、長期的な視点で、自分の作品世界を大切に育てていこう。
IPは、借りてくるものではなく、自ら生み出し、育てるものである。その方が、はるかに創造的で、面白い挑戦だと言えるだろう。
特別編その2:販売価格の設計と、開発コストの回収計画
企画の方向性とIPの選択を決めた後、もう一つ避けて通れない現実的な問題がある。それは、販売価格の設計と、開発コストの回収計画である。
どれだけ面白いゲームを作っても、開発コストを回収できなければ、次のプロジェクトは存在しない。そして、この「価格設定」と「回収計画」は、開発者の自由意志ではなく、市場のムーブメントに強制されてしまうという厳しい現実がある。
市場に「強制」される価格設定
ゲームの価格は、プラットフォームとジャンルによって、ある程度固定化されている。ここで問題なのは、「開発コストを回収したいから、少し高めに設定しよう」という発想が通用しないことである。
例えば、あなたが1年かけて開発したインディーゲームを、「開発費を回収するために5,000円で売りたい」と考えたとしよう。しかし、同じジャンルの競合作品が1,500円で売られていたら、ユーザーは高い方を選びづらい。価格は、市場の相場によって決まりやすく、開発者の都合では決まらないことが多々ある。
そのため、今はゲームソフト以外の収益方法を考えることも多く、その点も考慮したサービス設計、ゲーム開発設計を考えておくことも頭の片隅に置いておきたい。
回収計画なき開発は「博打」である
この現実を踏まえると、開発を始める前に、販売価格と開発ボリューム・規模感から、現実的な回収期間を予測しておくことが不可欠である。
具体的には、以下の問いに答えられるかどうかが、プロジェクトの持続可能性を左右する。
開発コストはいくらか?(人件費、ツール費、外注費、マーケティング費など)
販売価格はいくらに設定できるか?(市場の相場を調査する)
何本売れば回収できるか?(開発コスト ÷ 販売価格 = 必要販売本数)
その本数は、現実的に達成可能か?(類似作品の販売実績、自身のマーケティング力を考慮)
回収後、次のプロジェクトに進めるか?(会社やチームの存続、生活費の確保)
これらの問いに明確な答えを持たないまま開発を始めることは、完全なる博打である。当たらなかった場合、会社は倒産し、チームは解散し、個人開発者は生活に困窮する。それは火を見るより明らかである。
持続可能性を確保するための対策
では、この厳しい現実に対して、我々はどう対処すべきなのだろうか。
1. 開発規模を「回収可能な範囲」に抑える
最も重要なのは、身の丈に合った開発規模を設定することである。
インディーゲームで1,500円の価格帯を想定するなら、開発コストは数百万〜数千万円以内に抑える(個人レベルで解決できる範囲に留める)
モバイルの基本無料ゲームなら、初期開発は最小限(MVP)にし、リリース後の収益を見ながら追加開発を判断する
「これだけの予算があるから、これだけのものを作ろう」ではなく、「これだけの予算で回収できる規模は、これだけだ」という逆算思考が不可欠である
2. 早期アクセス・クラウドファンディングで「先行回収」する
開発途中で資金を調達する手法も有効である。
早期アクセス(Steam):未完成の状態でリリースし、ユーザーからのフィードバックを得ながら開発を進める。初期の売上が、後半の開発費を支える
クラウドファンディング:開発前にファンから資金を募る。成功すれば、開発リスクを大幅に軽減できる
これらの手法は、単なる資金調達だけでなく、市場の需要を事前に確認できるという大きなメリットがある。
3. 複数の収益源を持つ
ゲーム本体の売上だけに依存せず、複数の収益源を確保する。
DLC(追加コンテンツ)の販売
グッズ販売(Tシャツ、アートブック、サウンドトラック)
Patreonやファンティアなどでのサポート受付
4. 「終わり」を明確にする
ライブ運営型ゲームの場合、「いつまで運営を続けるのか」という撤退基準を事前に決めておく。
「月間アクティブユーザーが1,000人を下回ったら、サービス終了を検討する」
「リリースから2年経過時点で、黒字化していなければ終了する」
こうした基準を持つことで、ズルズルと赤字を垂れ流し続けるリスクを回避できる。
《私たちにできること》
回収計画を「紙に書く」
開発を始める前に、以下の5つの項目を紙に書き出そう。
開発コスト:◯◯万円
販売価格:◯◯円
必要販売本数:◯◯本
達成可能性:(高 / 中 / 低)
失敗した場合の対策:(次の仕事を探す / 貯金で生活 / 家族に頼る)
現実を直視することが、持続可能な開発の第一歩である。
「最悪のシナリオ」を想定する
・もしこのゲームが1本も売れなかったら、あなたは生活できるか?
・もしプロジェクトが中止になったら、次の仕事はあるか?
この問いに「Yes」と答えられる、または覚悟が決められるならば、どんどん開発を進めよう。失敗しても耐えられる範囲で挑戦することが、長く開発を続ける秘訣である。
第3部:壁を越えるための「創造性の設計図」
ここまで、ゲーム開発の現場に横たわる「壁」を見てきた。では、任天堂やSupercellといった成功企業は、これらの壁をどう乗り越えているのだろうか? 彼らの「創造性の設計図」から、私たちが学べることを整理する。
1. プロトタイプ中心主義:「面白さ」を最速で具体化する
任天堂の開発哲学の核心は、「まず触って確かめる」ことにある。企画書や会議で延々と議論するのではなく、とにかく早く、粗くてもいいからプロトタイプを作り、実際に触って「面白いか?」を確かめる。
任天堂の開発者は、新しいアイデアを思いついたら、まず10分間プロトタイプを作ると言われている。これは、文字通り10分程度で作れる、極めてシンプルな試作品である。グラフィックは四角や丸の図形で代用し、コードも使い捨て前提。重要なのは、「この操作、もう一回やりたいか?」という感覚を、最速で確認することである。
《私たちにできること》
10分間プロトタイプを作ろう
あなたのゲームアイデアを、今すぐ10分で形にしてみよう。
・UnityやGodotなどのゲームエンジンで、四角や丸だけを使って、キャラクターの動きを実装する
・紙とペンで、カードゲームのルールを書き出し、友人と実際に遊んでみる
・Excelで、数値シミュレーションを行い、バランスが面白いかを確認する
完璧を目指す必要はない。「この感触、もう一回触りたいか?」という直感を確かめることが全てである。
2. 失敗を「学習」に変える文化
Supercellでは、プロジェクトが中止されると、チーム全員で「失敗パーティー」を開くという。これは、失敗を悲しむのではなく、「勇気ある決断」を祝うためのイベントである。
このような文化があるからこそ、開発者は安心して「このゲームは面白くない」と正直に言える。そして、その失敗から得た学びを、次のプロジェクトに活かすことができるのである。
《私たちにできること》
失敗を記録し、公開しよう
プロジェクトが失敗したら、その経験をブログやnoteに書こう。
何を目指したのか?
なぜ失敗したのか?
何を学んだのか?
こうした記録は、あなた自身の成長の証であり、同じ道を歩む仲間への貴重な贈り物にもなる。
3. 勇気ある撤退:「やめる決断」こそが、次の成功を生む
Supercellは、開発中のゲームの約90%を中止すると言われている。これは、失敗を恐れているのではなく、「面白くないものを世に出さない」という強い信念の表れである。
撤退は、失敗ではない。それは、限られたリソースを、本当に面白いゲームに集中させるための、戦略的な選択なのである。
《私たちにできること》
撤退基準を紙に書いて貼る
プロジェクトを始める前に、明確な撤退基準を設定し、紙に書いてデスクに貼っておこう。
「3ヶ月開発して、友人10人中8人が『面白い』と言わなければ、中止する」
「週20時間投入して、3ヶ月間収益が0円なら、一度中断する」
感情に流されず、客観的な基準で判断することが、長く開発を続ける秘訣である。
4. 枯れた技術の水平思考:「新しさ」は、最新技術ではなく「組み合わせ」から生まれる
任天堂の伝説的な開発者、横井軍平氏が提唱した「枯れた技術の水平思考」は、今なお任天堂の開発哲学の根幹をなしている。
これは、「最新の技術を追いかけるのではなく、すでに成熟した(枯れた)技術を、誰も思いつかなかった方法で組み合わせる」という考え方である。
例えば、ゲームボーイは、発売当時すでに「時代遅れ」と言われた白黒液晶を採用していた。しかし、その代わりに電池寿命が長く、価格も安く、持ち運びやすいという、他のゲーム機にはない価値を提供した。結果、世界中で1億台以上を売り上げる大ヒットとなった。
《私たちにできること》
自分の「武器」を再発見しよう
あなたが既に使い慣れている道具や技術こそが、あなたの最大の武器である。
Excelが得意なら、Excelでゲームを作ってみる(実際に『Excel Saga』というゲームが存在する)
紙とペンが好きなら、紙芝居風のビジュアルノベルを作る
動画編集が得意なら、インタラクティブな動画ゲームを作る
最新のUnityやUnreal Engineを学ぶ必要はない。あなたの「当たり前」が、他人にとっての「新しい遊び」になる可能性は十分にある。
第4部:我々が戦う「失敗の海」の現実
ここまで、ゲーム開発の「壁」と、それを乗り越えるための「設計図」を見てきた。しかし、現実はさらに厳しい。我々が戦う市場は、かつてないほどの激変期にある。
1. 市場環境の激変:2024年、超大作の連続失敗
冒頭にも書いた、『Suicide Squad』は数億ドル以上の開発費をかけながら、売上は低迷して1年ほどでコンテンツ提供は終了。『Concord』は同じく推定4億ドル以上の開発費をかけたにもかかわらず、リリースからわずか2週間でサービス終了、スタジオ閉鎖。『xDefiant』は初期の成功もプレイヤー数が急減し半年でサービス終了。『Foamstars』はPlayStation Plusでの提供にもかかわらず、プレイヤー数を維持できなかった。
これらの超大作が示したのは、制作中の期待値も高く、大規模な人員と有能なスタジオクリエイターが集まり、莫大な予算を投じても、市場に存在する「面白さの基準」と「プレイヤーの期待」を読み違えれば、一瞬で崩壊するという厳しい現実である。
仮にいいゲームであったとしても、出遅れたサービスや、ユーザーの既存サービスと代替できないのであれば成立しない——このことを全世界に再認識させられた。
2. ユーザーライフサイクルの変化:「可処分時間」という戦場
また、ユーザー自身のライフサイクルも原因にある。2010年代前半にソーシャルゲームが流行った世代は、当時20代だった。彼らは今、30代後半〜40代。2010年代前半の彼らは、可処分時間が豊富で可処分所得は少ないが、時間に余裕があったとも言える。しかし2020年代の彼らは、可処分時間が激減(仕事、家庭、育児)していると推測できる。
3. コンテンツ経済の激変:ゲームの競争相手は、もはやゲームだけではない
ゲームは常に「コンテンツ経済」の中で戦っている。YouTube、TikTok、Netflix、Amazonプライム、Spotify、Apple Music、SNS、Webコミックなど、無限に時間を奪うコンテンツが現れ、ゲームと同じ「可処分時間」を奪い合っている。
総務省の「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、日本人の1日あたりのインターネット利用時間は平均約168.5分(約2時間48分)に達している。その内訳を見ると、ゲームは平均約30分と、全体のわずか18%程度という数字が出ている。しかも、その30分は既存ゲームに固定化されていることも多く、新規ゲームが入り込む隙間はほぼできてきない。
ニッセイ基礎研究所の「タイパの経済学」が示すように、現代の消費者は「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重視するようになっており、「短時間で満足感を得られるコンテンツ」が選好される傾向が強まっている。
仕事で疲れて帰ってきたユーザーは「気軽に楽しめるコンテンツ」を求めている傾向にあるが、その要求に応えられているゲームは少ないのかもしれない。今やゲームに興味ある人の欲求を程よく満たすものが、いわゆるゲーム配信であったり、VTuber等による実況動画に代替されている。
《私たちにできること》
「タイパ」を意識したゲーム設計
最初の5分が全て:ユーザーは、最初の5分で「このゲームは自分に合っているか」を判断する。長いチュートリアルや複雑な説明は避け、すぐに「面白さ」を体験できる設計にこだわる
「ながらプレイ」を許容する:動画を見ながら、音楽を聴きながらでも楽しめるゲームは、現代のユーザーに受け入れられやすい
短いセッションで満足感を:1セッション5〜10分で、小さな達成感を得られる設計にする。長時間拘束するゲームは、忙しい現代人には敬遠される
4. 運営型ゲーム特有の「4つの罠」
運営型ゲームには、時間の経過とともに避けられない構造的な問題がある。
1.復帰しづらさ
サービス開始から2年経つと、新規プレイヤーや復帰プレイヤーが「今から始めても追いつけない」と感じる
・対策案:定期的な「リセット」イベント、復帰者向けのキャッチアップ施策
2.UI複雑化
新機能を追加するたびにUIが複雑になり、新規ユーザーが理解できなくなる。特にインベントリの多さが圧迫していて整理に時間を取られていて疲れてやめるっていうケースも多い
・対策案:定期的なUI刷新、不要な機能の削除、自動最適化でのプレイ
3.新規との乖離
古参ユーザーと新規ユーザーの間に、埋められない格差が生まれる
・対策案:新規専用サーバー、スキルベースのマッチング
4.インフレ
パワーインフレが進み、過去のコンテンツが無意味になる。
・対策案:横展開(新しい遊び方)を重視し、縦展開(強さのインフレ)を抑える
《私たちにできること》
個人開発者や小規模チームが運営型ゲームを作る場合、これらの罠を最初から回避する設計が重要である。
「終わり」のあるゲームにする:無限に続く運営を前提とせず、「1年で完結するストーリー」など、明確な終わりを設定する。区切りをつけて、新旧の価値観やシステムで遊べる展開や仕組みを作る
シーズン制を採用する:3ヶ月ごとにシーズンをリセットし、全員が同じスタートラインから始められるようにする
コミュニティを大切にする:少数でも熱心なファンがいれば、ゲームは続けられる可能性は高い。Discordサーバーを作り、プレイヤーと直接対話するケースは海外では多いが、日本での成功事例はあまり見たことがないうえに、運営コストが高くなるので注意が必要でもある
最終章:それでも、私たちはゲームを作り続ける
ゲーム開発の道のりには、無数の「壁」が立ちはだかる。それは時に理不尽で、時に残酷でもある。しかし、一つだけ言えるのは、これらの巨大な壁を、仲間と共に知恵を絞り、試行錯誤を繰り返しながら乗り越えていくプロセスそのものが、他の何にも代えがたい、最高の「ゲーム」なのかもしれないと、我々開発者は気づいているのかもしれない。
今日から始める具体的なアクション
最後に、それぞれの立場から今日から始められるアクションを整理しておきたい。あくまで私個人の小さな経験則であるため、参考程度に見ていただけたら幸いである。
開発者の生存戦略
現場のクリエイターは、構造という大きな力の前で最も無力に感じやすい存在である。しかしながら、ゲームを作り続ける以上、とにもかくにも面白さのコアループを実践しなくてはならない。そして、いきなりお金をかけるのではなく、その評価ができるところまでのMVP(実用最小限の製品)を、最小チームで「10分間プロトタイプ」等の制作に集中し、「もう一回遊びたいか?」という定性評価基準を創る必要があるのかもしれない。
同時に、プロダクト設計にもよるが、ライブ型にする場合は「復帰障壁」を限りなく下げる設計、標準化も重要である。新規参入が絶望的な今、一度離れたプレイヤーに「いつでも帰ってこれる」という安心感を提供することは、ゲームの寿命を左右する。
また、コミュニティを「共創者」として迎え入れることも欠かせない。よほどの知名度なり天才型の開発者だけで面白いゲームを作る時代は終わっている。我々凡人が仕掛ける際には、プレイヤーを開発の初期段階から巻き込む「共創」こそが、現代のヒット作を生む原動力とも言えるからであり、それが最大のマーケティングにもなっているからである。
経営者の生存戦略
一方、開発現場の変革には、それを支え導く経営判断と組織文化の変革が不可欠であるとも言える。「勇気ある撤退」を称賛する文化を醸成すべき、とは言いたいところだが、残念ながらその設計の再現は無理だと思っている。
そのため、面白くないと判断されたプロジェクトを早期に中止することや撤退基準を明確にすることが、ある種開発者を保護する小さな方法なのではないかとも考えている。
対策の1つとしては、失敗もしっかりと評価する制度を導入し、経営者自らが「撤退は失敗ではない」というメッセージを繰り返し発信すること、そして「じゃぁ次はこうしよう」という指針を示し続けることも、良いコンテンツを創り出すためには必要なことなのかもしれない。
脱・一本足打法ポートフォリオの構築も求められる。ハイリスク・ハイリターンな大型ライブサービス一本足打法は、もはや企業の存続を脅かすギャンブルである。社内にインディーゲームのパブリッシング部門を設立したり、小粒でもキラリと光る買い切り型タイトルを自社開発するチームを支援したり、休眠IPやマイナーIPを戦略的に活用したりすることを検討すべきである。
次世代ビジネスモデルへのR&D投資も必要である。ガチャ依存からの脱却はもはや避けて通れない経営課題である。バトルパス型、サブスクリプション型など複数のマネタイズモデルを小規模にテストし、規制リスクを想定したシナリオプランニングを行い、「ガチャなしでも成立するゲーム設計」を研究した方がいい。
プレイヤーとしてできること
プレイヤーは、単なる消費者ではない。お金と時間を使うことで、市場に「投票」しているのである。
本当に面白いゲームにはお金を払い、ガチャに依存しないゲームを積極的に応援しよう。「無料だから」という理由だけで、質の低いゲームに時間を使わないようにしよう。ゲームの良い点、悪い点を開発者に直接伝え、レビューを書き、SNSで発信しよう。好きなゲームのコミュニティに参加し、新規プレイヤーを歓迎し、健全な議論の場を作ろう。
素人・個人開発者の生存戦略
最後に、私たち素人や個人開発者が、この厳しい市場で生き残るための絶対に抑えておきたい3つの戦略をまとめる。
❶「完璧」を目指さない(MVP思考)
最初から全ての機能を盛り込んだ完璧な製品を目指すのではなく、「顧客に価値を提供できる最小限の機能」だけを実装して、素早く世に出す手法。ここは大小関わらない。
❷「コミュニティ」という名の共犯者を見つける
一人で開発していると、モチベーションを維持するのは困難である。SNSやDiscordなどで、開発の進捗を報告し、フィードバックをくれる「仲間」を見つけよう。
❸小さく始めて、大きく育てる
最初から大作を目指すのではなく、小さなゲームを完成させることから始めよう。『Vampire Survivors』の開発者も、最初は小さなプロジェクトから始めた。小さな成功体験を積み重ねることで、次第に大きなプロジェクトに挑戦できるようになる。
おわりに:失敗の海を越えて
悲壮的な内容や、到底マネできないことが多かったかもしれないが、いきなりすべてのことをやってのけようと思う必要はなく、1つひとつを試していくしかないことも多い。
あくまでこれは私が経験してきた中で、開発前に考えること、考えてきたことを一部ピックアップしてみただけであり、毎回すべてのことを考えられているか?というとそうではない。
一番ダメなパターンは、石橋を叩いて叩いて渡らないっていうことで、ゲームを創ろうと思っているのになにも動かない、動けないのは意味がない。あくまでも大失敗を防ぐための事例として読んでいただきつつ、自分の開発スタイルで活かせる部分をご活用いただきたい。
何年もやってきたけど、ゲーム開発は、いまだにこれといった成功法則が分らない。実際、ゲーム開発とは、変数の塊に満ちた航海のようなものとも言える。
なんとなく成功という大陸を目指して進み始めるが、巨大な戦艦(超大作)ですら次々と沈んでいく世界でもある。
しかし、そんな海にも、小舟でしかたどり着けない、誰も知らない楽園もあるし、大小関わらずにたどり着ける場所であるということも断言できる。
本記事で紹介した思考法は、穴だらけの考え方である。しかし、少なくとも、嵐を避け、座礁のリスクを減らすための、小さなヒントにはなるかもしれない。
本稿が、一人でも多くの挑戦者にとって、もっとがんばろう、もっといいものを必ず誰かに届けようと思ってもらえれば幸いである。
シェアやフォローはお任せしますので、別の記事等も読んでいただきつつ、感想、思うところ、あなたのプロジェクト等をコメント欄等にいただければ幸いです。
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この記事の続きとして、AIを使ってゲームを1本作り、売るところまでを連載で書いています。
何を作るかの決め方、面白さの作り方、作り切れる大きさの決め方、売り方の種類まで。
ゲームの現場で26年、実際に判断してきた順番のまま並べています。
連載の一覧(マガジン「AIを使ったゲーム制作と販売方法」)
https://note.com/ukyousan/m/m1a906d03033f
連載の有料回は、メンバーシップ「ゲーム × 仕事と人生の設計工房」(月980円)で、すべて読めます。
1本ずつ買う(1本1,980円)より安く、新しい回も追加料金なしで読めます。
https://note.com/ukyousan/membership
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運営型ゲームの構造の話も書きました。
・運営型モバイルゲームが生き残りづらい構造的理由と、その突破口
https://note.com/ukyousan/n/n68014445fb7f
・2026年、いまソシャゲを作るならどう考えるか? 捨てるものと残すもの
https://note.com/ukyousan/n/ncc26c85bc75a
・スマホゲーム事業者の倒産が過去最多ペース|〜私たちは開発者としてどう生きるのか?〜
https://note.com/ukyousan/n/n0e864280e0b4
売り方と、そのあとのキャリアの話も書きました。
・【ゲームの企画設計】「良いものを作れば届く」は祈りでしかない。"認知の設計"を意図して作れ
https://note.com/ukyousan/n/n5003a14e0c92
・「ノープロモ」ではなく、"設計されたプロモーション"だった。『めっちゃカメレオン』発売前4週間の構造を読み解く
https://note.com/ukyousan/n/n9844cf225a7e
・ソシャゲ経験「しか」ない人の、次の一手 ─26年の現場と知人の話から、20代・30代・40代別に書く
https://note.com/ukyousan/n/nb1963c9f13e0