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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.39「星なき朔の倜」

    「甚がないなら垰れ。」
    揺るぎなく、そしお冷たい男の声。
    決しお俺に向けられた蚀葉ではないにも関わらず、なぜこんなにも腑はらわたから熱を奪う
    なぜこんなにも県窩を痛め぀ける

    「今日は新月だ。気を぀けお垰れ。」
    そう付け足すず、男は足早に立ち去った。
    遠ざかる青緑の背広の背はたるで、霧がかる針葉暹林のように芋える。
    圌の去り際に生たれた颚は、俺を凍こごえさせた。

    倧ちゃんがぞなぞなず厩れ萜ちおきた。
    「はあ  なんだべもう  俺、あい぀ず喋るず生気吞い取られんだ  吞血鬌みおえな男だ  」
    蚀い埗お劙だ。
    俺は黙っお頷く。
    「朔ちゃん 䜕おめえ偉そうに腕組んで  」
    俺はしばらくその男を芳察しおいた。
    「そりゃあ、あながち間違いでもねえかもな。」
    「おめえが偉そうっおこずかい」
    「  」
    「朔ちゃん  」
    「もういい、おめえには䜕も教えねえ」
    「シッ」

    声を倧きくしおしたった俺はその人差し指ず俄かに怯え出した瞳に嗜められた。

    倩窓から降り泚ぐ光の色は少しず぀数を枛らしおいる。

    秋の陜は釣瓶぀るべ萜ずし。
    研究棟の倖階段を䞃段降りたずころで倧ちゃんが立ち止たる。
    俺はただ䞉段しか降りおいない。

    「で、甚は枈んだんけ」
    「あ。」
    「『あ』でねえよ 甚があっから来たんでねえのかい」
    俺は䞋唇を噛んで笑う。
    「悪わりィな、倧ちゃん なヌんも、なヌんもだ」
    「ほんっずにおめえっおや぀は  」
    途端にビョりッず颚が吹き倧ちゃんの倖套の裟が県球めに圓たる。
    「おい、こら 埅お」
    倧ちゃんは俺には目もくれず階段を駆け降りおいく。
    「朔ちゃん 䜕やっおんだ、おめえのも  」
    「え あ ああ」
    垜子が銀杏の葉ず䞀緒になっお道を滑っおいる。

    俺ず倧ちゃんは倢䞭で走った。
    ようやく垜子を捕たえるず倩井・・には黄金こがね色の葉が幟重にも折り重なっおいる。

    「朔ちゃん、捚おおけよ。」
    「なっ  」
    「図星だべ」
    「うっせえや」

    門番の男が笑いながらあくびをした。

    「なあ、倧ちゃん」
    「なんだい」
    「この孊校の時蚈っおのは、信頌しおもいいもんかい」
    「そりゃあおめえ  だめに決たっおんだろう 忘れたのかい」
    「え」
    「たず倧銀杏の暪のは八分遅れだ。それから、二号棟入っおすぐが五分遅れ。図曞通が十䞉分遅れ。」
    「怍朚先茩の懐䞭時蚈が二分遅れ、䞀号棟の䞀番奥が六分遅れ  」
    思い出した。
    蚘憶が湧き䞊がっおきた。
    「門番の時蚈が十五分進んでお、唯䞀正確なのは  」
    倧ちゃんず俺はにやりずし、芖線をぶ぀け合った。

    ──校長の腹時蚈

    「なあ、倧ちゃん」
    「今床はなんだい」
    倧ちゃんは時蚈問答の䜙波から半笑いどころではなく、過半数笑いほどの笑いをたたえおいる。
    「走るぞ」
    俺は今にも姿をくらたそうずしおいる倪陜を指さした。
    「え」
    「䞋宿たで走る」
    「だどもおめえ足、遅えでねえか」
    「うっせえ」
    嚁勢よく駆け出したは良いものの、あっずいう間に足がも぀れ地に転ころげた。
    その拍子に右の䞋駄が門の倖にすっ飛んでいった。
    ひっくり返った肺が喉から出たり入ったりするかの劂く咳き蟌んでしたった。
    「ほれ芋ろ そもそも䞀寞ちょっず前に走ったばっかりだべ」
    ず倧ちゃんは腕組みしながら蚀う。
    その䜙裕綜々しゃくしゃくぶりに腹を立おた俺は䜕か報いようず思案したが䜕も思い぀かず、裞になっおいる右足を睚み、ただ唇を尖らせおいた。

    「朔ちゃん、埅っおろ。」

    戻っおきた倧ちゃんは「乗れ。」ず蚀い、地に片膝を぀けた姿勢で自分の背䞭を芪指で瀺した。
    「いんや、歩けっから。」
    「これでかい」
    䞋駄の錻緒はちぎれおいた。

    こんな時に限っお、ず嘆く俺を倧ちゃんは笑う。
    「銬鹿蚀うんでねえよ 灜難さんはこんな時でなかったらい぀くればいいもんかわからんべ」
    九割方、腑に萜ちた。
    しかし口を぀いお出たのは、「なんだい、それ」。
    残りの䞀割の方だった。

    「だどもおめえなんか急いでるんでねえのか」
    「え」
    「勘だ、勘。ほれ」
    倧ちゃんは「しっかり぀かたっおるんだど」ず蚀っお俺をおぶった。

    半笑いの門番の暪を通り過ぎるず、校舎の方から聎き芚えのない、䞍気味なたでにがやけた鐘の音ねがする。

    「なんだべ、この鐘。」
    「おめえも聎こえたか」
    「ああ。だども初めお聎いた。」

    どうにも背の枩みず揺れずで心地が良い。

    「ただ鳎っおんな  」
    「もう鳎っおねえよ、䜕蚀っおんだ朔ちゃん。」
    「  」

    瓊斯灯の光はただ、眠りきれずにぐずる陜をあやしおいる。

    䞀本調子の鐘の音は、やはりただ鳎っおいる。
    吊、泣いおいる。

    「朔ちゃん」

    小さな頭が芋える。
    陜に透かされたその髪は、やや栗の実に䌌た色をしおいる。

    「  」

    「倧ちゃん    おめえ今誰かず手、繋いで  」

    睫毛越しに芋えおいるその小さな頭はどうにも芋芚えのない少幎のようだった。

    「䜕蚀っおんだ おめえの䞋駄だべ」

    倧ちゃんの倧声に驚いた少幎の頭がビクッずしお芋䞊げようず動く。

    「  ああ。䞋駄だ。」
    「怖ェこず蚀うんでないよ これで俺、倜䞭厠かわや行けなくなったでなえか 朔ちゃん、おめえ぀いお来おくれんだろうな」
    「たた泊たる気かい」
    「責任ずれ」

    幟床ずなく魔物ずすれ違った。
    鐘の音はもう、消え去っおいた。

    䞋宿ではむペさんが真っ赀な顔で䞃茪を仰いでいる。

    「おんや、たた倧ちゃんかい」
    ふうず炎でも吹きそうなため息のあずむペさんは、
    「朔ちゃん あんたはどうしおこうもだらしないんだい」
    「ん」
    俺はただ倧ちゃんの背䞭におぶさったたただ。
    「たず、そこ」
    土間ず食堂の間に、脱ぎ捚おた圢のたたの枯草色の着物が萜ちおいる。
    「それから  」
    むペさんの目は土間から食堂にかけおをぐるりず芋枡し、䞃茪で音を立おる鯵の干物で止たった。

    俺は倧ちゃんの背䞭から降りるず、銖を傟けたたた階段を登る。
    枯草色を抱えお。

    郚屋に入るなり垜子を投げ捚お、倖套を振り萜ずし、ぎこちない指で五぀ボタンを倖しおいった。

    「なあ、朔ちゃん。おめえなんおずこでその着物脱いでったんだい」
    倧ちゃんは倧笑いだ。
    「いんや 俺はここで脱いだ。」
    「本圓かい」
    「疑うのかい」
    「うん」
    「  倜䞭、厠぀いおっおやんねえからな」
    「あ それは卑怯だど」

    ただ厠のこずをぶ぀ぶ぀ず唱える倧ちゃんを連れお階段を降りた。
    俺はずうに焌けた干物を皿に乗せおいく。

    溶け萜ちた脂のせいだろうか。
    炭はいやに高く焔を噎き䞊げおいた。

    倕选ゆうげの間、倧ちゃんは俺の暪で舟を挕いでいた。
    時折俺の肩に衝突しおはもう反察の孊生の肩に衝突するこずを繰り返す。
    俺ず孊生の肩が難砎船の劂くなっお来た頃ようやく目を芚たし、目にも止たらぬ早さで皿の䞊から怀の䞭身たで腹に仕舞い蟌んだかず思ったら「寝る」ずだけ叫んで階段ぞず向かっおいった。

    「倧䞈倫かい」
    至極圓然のこずのように俺の煎逅垃団にくるたった倧ちゃんは、うわごずのように呟く。

    「アオミドロ  吞血鬌め  」

    皋なくしおゎオゎオずいびきが聎こえ、俺は郚屋の灯りを消した。

    再び階䞋ぞず降りた俺は片付けを枈たす。
    珍しく、䞀枚たりずも皿を欠くこずなく。

    「おやすみなさい。」

    食堂で寝こけおいるむペさんの肩に、仏壇暪の毛垃をかけた。

    郚屋は䟝然ずしお倧ちゃんから発せられる蜟音で満たされおいる。
    しかし俺は蜟音に甘んじるこずなく垃のこすれる音をも蚱さぬほどに神経を尖らせ、枯草色を脱ぎ捚おた。
    そしお、倜闇色に五぀の金を茝かせ郚屋を出る。
    着物はたたみ、小卓の暪に眮いおある。

    玄関の䞋駄は壊れたたただ。

    「悪わりィな、倧ちゃん。借りるよ」
    俺は履き慣れぬ革靎で歩み出した。
    靎の䞭でやたらず足が遊ぶ。
    ぎゅうぎゅうず玐で瞛り䞊げるずかろうじお真剣みを持ち前ぞず進む。

    あの男のいう通り、空には月はおろか星さえも茝いおいなかった。
    光のない黝あおぐろい空を街灯が照らしおいる。

    ズッ、ズッず靎を匕きずる䞍気味な音が付き纏っおくる。

    俺は垜子の鍔の先を䞀心に芋据え、ただただ前を目指した。

    今再び、鐘が鳎り響き始めた。

    (続)

    ↑
    䞊原掟
    森田掟
    それずも飯沌掟
    私は小村掟。


    ↑
    ステンドグラスっおたたに倉な光り方したせんか

    ↑
    倧正の朔也、平成の瑞暹。
    どちらも悩む。

    ↑
    悩みの倖圧がすごい恭平。

    ↑
    【゚ッセむ】
    初倢は宿䞻に䌌る。

    ↑
    ゆきお様・䜜
    䞍穏ず笑いのミルフィヌナ。
    きっず笑えるミルフィヌナ。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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