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【完結枈】暗号ず少幎【神無月狂想】ep.2/11

    「じゃあ、質問を倉える  」
    空調もなく嵌はめ殺しの窓䞀枚の、この郚屋の空気はすっかり柱み切っおいた。
    先生ず俺は僅かに残る綺麗な空気を奪い合った。
    熱の出はじめに䌌た、脈打぀頭痛が芖界に膜を匵る。

    「あの日、癜石におかしなずころはなかったか  」
    「おかしなずころ  」

    そもそもあい぀がおかしくないこずなんお、未だか぀おあっただろうか。
    ずはいえ、先生に問われるたで奎の異垞性に぀いお党く意識しおいなかった。
    ずもすれば、すっかり調教し぀けられおいたのは俺の方じゃないのか  

    「僕がどうかしたしたか」
    隣から声がした。
    時蚈の針が震える音が、その声に続いた。

    「は お前  どこから入っおきた」
    「え  そこですけど。」
    癜石の指先は扉の方を向いおいる。
    右頬を机に抌し付け、巊目だけで俺を芋䞊げおいる。
    やたらに分厚い本を開いたたた。

    「たたお前、倉な本  」
    「倉な本ずは倱瀌な  䜜者もさるこずながら、これ、、を入れるず決めた本田先生にも倱瀌でしょう」
    あの人、本田先生っおいうのか。
    っお、そこじゃねえだろ。
    癜石はペヌゞを䞀枚めくっおは䞉枚戻る、戻ったずころからたた読み始めお、玙束を䜜っおぱらぱら玙を萜ずす  そうだ、ちょうどトランプをきるような、劙な読み方をしおいた。
    時折、数字やアルファベットの矅列がやたらず鮮明に迫っおくる。

    「なあ、りょ  癜石」
    気怠げな瞳の䞭で、俺の顔が揺れおいる。
    「なんでしょう。」
    奎は本から離した瞳をゆっくり閉じ、そしおそれよりもっずゆっくり開けた。

    開きっぱなしの本はこちらの意思ずは無関係に持ちうる情報を俺の目に泚ぎ蟌んでくる。

    ──「メアリヌ」「犬」「唇」「銖」「執行人」  

    う぀䌏せの黒い服の女の埌ろに癜い服の男が立っおいる。
    その手前で䜕やら腕を広げる聖人らしき老人。
    建物の倖では火が焚かれおいる。
    䟋の癜服の男は斧を振り䞊げお  

    癜黒の䞖界が赀く染たる。

    ──読解䞍胜  

    「貞せ」
    いいずもだめずも蚀われる前に、俺は癜石から本をぶんどった。
    おぞたしい西掋画のペヌゞを飛ばした。
    厳いかめしい顔をした男の肖像画が珟れる。
    あんたに甚はない。
    そしおたた䞀枚、ペヌゞをめくった。

    どうやら、この分厚い本ですら、この男を理解するためのロれッタ・ストヌンにはなりえないらしい。

    本を閉じ、奎に突き返した。

    「䜕か、わかりたしたか」
    「いや  」
    ただ、頭の䞭で数字ずアルファベットが瞞暡様を䜜ったたたぐらぐらず揺れながら枊巻いおいる。
    「君がわからないんじゃ、僕がわからないのも圓然ですね  」
    奎はたた本を開き、薄めを開け、謎の蚀語を吐息に溶かしお浮かべおいた。
    なけなしの空気に異物が混入し、かえっお息がしやすくなった。

    守る必芁もない沈黙を埋儀に守り続けおいた先生が、ようやく口を開いた。

    「癜石。お前、倧䞈倫か」
    いや、埅お。
    挠然ずし過ぎだろう。
    それに、倧䞈倫じゃない奎ほど倧䞈倫っお答えるんだよ。
    そんなの垞識だろう。
    癜石は䜕も答えなかった。
    盞倉わらず、頬を机に抌し぀けたたた、虚ろな目を本に向けおいる。
    「  じゃあ、質問を倉える。」
    デゞャノ。
    もしやこれはこの教垫の口癖なのか
    ならば今床、授業䞭「正」の字で  

    「癜石、こい぀、、、になにかされたのか」
    「はあ」
    先生は手元の原皿甚玙ず俺、そしお癜石を芖線で結んだ。
    「だから俺はなにも  」
    颚もないのに、吊り䞋げの裞電球が揺れた。

    「お忘れですか あの倜のこずを。」
    「あの  倜  」
    「は え ちょ  」

    桜島は煙っおいた。
    月に照らされた煙は玫色で、山の茪郭は倧気ず混ざっおがやけおいた。
    星の倚い晩だ。

    普段ならただ起きおいるような時間だずいうのに、俺はもう眠かった。
    垞倜灯ず廊䞋から挏れ入る光が明滅しおいる。

    「怋」
    「なんでしょう。」
    癜石は巊頬を枕に沈めおいた。
    䞉冊の文庫本は、開かれるこずなく奎の顔のそばに転がっおいる。

    「寝ろよ。」
    だめだ  
    瞌が萜ちおくる。
    「君こそ。」
    劙に倧人びお聞こえた声に、俺は反発したくなった。
    指で瞌をこじ開ける。
    ラむトの明滅が止たった。
    「寝ない。早過ぎる。」
    隣の郚屋から、埮かに笑い声が聎こえる。
    「お疲れなのでしょう」
    たあそれはそうだ。
    䞻に、お前のせいだがな。
    「君。シュヌベルト掟ですか、それずもお江戞がいいですか。」
    「は」
    「子守唄ですよ。」
    結構だ。
    それこそ、お前の子守唄で眠りに萜ちるなんお、カノッサよりも屈蟱だよ。
      ずは
    蚘憶ず意思ずが荒唐無皜な繋がりを持ち始めた。
    たずい。
    「冗談ですよ。」
    いらないこず蚀いやがっお  
    指が先に力尜きた。
    シヌツの䞊で動かなくなった指の向こうで癜石は黙っおこちらを芋぀めおいる。

    茶瞞の猫が、ゆっくりずたばたきを繰り返す。
    お前は  ゞェットの方か。
    おいで。
    猫は気たぐれだ。
    こんな呌びかけに応じるわけがない。
    そこが奜きだ。
    そういうずころが、奜きだ。
    俺は撫でようず手を䌞ばす。
    倚分、ゞェットは去っおいく。
    だけど  

    うっ、ず呻めきが挏れた。
    身䜓がどこか、段差から萜ちたような衝撃で目が芚めた。
    しかし身䜓はさっき、眠気に抗ったずきのたただった。
    窓の倖で桜島は盞倉わらず煙っおいる。

    「なんだよ  」

    癜石もたた、さっきの圢のたただった。
    そしお、ゆっくりずたばたきをする。
    ゞェットず同じ速床で。

    奎は䜕も答えなかった。
    気味が悪い。
    俺は小甚に立った。

    なぜ、あい぀は俺を芋おいるんだ。
    思い返せば、昌間っからこんな調子だった気もする。
    どのあたりからだったか  

    空枯に着いた時は  
    違う。
    あい぀は確か、南囜の草朚を眺めおいた。
    それでなんだったか、銬鹿でかい虫を捕たえお、俺がそれを怒っお  

    「知芧に぀いたら抹茶゜フトを食べたしょう。」
    「晩飯。お前、晩飯食えなくなるだろ。」
    「ああ  」
    癜石はしょげおいた。
    目を䌏しお、薄っぺらい腹をさすっお。
    「わかったよ、わかったから。食おうな、抹茶゜フト。」
    でも結局、抹茶゜フトは売り切れおいた。
    機械の調子が悪いずかで。
    代わりにチョコずかバニラずか色々あったのに、こい぀は結局なにも買わなかった。
    俺はバニラを買った。
    ひずくち勧めた。
    別に、党郚舐めおくれたっおよかった。
    でも癜石は、結構です、ずだけ蚀っお隣で空を眺めおいた。
    朚陰。
    もう十月だずいうのに、汗が止たらなかった。

    集合の号什がかかった。
    「井䞊 飛行機です。」
    癜石はもう、けろっずしおいた。
    倖に眮かれた錆色の飛行機だずか、癜い塗装のわりあい新そうな小型飛行機に目を茝かせおいた。

    あい぀があたりにも建物の䞭に入らないから、枡蟺が小脇に抱えお、本圓にちょっずした荷物を運ぶみたいにしおようやく展瀺スペヌスに入ったのだった。
    もう、他の奎らの姿は芋えなくなっおいた。

    ここでもあい぀は出遅れおいた。

    「あれ、癜石どこ行った」
    「井䞊、お前探しおこいよ。」
    この二文が呪いの蚀葉のように繰り返された。

    その床に俺はあい぀を探しに行った。

    䞀床目、癜石は特攻服に身を包んだ少幎や青幎の写真を眺めおいた。
    どうした、ず蚀いかけおやめた。
    奎の頬が、いや、身䜓が厩れそうだったからだ。
    声の振動にすら耐えられなそうな、脆い暪顔をしおいたのだ。
    癜黒写真の圌らの以䞊に、色を少なくなった癜石がそこにはいた。
    俺は黙っお、腕をひいた。
    よろめきながら、奎は぀いおきた。

    二床目、奎は圌らの曞いた遺曞を読んでいた。
    囁くように、読み䞊げおいた。
    俺はただ聎いおいた。
    䞉床目、四床目  ずにかくどこでも癜石は立ち止たった。

    最埌に迎えに行ったのは本通から出たずころの䞉角屋根の朚造りの建物だった。
    窓のない建物。
    灯は裞電球がひず぀。
    いく぀か垃団が敷かれおいた。
    あの写真の少幎や青幎たちはここで寝起きし、笑い合い、そしお遺曞も、ここで曞いたのだそうだ。

    「怋、みんなのずころ戻ろう。」
    癜石はおずなしく぀いおきた。

    「井䞊。」
    「ん」
    「呌んでみただけです。」

    なんだ、ふざける元気、あるんじゃないか。

    この埌からだった。
    癜石はひずりになるこずを、いや、俺が芖界から消えるこずにやたらず怯え出したのは。

    「井䞊 どちらぞ」
    「どちらぞっお  係の仕事だよ。宀長䌚議。」
    「二人郚屋で宀長も䜕もありたすか」
    「あるだろ。䜕蚀っおんだよ。決めただろ じゃんけんで。」
    「じゃあ  僕も出たすよ。その䌚議。」
    なぜだ。
    どうしたっお぀いおくるから、奎を隣の郚屋に抌し蟌んで俺は䌚議宀ぞ急いだ。
    迎えに行った時、郚屋の隅で癜石は泣いおいた。
    残されおいた枡蟺が困った顔をしお「いないいないばあ」をしおいたのには笑っおしたった。
    俺は枡蟺に、笑うな、ず軜く叩かれ぀぀癜石を連れお郚屋ぞ戻った。

    ──ひずりにしないで

    確かに、そう蚀った。
    「だから枡蟺がいただろ」
    癜石は銖を暪に振った。
    俺は理解に苊しんだ。
    枡蟺が芋えなかった
    そんなはずはない。
    こい぀の蚀う、「ひずり」がどう蚀う意味なのか。
    この時はただ、わからなかった。
    わからなかったけれど、わかったふりをした。

    「いるから。」

    䌏したたたの瞌の先、睫毛に絡む涙の粒が郚屋の光を匟いおいた。
    その奥の瞳に捕えられないうちに、俺は窓の倖ぞ芖線を逃す。

    窓に映るその顔は、䞀䜓どんな衚情だっただろう。

    空はもう、倜の色をしおいた。

    自分自身ず向き合うこずを恐れ、俺は目を䌏せた。

    どう答えるのが正解だったのか。
    思考ごず、倜の闇に沈んでしたいたかった。


    #井䞊ず癜石
    シリヌズです。
    䞀話完結ではありたすがたた繋げお読めるのず、先生ず井䞊がきにかけおいるのはこの䜜文。

    ↑
    知芧特攻平和䌚通に行った時の癜石の䜜文。

    ↑
    これの続きが今日の分です。

    ↑
    癜石家の食卓は、䞀味違う
    父芪が䜕かおかしい癜石家。

    ↑
    井䞊ず癜石、党郚入っおたす。
    完結枈み連茉から読切単䜓、連茉䞭たで。

    ↑
    これは今泉埋が人生を考える話。
    「ヒモに奢られる」、これはどういうこずなのか。

    ↑
    そんな埋は文字の読みづらさに参っおいる小説家です。

    ↑
    ゚タッおたせん。
    䞊原朔也は䌑暇䞭ではないです。
    井䞊ず癜石シリヌズがひず段萜したら出おくるのでたた、よろしくお願いしたす。

    ↑
    ゆきお様・解説
    癜石ずは、どんな人間か。
    これさえ読めばの真骚頂。

    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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