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【完結枈】あした、おんきになあれ【二幎九組十二番 癜石怋】ep.3/8

    氎の描く匧を、僕は橋の䞊から眺めおいた。
    遮るものの䜕もない、空に最も近い堎所から。

    倢か幻か、僕はすぐ空想の䞖界ぞ朜りたがる。
    それでも、萜ちおいく氎の先を行く人の姿が、かろうじお珟実に螏みずどたらせた。
    しかし、橋を枡り切った先は、緑が重なり過ぎたせいか、がやがやずしお、よく芋えない。
    重なっおいるくせしお平坊で、色だけが濃淡を繰り返す。
    それがたた僕を危なっかしい別の堎所に連れお行こうずするものだから、県を閉じ、かぶりを振った。

    「リセット。」
    魔法の呪文の劂く、唱える。
    薄く県を開けおみる。
    ただ、ただだ。
    もう䞀床、県を閉じ、蒌癜い残像を振り払う。

    䞉半芏管が掻き回されお、口の䞭が酞っぱくなった。

    銖の埌ろで陜の匷さを感じ、芋えもしない陜炎に僕はよろめく。
    どこかに身を預けたい、誰かに凭れかかりたい。
    甘ったれた感情が、どこからずもなく泚ぎ蟌たれた。

    「萜っこちるなよ。」

    声は、どこからするのだろう。
    巊
    右
    それずも埌ろ
    䞊、もしくは䞋  
    前からのような気もしたけれど、それだけは違う。
    蚘憶の䞭の景色が僕に囁く。

    恐る恐る目を開けた。
    瞌を持ち䞊げるのに、䞀䜓䜕分䜕秒かけるんだ。
    日が暮れる。
    ──ずでもいいたげな顔をした少幎が立っおいた。
    圌の圱が僕の圱を隠しおいる。

    どうやら圌は、僕の名を呌んでいるらしい。
    どういう぀もりなのか、そこに前眮詞のごずく「銬鹿」だの「阿呆」だのず付け加えおくる。
    倱瀌だなあ、ず薄ら思うのに僕の口元は笑みを象かたどり、心もそれに埓った。

    盞倉わらず、氎は匧を描き、流れ降くだっおいく。

    ──氎の咆哮
    石造りの橋は倧きく口を開け、奥深い喉から咆え声を䞊げる。
    ──蜟音
    そんな蚀葉がちんけに思えるほど、音は胞を、腹を、抉っおいった。

    「さあさあ、どいたどいた。」
    僕ず圌ずの間に人が䞀人、入り蟌む。
    するずどういうわけか、その人はベルトの金具に手を掛け、かちゃかちゃ音を鳎らしおいる。
    「え、ちょっず䜕しお──」
    氎は盞倉わらず、ゎオゎオず音を立お、癜くなり降りおいく。
    圌は仁王立ちのたた、にやりずした。
    その県は僕を通り越しおいる。

    「おい、玔平じゅんぺい マゞで出すなよ 倉態かよ」
    「あヌ、さっぱりした。」
    「お前、マゞでキモいわ。」
    なあずもう䞀人が僕の肩を小突いた。
    「うっせえ」

    陜射しの匷さがそうさせるのか、日頃ほずんど関わりのない同玚生たちも、気軜く僕に声を掛けた。

    「  くっだらねえ。」
    圌らの笑い声が粘っこく残っおいる。
    芋えない䞉人分の隔たりの先で圌ががそりず呟いた。
    僕は聞かなかったこずにしお、再び氎を眺め始めた。

    い぀の間にか、圌はたた僕の隣に立っおいる。
    いやに倧きなため息を二回も䞉回も挏らすから、どうしたの、ず声をかけたけれど返事はなかった。

    少ししお、僕たちず揃いのネクタむをぶら䞋げた女の子たちが埌ろを歩いおいった。
    通りすがりに圌女らの䞭のひずりが圌の背䞭をぶっ叩いた。
    するず圌は照れくさそうに、「痛えな。」ず背をさすった。
    圌女の姿がだいぶ遠くにいっおしたうず、圌はたた沈鬱な顔に戻っお息を吐いた。

    橋の䞋、誰かが䞡手を振っおいる。
    ああ、圌は──

    「知り合い」
    「十組の、窪田君。」
    圌は、ああ、ず頷き目をこする。
    「あっちは」
    「䞃組の、荒井さん。」

    たた䞀人、たた䞀人ず積み重なっおいく。
    その床に圌は石の隙間に吹いた草の芜を蹎り飛ばした。
    なんでもない、ず圌は蚀う。
    根を剥き出した青草が、石の䞊で萎れおいた。

    ──はヌい、こっち向いお

    カメラを唐突に向けられた僕たちは、半ば脊髄反射的にポヌズを決める。
    玠盎に顔の暪にピヌスサむンを出したたたの者、お道化どけおおかしな衚情かおをする者  
    その反射を恥じ、䞀床ずった姿勢を厩す者  

    圌は口を真䞀文字に結んだたた、手に持ったガラス瓶を僕の方ぞず寄せた。
    「也杯  」
    圌の声ずシャッタヌ音ずが重なる。

    あれ、僕は今どんな顔だった

    取られる呆気もない。
    圌ず瓶を合わせたたた、僕は固たっおいる。
    「ん。」
    蚀葉でもなんでもない声で、圌は僕の瓶を抌す。
    滑り、ずれお、よくやく僕の身䜓は動き出した。

    もう、他のクラスメむトたちは随分離れたずころを歩いおいた。
    「走りたすか」
    僕の問いに、圌は銖を暪に振った。

    先をゆく圌らは振り向いお、しばらくこちらを向いおいた。
    声らしきものも聎こえたけれど、そのほずんどは空に吞われ、氎音に玛れ、僕たちの耳には届かなかった。

    橋の瞁に腰を䞋ろした。
    この蟺りは草䞈が高くなっおいる。
    草が圱を䜜るからだろうか。
    わずかに熱が穏やかだった。

    「也杯。」
    圌はさっきより茪郭を持たせお蚀った。
    声に合わせ、僕は瓶を差し向ける。
    透明で、ひんやりずした心地のいい音が響いた。

    「お前が也杯しようっお蚀ったのに。もうほずんど残っおねえじゃん。」
    圌は唇を尖らせ、瓶の栓を抌し蟌んだ。
    ごめん、ごめん、ず繰り返す僕の瓶の䞭はこの時もう空になっおいた。

    圌の持぀瓶からは炭酞の泡の爆ぜる音がした。
    ぱちん、ぱちん、ず絶え間なく、茪唱ず茪唱がたた別の茪唱を远いかけおいくような音の響き。

    ──火の粉こ、氎の粉こ  

    「氎は飛沫。」
    圌は僕の方を向きもせず、瓶の口に唇を寄せた。

    僕は空に向かっおあくびを浮かべる。
    倒れた狗尟草えのころぐさの穂が耳朶を撫でた。
    くすぐったい。
    ひずり、身を捩る僕を圌は傍芳者の瞳で芋぀めおいた。

    そこから圌は空を芋たり、サむダヌを飲んだり、䜕をするにも仄かに気怠い匂いを挂わせた。
    それが䜕を思ったか、唐突に圌は狗尟草を匕っこ抜き、その穂で僕の頬を぀぀いた。

    ──やめお。

    僕は身を暪たえたたた、背の高い穂を䞀本抜いお圌の頬めがけお腕を䌞ばした。
    けれども、決定的な䞀撃も䞎えられないたた時間だけが過ぎおいった。
    僕だけが身悶えしお、声を䞊げおいた。

    ただ䞀瞬、圌の県がどこかぞ奪われた。
    僕はここぞずばかりにその頬ぞ腕を䌞ばす。
    しかし、やはりかわされおしたう。
    あえなく空振った指がサむダヌの空き瓶に觊れた。
    瓶は、䜕の躊躇いもなく二人の間でぱったり倒れた。

    僕は瓶越しに圌を芋る。
    瓶の描く曲線のせいだろうか。
    圌の姿は随分ず遠くに感じられる。
    手前の狗尟草の背があたりにも高い。

    ガラス瓶に収たりきらない颚景の端に、真っ赀な花が垯を䜜っおいた。
    僕の県はすっかり、その赀色の方ぞず奪われおいった  

    燃えるような花々を芋぀める。
    僕はもう瓶のこずなど忘れお花の咲く道を蟿っおいる。
    ようやく垯の終着おわりを芋぀けたずころで、同玚生たちの笑い合う声を聎いた。

    ──そろそろ、戻る時間。

    劙にくっきりずしたこの蚀葉を合図にしたみたいに、橋の果おが僕たちの方ぞ迫っおきた。
    重なり過ぎおがやけおいた緑色が宙ぶらりんに取り残されおいる。
    果おが迫り来るほどに緑は遠ざかっおいく。
    笑い声も、䞀緒になっお遠ざかっおいく。

    僕は迫り来る厩壊を、為す術なく眺めおいる。
    圌越しに、厩壊を眺めおいる。

    圌はすっかり僕を぀぀くこずにも飜きたらしく、狗尟草を空ぞ攟った。
    厩壊は止たらない。
    なのに、圌は気づいおいないのか衚情を倉えるこずなく足を垂らしぶらぶらず揺らしおいる。

    ──そろそろ、戻る時間。
    でも、どこぞ──

    圌の真暪で、厩壊は止んだ。
    最果おを囲うように、あの赀い花が揺れおいる。

    圌は思い立ったように立ち䞊がる。
    「危ないですよ、危ない  」
    僕は圌の名を呌んだ。
    するず、圌は䜕ずもない顔をしお歌いはじめる。

    「あした、おんきになあれ──」

    歌の終わりに、圌は自分の片方の靎を蹎り飛ばした。
    靎は氎よりもゆるやかな匧を描き、かなたぞず飛んでいく。

    少幎は片方の癜い靎䞋が草の色に染たるのを僕に芋せお笑っおいた。

    僕はただ身䜓を暪たえたたたでいる。
    厩壊を続ける芖界の䞭、僕は䜕ずか唇を動かした。

    「あした、おんきになあれ──」

    遮るものの䜕もない、空に最も近い堎所で。


    【習䜜】
    䞀応読切、䞀話完結ですが

    のあずにこれを読んでいただけるず、「あれ」ずなるかもしれないし、ならないかもしれたせん。
    想像力で。

    ↑
    井䞊ず癜石だけのたずめ。
    珟圚連茉䞭の九州巡り線もここです。
    実は鹿児島の知芧→熊本県、ず䞊んでいたす。
    この埌どこぞ向かうのかはたた。

    ↑
    特に読んでいただいた䞉䜜。
    ありがずうございたす。

    ↑
    倧正時代の話はただただ続きたす。

    ↑
    【゚ッセむ】
    確認しおから貌りなさいよ。
    䜕曞いたかわからない、ただタむトルが我ながら「はあ」だったのでおいおおく。

    ↑
    ゆきお様・解説
    䜙癜、䜙韻、楜しんでいただけたようで嬉しいです。
    い぀も、现かく分析ありがずうございたす。
    曞いおおいお、「ああ、こうも読めるのか」ず日々勉匷させおもらっおいたす。

    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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