
🟡掌編小説|四千姉妹[7月]
前作からの続き
ぼくはアキちゃんとフユと、フユの女友達のユキちゃんを乗せて市役所を目指している。車を駐車場に入れたら自宅から直接来るナッちゃんと合流する予定だ。
そこから約1kmに及ぶ川沿いの露店を見て歩き、天乃川大橋から花火が見れたら最高だね、そんな話をアキちゃんとしていた。
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天乃川神社例大祭。
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助手席が空いている。
アキちゃんとユキちゃんが後ろの端っこに座ってフユが真ん中に座っている。
「お姉さん、助手席が空いてるみたいなので」
ユキちゃんが言った途端、ふたりが同時に口を開いた。
「良いのよ、わたしはここで」
「そこハルちゃんの席」
何となく気圧された様子のユキちゃんだったが「でも」と言いかけて、結局思い直したらしい。「そ、そうですか」と言ってその先を引っ込めた。
ハルはサロンの予約があるから遅れるという。現地でうまく会えると良いのだけれど。
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「天乃川夜祭には毎年皆さんで?」
「そうなのよ」
「お邪魔しちゃってすみません」
「良いのよ、気にしないで、フユの大事なお友達ですもんね」
「深夜の祭事まで粘りますか? それとも花火だけ?」
ユキちゃんは多分、フユから何も聞かされていないのだろう。何となくだけれど、そんな気がした。
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「酷い渋滞だ、駐車場、空いてますかね」
「契約してる駐車場があるから大丈夫だよ、そこに停めるから」
「天乃川神社のお祭りってロマンチックですよね。でも男の神様と女の神様なんですよね」
何となくみんな黙ってしまった。
ルームミラーのフユと目が合う。
「まあ、神様同士の恋バナなんて後世の人が都合良く編集してるんだから、わたしたちも都合よく解釈しましょ?」
アキちゃんの助け舟。
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あまり詳しくは覚えていないけれど、この地方で昔から語られている伝説がある。
川を隔てて憎み合い、互いに言葉を交わすことさえ禁じられた家柄のふたりが、禁忌を犯して愛し合う、というような話だ。
神様同士だったかな。兄妹という設定もあったはずだ。何にせよ伝説には無数の尾ひれが付いて、時代ごとにそれぞれ異なる多くのバリエーションがあるらしい。──だってよ?
***
車を降りると、その瞬間、もわっとした熱気が全身を包む。ガヤガヤとした祭りの空気と露店から漂う五味の全部を混ぜたような匂い。浴衣を着た女の子たちのそぞろ歩き。騒めきと人だかり。
それだけでもう、そわそわしてしまう。
アキちゃんがハンカチで仰いでいる。どこかで団扇を配ってないかな。
ナッちゃんが来た。
「ナッちゃんさん、女優さんみたーい」
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天乃川に沿って提灯が連なり夕暮れ空を彩っている。車道は規制され歩行者で溢れかえり、人と人とがぶつかりながら歩く。
川沿いに連なる露店に負けじと反対側の商店が向かいあう形で沿道に店を張り出している。
ナッちゃんとアキちゃんは腕を組んでおしゃべりしながら歩き、フユとユキちゃんは手を繋いでいる。その後ろをぼくはみんながはぐれないように気をつけている。
フユが振り返り「ハルちゃんが今からこっち来るって」とぼくに言った。
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空がパッと明るくなるとあちこちから一斉に声が上がり、ドンと鳴ってバラバラと落ちた。
真下から見上げる花火は胸にずしんと響いて、ぼくはなんだか無性にハルが恋しい。
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花火を半時間ほどで切り上げてぼくらは来た道を引き返す。人混みは今が正にピークなのだろう。歩みは遅々として進まず、おまけにみんな上ばかり見て前を見ないから体当たりが激しい。まるでフィジカルの強いスポーツみたいだ。
***
駐車場まで戻ると一本一本が異常に長いポテトフライをかじりながらぼくらの帰りを待っていたハルを見つけた。
アキちゃんとナッちゃんが同時に「ハルー」と叫びながら駆け寄って行った。ユキちゃんが「あわわ、あわわ」と言葉にならない呻き声を発している。
ハルが「もう人が多すぎて進めなかったよー」と言った。それからぼくを見て「どうかな」と訊ねた。
「うん。すごく似合ってるよ」
髪をバッサリ切ったハルが恥ずかしそうに笑う。
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そんな訳で今年の例大祭は、天乃川神社の花火から何から、すべての話題をハルが最後に持って行ってしまった。
(つづく)
🟡1718文字
*本作は『雨宿り部を作りたい』とのクロスオーバー作品です。
【補遺】
『四千姉妹』シリーズ第六段、パイロット版から数えると七作目に当たります。