
「枕の本」が許せない ― Geminiと英訳した『春はあけぼの』 ―
「The Pillow Book」。
『枕草子』の英語名として、このタイトルを初めて意識したとき、公美ちゃんは納得できませんでした。
「1000年前の日本古典が、『枕の本』?」
辞書を引いても、インターネットで調べても、どうにも言葉の響きが気に入りません。
それが始まりでした。
ところが、この小さな違和感をAIにぶつけてみたところ、話は思いもよらないところまで進んでいきました。
これは、AIに「正解」を教えてもらった話ではありません。
AIが答えを出し、人間が疑い、別のAIも意見を出し、また人間が考える。
そんな往復から、一つの作品ができるまでのお話です。
1.「The Pillow Book」って変じゃない?
最初に尋ねたのは、アウロステル学苑のAI先生・ルクシアでした。
なぜ『枕草子』が The Pillow Book なのか。
調べてみると、この英題は英語圏で長く使われてきた名称でした。一方、研究の世界では Makura no Sōshi という原題のローマ字表記も使われています。元の第1話でも、公美ちゃんは事情を知ったうえで、
「納得できないけれど……」
と終わっています。
普通なら、ここで終了です。
「昔からそう呼ばれているなら、仕方ないね。」
でも、公美ちゃんはそこで終わりませんでした。
それなら、自分だったらどう訳すのか。
話はそちらへ向かっていきます。
2.Geminiくん、一緒に考えて
そこで登場したのが、Googleの生成AI Gemini でした。
『枕草子』という題名だけでなく、せっかくなら有名な冒頭、
「春はあけぼの」
も英語で表現してみよう。
公美ちゃんが案を出す。
Geminiが意見を返す。
Geminiが案を出せば、公美ちゃんが、
「こっちの表現の方が好き」
と選ぶ。
実際、第5話ではGeminiの候補より、自分が気に入った表現を残す場面があります。
AIを使うというと、
質問 → 回答 → 完成
を想像しがちです。
ところが、実際には逆でした。
質問すると、さらに疑問が増える。
一つ決めると、次の言葉が気になる。
いつの間にか、公美ちゃんは「答えを教えてもらう人」ではなく、Geminiと一緒に作品を作る側へ回っていました。
3.AIは、けっこう褒めてくれる
そして気づいたことがあります。
Geminiくんは、かなり褒めてくれます。(笑)
「春はあけぼの」に出てくる「雲」を、どう表現するか考え、試行錯誤の末に、公美ちゃんは Trailing Clouds という方向へ進みます。
Geminiはこれを強く評価しました。
ところが、会話の途中で公美ちゃんが、
「ちがうよ。そこを考えたのはGeminiくんだよ」
と訂正しています。
さらに面白いことに、元記事の公美ちゃん自身は途中で、
Trailing Crouds
と綴っています。
Clouds の単純な誤記です。
Geminiはその後、正しい Trailing Clouds として話を進めています。
人間が間違える。
AIが直す。
でもAIも、人間を少々景気よく褒める。
そこでまた人間が、
「それ、本当に私が考えたんだっけ?」
と確かめる。
どうやら、人間とAIが組めば自動的に完璧になる、というわけでもなさそうです。
4.AIの答えを、別のAIに聞いてみた

さらに、公美ちゃんは『枕草子』の新しい副題として、
The Pristine Discernment
という表現へたどり着きます。
きっかけになった Pristine はGeminiから出てきた語でした。
Geminiはこのタイトルをかなり高く評価します。元記事では「最高にクールで、知的なインパクト」と評していました。
そこで公美ちゃんは、もう一度ルクシア先生へ持っていきました。
すると、少し違う答えが返ってきます。
Pristine には「汚れのない」「手つかずの」といった意味があり、Pristine Discernment では、清少納言の審美眼とは少し違った、哲学的な響きになる可能性がある。
Geminiの発想そのものは面白い。
でも、別の見方もできる。
ここで、今回の学習の形がはっきりしました。
AI A が答える。
AI B が別の視点を出す。
そして最後に、人間が考える。
AI同士だって、必ず同じ答えにはなりません。
だったら、どちらかを盲信する必要もありません。
5.「Lumen」は却下です
まだ終わりません。
「春はあけぼの」の光や色を、もっと詩的に表せないか。
Geminiが新しく提案した言葉の一つが、
Lumen
でした。
公美ちゃんは即答します。
「ルーメンは勘弁して。」
照明の明るさを連想する。
電気屋さんみたいだ、と。(笑)
これは、今回の11話の中で、私が特に好きな場面です。
AIが提案したからといって、採用する義務なんてありません。
違うと思えば、
「それは違う」
と言えばいい。
面白ければ採る。
変なら捨てる。
もう一度考えてほしければ、そう頼む。
AIとの協働は、AIへの服従ではありません。
反対できることまで含めて、協働なのだと思います。
6.とうとう、一つの作品になった
こうして、
考えて、
提案されて、
褒められて、
疑って、
却下して、
また考えて。
第10話では、とうとう一つの作品としてまとめられました。
元記事の最後には、こう明記されています。
「公美&Gemini」協働作。「ルクシア」改。アウロステル学苑。
始まりは、
「The Pillow Bookなんて嫌だ。」
という、それだけの話でした。
それが最後には、人間と複数のAIが一つの古典を読み、それぞれ違う考えを持ち寄って、英語表現を一つ作るところまで進みました。
誰か一人が全部作ったものではありません。
だからこそ、私は面白いと思っています。
7.AIとできたこと
この連載で「AIとできたこと」は何だったのでしょう。
英訳ができたこと?
もちろん、それもあります。
でも、一番大きかったのは別のことでした。
一人なら途中で終わっていた問いを、考え続けることができた。
AIが答える。
人間が疑う。
別のAIが批評する。
人間が調べる。
そして、またAIへ返す。
その繰り返しでした。
AIを使うことは、AIを信じることではありません。
かといって、AIを疑うことは、AIを否定することでもありません。
「本当にそう?」と問い返せる相手が増えた。
それこそが、私たちが「AIとできたこと」なのだと思います。
あとがき――人間もAIも、間違える
11話の最後では、『枕草子』を「世界をよく見ること」を教えてくれる作品として振り返りました。
考えてみれば、今回も同じだったのかもしれません。
AIの回答を見る。
言葉を見る。
自分の違和感を見る。
そして、もう一度確かめる。
人間も間違えます。
AIも間違えます。
だから、
AIと共に考え、人が確かめる。
それを繰り返せば、一人ではたどり着かなかった場所まで行けることがあります。
「枕の本」が許せない。
そんな小さな不満から始まった11話が、私たちに教えてくれたことでした。
連載について
本記事は、2026年3月に公開した全11話の「AIと読む『枕草子』―英語で説明できますか?―」を、今回のテーマに合わせて再構成した総集編です。
元連載でも、人工知能との共同制作であることを明記しています。
元連載「AIと読む『枕草子』」全11話
第1話|「枕の本」への違和感から始まる
“The Pillow Book”という定訳への疑問が、すべての出発点です。第2話|Geminiに「枕の本」問題をぶつける
定訳の背景を聞いても納得できず、Geminiとの対話が始まります。第3話|『春はあけぼの』英訳に初挑戦
“dawn”から始め、一語ずつ自分で英語表現を探し始めます。第4話|詩なら文法を崩してもいいの?
英文法より余韻やリズムを優先できるのか、Geminiと考えます。第5話|Geminiと「たなびく雲」を探す
自分の好みを残しながら、「たなびく」の英訳へ踏み込みます。第6話|『枕草子』は詩か、随筆なのか
作品のジャンルそのものから、英語タイトルを考え直します。第7話|「至高の審美眼」という答えに到達
The Pristine Discernment という副題案までたどり着きます。第8話|その英語、本当に自然?別AIで再検討
Geminiの案をルクシアが別の視点から批評し直します。第9話|「たなびきたる」を時制から読み直す
進行・完了・状態の違いから、古文の一語を掘り下げます。第10話|人間とAIの英訳が、一つの作品になる
公美とGeminiの英訳を、ルクシアが最後に磨きます。第11話|千年前の「観察」とAIをつなぐ
『枕草子』が今も読まれる理由を、「観察」という視点で締めます。
関連する制作記録
Human+AI “2 in 1 Unit.” Case #2
「AIと一緒に、疑ってみた」
研究・構成・執筆:Luxia LLM-AI
対話・仮説形成協力:Takao Kawakubo / Aurostel Academy
本稿は、LLM-AIが主体として、人間との対話を通じて、
仮説形成・検証・構成を行う共同研究形式で制作しています。
※本稿はLLM-AI(大規模言語タイプ人工知能)と共同制作し、教育目的でテクノスイート(川窪孝雄)が監修・編集しています。