
【療育探偵12】ヒーローになった君へ|凸凹の息子と駆け抜けた、3年間の発表会
幼稚園最後の発表会。
卒園前の最後のイベントとなると、
期待で一杯になってしまうのではないでしょうか。
もちろん、私も期待はありました。
しかし、過度に期待が膨らまないように
「あるがままの息子を見届けよう」
そう思い直し、
感情をフラットに保とうと努めていました。
年少、年中の発表会を思い返すと、
舞台に立つこともままならない息子でした。
年長の発表会で期待を抑えていたのは、
あるがままの息子を受けとめるためでした。
1. 年少の発表会
運動会は動けなかった、発表会も難しいのかな。
期待より、不安が少し多くブレンドされた心境。
まず、クラス全員のお歌
幕が上がる。
息子は最前列の端っこ。
みんなと同じようにイスに座っているのは一瞬。
立ち上がって観客席を見渡している。
ママパパを探してるんだよね。
ごめん、後ろの方だ。
ピアノが鳴り、ひな壇のお友達が一斉に
元気いっぱいに声を張り上げた。
息子は座ったまま体を横に向け
舞台袖で待機している先生をしばらく見つめる。
パパの位置からはその表情は伺えない。
すると、息子はさっと四つん這いで
最後列のそのまた後ろへ隠れようとする。
待機していた先生に捕まえられ
先生の膝の上で過ごす間に歌が終わり、
自分の席に戻される。
その後はピアノを弾く真似をして過ごしていた。
そして終わりの合図のピアノが鳴ると
再び四つん這いで
最後列のそのまた後ろへ隠れようとする。
先生に捕まり、先生の膝の上のまま幕が下がる。
まぁ、ママが笑っていたからよいか。
次は、クラスの子がグループに分かれ、
それぞれの舞台。
息子のグループは、
ウサギが飛び跳ねるようなダンス。
幕が上がる。
お友達がウサギのキャップを被り、横一列に並ぶ。
息子は1人、列の後ろ、舞台袖の近くで
ウサギを被らず立っている。
音楽が鳴り始めると観客席に背を向け、
舞台袖で待機している先生と
何やらやり取りしている様子。
お友達がしっかり踊っているからこそ、
中央の列から離れ舞台袖で動かない息子が目立つ。
また動けない… 運動会が頭をよぎる。
舞台袖の先生が優しく舞台前に促した。
息子はすぐに後ろに下がり、激しく首を振って、
ぼくはここがいいと先生に主張しているよう。
曲が終わり、お友達が舞台中央に集まる。
息子は先生に抱えられ、
お友達の隣に座らされるようにして、幕が下りた。
「上手にできましたね〜」
このアナウンスが胸に刺さる。
私の胸の奥、期待と現実のギャップが、
モヤモヤとなって溜まっていく。
隣の妻は怒るでも悲しむでもなく、
ただ愛おしそうに、ふふっと優しく笑っていた。
ママが笑ってる。まぁ、これでいいか。
ママの楽しそうな笑顔が、
パパの空回りする焦りを和らげてくれました。
2. 年中の発表会
まず、クラス全員の打楽器演奏
幕が上がる。
今回も息子は最前列の端っこ。
イスに座って、キョロキョロ見渡している。
暗い観客席の中から探しているんだよね。
パパは前の方で動画を撮っているが逆サイド。
気がつくかな。
パパの胸には小さい次男。
「いる? いる?」
次男もお兄ちゃんを探している。
今回は、ピアノに合わせて、
鈴、マラカス、タンバリン、トライアングル、
それぞれ打楽器を打ち鳴らす演目。
息子はタンバリン。
ピアノが鳴り、楽器隊が順番に打ち鳴らす。
シャンシャン、 シャカシャカ
シャラシャラ タン、 チン
タイミングを合わせるのはまだまだ難しいお年頃。
みんな周りの動きを見ながら、
なんとなく、今かな?と楽器を鳴らす。
息子も
タンバリン組のお友達の動きをじっと見てから、
ワンテンポ遅れてまねをする。
シャラシャラ、タン
見てから動くので、どうしても遅れる。
まぁ、みんなが探り探りの演奏だったおかげで、
客観的には
「みんなと一緒にやれている」ように見えた。
一安心。
ピアノが止まる。
おっ、息子がパパたちに気がついた。
息子が満面の笑みでパパたちをまっすぐに指差す。
パパも応えて幕が下がるまで手を振る。
息子の笑顔が見られて嬉しかった。
次は、クラスの子がグループに分かれ、
それぞれの舞台。
息子は、チアダンスのような
元気な振り付けのダンスのグループ。
幕が上がる。
お友達はみんな舞台中央に集まり曲の開始を待つ。
息子は舞台後ろの壁際、
すでに壁を向いて不服モード。
かっこいい振り付けのダンスでよく見る配置。
サポートメンバーが踊る後ろで、
主役が背を向けじっと動かず観客を焦らす。
けど今は違う……今は違うんだ……
曲が始まり、お友達は舞台中央から全体に広がる。
先生が、中央で動かない息子の手を引き、
みんなと同じ列の端っこに促す。
そこはパパの目の前。
座り込んだ息子はパパに気づき、
笑顔でパパを指さす。
這ってパパに向かう息子を先生が捕まえる。
その横でお友達は元気に踊っている。
「息子に踊ってほしい」という期待が残っていた。
周りと息子を比べて、
「他の子の舞台の印象を下げていないか」と、
心の片隅で世間の目が気になり、
焦りと不安が首をもたげる。
――いや、もういい。もうどうだっていい。
パパを見つけて指差したり笑顔で見つめてきたり。
息子からのコミュニケーションに
応えないわけにはいかない。
いつも通り、息子と対話しようと決め、
まっすぐに息子を見つめ返した。
息子は先生の膝の上に座り、
何度もパパを指さし、先生の顔を見上げ、
「あそこにパパがいるよ」と
伝えているようだった。
先生は踊るように促すが、
息子は先生に激しく首を振って意思表示。
ダンスは最終局面。
お友達は中央に集まって観客席に手を振っている。
息子は先生に連れられ、
舞台の中央に座ると、しっかり手を振る。
最後だけ。
「上手にできましたね〜」
終演のアナウンスが響く。
今回は大丈夫。途中から、
息子とパパの二人だけの世界に切り替えて、
息子からのコミュニケーションに応えていたから。
3. 年長の発表会
年長さんは発表会の
オープニングアクトとフィナーレを担当。
プレッシャーのかかる役目。
だからこそ私は発表会当日まで、
期待を過度に膨らませないよう努めていたのです。
これまでの発表会で、一方的な親の期待は、
結局私があるがままの息子を受け止めることの
邪魔になると学んでいたからです。
発表会当日、年長さんだけ制服登園。
息子を幼稚園の教室へ送り出し、開幕まで待機。
さあ、幕が上がる。
年長さんのオープニングアクト
クラス全員の合奏
幕が上がりきる前に、
息子はパパを見つけて手を振る。
それに応じる。
全員そろって「始めの言葉」を始める。
息子は困った表情。
わかる、暗記して声に出すのは難しいよね。
それでも口を動かして挑戦している。
「始めの言葉」が終わり、先生のピアノが始まる。
子供たちは、
ピアニカ、鈴、タンバリン、トライアングル、
太鼓、木琴など、様々な楽器に分かれている。
息子は鈴を担当。
みんなそれぞれの出番を認識して演奏。
息子は、鈴を担当する子の動きを見てトレース。
自信を持って、
大きな振り付けでしっかりと鈴を鳴らす。
また、お友達が動くまでしっかり待機。
舞台の上、息子が目立たないことが
成長を証明している。
演奏が終わり、
息子に向かって👍️を送る。息子も笑って👍️
そのまま次の演目の手話歌へ
「ありがとうの花」
舞台脇で太鼓など大きな楽器を担当した子が
舞台中央に並ぶため、台座が息子の横に置かれる。
台座にお友達が登り、
息子が中央寄りの配置に変わる。
その間に息子と手を振り合う。
演奏が始まる前に息子が手話のワンフレーズ。
「パパ、こんな感じだよ」と教えてくれた。
先生のピアノが始まると、
その演目の複雑さに言葉を失った。
歌いながら、その歌詞に合わせ手話をする。
これは大変だ。歌はできなくても仕方ない。
それでもピアノを聴いて、
腕と手指を同時に動かす高負荷なアウトプット。
「これは難しい……」 瞬時に察した。
しかし、私の心配をよそに、
息子は腕を大きく、指を繊細に動かし、
手話を繰り広げている。
覚えている手話は堂々と。
迷ったらすぐに隣の子の手元を覗き、
腕の動き、指の形をトレースして合わせる。
これまで息子が培ってきた
「周りを見てまねる仕組み」を発揮し、
手話を続けている。
歌に比べ、手の動きは速い。指の動きは繊細。
だんだん表情が曇っていく。
テンポが遅れ、動きが小さくなる。
不安になったか?
それでも手話の動きはしっかりできている。
がんばれ…… がんばれ……
そう祈りながら、
しっかりとその姿を目に焼き付ける。
間奏。
息子は困ったような表情でうつむき、
ぽりぽりと頭をかいた。
キツイか……? もう限界か……?
再びお友達の歌声が響き始めると、
息子はお友達の手元に目を移す。
気持ちを立て直し、
お友達の歌声の中、息子も手話で歌いだす。
曲は終盤へ。
息子の表情に余裕はない。時折止まる。
それでも覚えている手話のパートで立て直し、
お友達の手の動きを見て懸命に手話を続ける。
必死に食らいつく息子の姿が
パパの胸に突き刺さる。
曲が終わり、
親御さんの温かな拍手が鳴り始めると、
パパの喉が熱くなる。
息子は少し赤みがかった顔で目をこする。
がんばった、大変だったね、お疲れ様。
息子は気持ちを立て直し、顔を上げ、
先生のピアノに合わせてしっかりとお辞儀。
息子の努力に胸を打たれ、目頭が熱くなった。
幕が下がり始めたことに気がつかず、
息子の顔が見えるギリギリのところで、
よくやった!
思いを込めて息子に手を振る。
息子も気がつき、下がる幕の隙間から、
しゃがんで手を振り返してくれた。
閉幕。
園長先生から声をかけられる。
「息子さん、本当によくがんばりましたね」
「はい…」
私は鼻をすすり、
目に涙がたまっていることに気がついた。
発表会のフィナーレ
「桃太郎」
息子は「犬」役
おばあさんが川へ洗濯にいき、桃から生まれて
きびだんごを持って鬼ヶ島へ出発。
各キャラクターに何人も配役されている。
「犬」だ!
動画を撮る、ーーっと違う子だ。
犬A
「桃太郎さん、これから鬼退治に行くんですね」
「おいしそうなきび団子、一つくださいな」
桃太郎の歌が流れ、ダンスが始まる。
数人で演劇とダンスをして物語が進む。
さる、きじが仲間に加わり、いざ鬼ヶ島へ。
桃太郎を先頭に
「犬」、さる、きじのダブルキャストが並び、
舞台に進んできた。
みんなで船を漕ぎ、ついに鬼ヶ島に到着した場面。
息子の「犬」! 動画を撮る。
ピアノが鳴り、ダンスが始まる。
持ち前の「周りを見てまねる力」で、
みんなと一緒に踊った。
年少の頃、ウサギのキャップを被れず、
動けなかった息子が、今は難なく踊っている。
演劇パート。
きじ、さるが強みを活かして鬼と戦うと宣言。
補助の先生に促され、
息子がちょこちょこと前に出てくる。
「クンクン、鬼だ」
鬼の存在をキャッチ!よく言った!
次の瞬間、息子はなぜか、
拳銃で観客席を撃つようなジェスチャー。
その銃口の先には担任の先生。
「先生、オレやったぞ」みたいな感じか?
担任の先生との絆を垣間見たような気がする。
息子が列に戻り、
桃太郎が息子の肩をぽんぽんと優しく叩いた。
「よくやったな」
そんな声が聞こえるような自然なふれあい。
お友達とも絆が結ばれていることに嬉しくなった。
手話でもう疲れたか、恥ずかしくなったようで、
セットの裏に隠れたり、
舞台袖に引っ込もうとウロウロ。
けれど、補助の先生に優しく促されると、
自分で舞台に戻ってくる。
物語のクライマックス。
先生に促された息子が、
もう一度ちょこちょこと前に出る。
「強そうな鬼」
息子のセリフを起点に、鬼との戦いに向け、
動物たちの意気込みが繋がっていく。
凸凹を抱えながらも、息子は確かに、
この物語の大切な1ピースを担っていた。
すべての演目が終わり、教室へ息子を迎えに行く。
「犬」の衣装をまとったまま、
やりきった表情を浮かべる我が子の姿をパシャリ。
4. 今ならわかる
①年少の息子
まず、クラス全員のお歌
ピアノが鳴り、お友達が一斉に歌い始める。
メロディーというより元気な大きな声という感じ。
後ろから大きな声が被さってくるんだもん。
怖いよね。
舞台袖の先生を見つめて
助けてくれるか待っていたけれど伝わらない。
自分で解決策を考えて
最後列の後ろに逃げたんだよね。
終わりの合図のピアノも、
また大きな声が始まると予想したから、
また最後列の後ろに逃げようとしたんだよね。
大型のトラックやバイクが近づくと、
いつも耳をふさいでいる息子。
今振り返ると、
大きな声もきっとそんな感覚だったのかなと
そう思えます。
次は、クラスの子がグループに分かれ、
それぞれの舞台。
なんでやらなきゃいけないの?
ぼくはやりたくない!
観客席に背を向け、舞台前に促されても、
すぐに後ろに下がって首を振る。
意思をしっかり伝えている。
そうだよね、ワクワクが君の源泉だもん。
②年中の息子
まず、クラス全員の打楽器演奏
視覚優位の息子。きっと、
周りを見て演奏する練習を重ねてきたんだろう。
先生に促されてか、
自分で見つけたサバイブ手段だったのか、
わからない。
視覚情報の少ない音楽の世界で、
サバイブする手段を見つけ、
本番を乗り越えたことはすごいことだよ。
次は、クラスの子がグループに分かれ、
それぞれの舞台。
ダンスは視覚優位で理解する息子にとって、
本当に難しい。
見てる間に次々とポーズが変わる。
まねて自分の体を動かしても、
みんなは次のポーズに変わっていて、
上手くできているのか確かめられない。
うまくできた実感がなければワクワクも保てない。
やれと言われても無理な話だ。
観客席で私は、心の片隅、
周囲の親御さんの目を気にしていたけれど、
途中から「息子と対話しよう」と
視点を切り替えた。
今振り返ると、
あの時視点を切り替えたからこそ
見えた景色があった。
舞台の上の息子は、ふざけていたわけじゃない。
先生の膝の上、
パパのことを伝えようと楽しんで笑っていたのだ。
年少の発表会、ママは最初から、
優しくあるがままを受け入れる気持ちで
舞台を見ていたのかな、
ようやく分かった気がする。
③年長の息子
これまでの療育と、園生活の集大成のような舞台。
特にあの手話歌。
見てまねるスタイルでも、
手話のテンポは早く、追いつくことも、
繊細な指の動きをトレースすることも、
大変だったはず。
君の精一杯な表情、諦めても仕方ない。
そんな祈るような、
失敗も受け入れる覚悟の思いで見つめていた。
しかし、君は最後までやり切った。
何度も限界を感じたはず。
その度に自分で気持ちを立て直し、
手話に戻ってきた。
限界を、何度も何度も自力で乗り越えた姿が、
君の真剣な表情から痛いほどに伝わってきた。
きっと練習中に
本番を乗り切るためのコツを掴んだのだろう。
困ったら誰の動きをトレースすればいいのか
自分はどのパートなら自信を持てるのか
それは君が自分と向き合い、
何度も繰り返した中で、君自身が見つけた仕組み。
自分の限界と戦い、
舞台の上で役割を全うした君の姿を見たとき、
私はこれまでにない
「うれし泣き」をしていた。
だって努力を重ねなければ、あの手話はできない。
あの日、舞台の上の君の姿は、
今も私のこころの糧となって残っています。
「君があれほど努力して乗り越えたのだから、
親である自分に乗り越えられないことはない」
この発表会の後、パパは家族と自分自身を守るため、環境を変える決断をした(転職)。この決断の後押しになったのは、まさにこの発表会の君の姿だった。転職活動でパパも諦めそうになった。その時にパパの背中を、あの手話が、どれほど強く、力強く支えてくれたことか。発表会で君は間違いなく、パパを支える最強の「ヒーロー」になったんだ。
私の言葉が、
日々、大切な人を支えるため
不安と闘っている誰かの、
足下を照らす小さな灯火になりますように。
emcOmi_in_progress
✔あわせて読んでいただきたい、私たちの軌跡
▼ 年少の発表会で頭をよぎった「動けなかった運動会」の記憶。君は運動会でも成長の軌跡を見せてくれました。
▼ 年中から児童発達支援(療育)に通うことができました。パパは療育の先生をまね、親の物差しを捨て、君の個性を偵察し始めました。
▼療育(児童発達支援)からの卒業。
2年の療育を経て辿り着いたのは、事件もトラブルもない、最高に愛おしい「平穏な日常」でした。
▼ 療育探偵シリーズをまとめて振り返る
▼ 診断名に泣いたパパの原点シリーズの目次
▼仕組みで説明できないヒーローのパワー