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バリュエーションの基本|プレマネー、ポストマネー、希薄化 #14

    こんにちは!
    株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。

    前回の振り返り

    前回の第13回では、資金繰り表と予実管理を解説しました。
    架空の会社A社の例では、6か月目の残高の差はわずか39万円だったものの、予実管理で差を因数分解した結果、成約率の低下という原因を突き止め、打ち手と見通しの更新につなげられることを確認しました。
    これで、第4部「資金を管理する」は完結です。

    今回のテーマ

    今回から、第5部「バリュエーションを理解する」に入ります。

    バリュエーションとは、企業価値の評価のことです。
    第3回でA社の「プレマネー8億円」が登場して以来、この連載では何度もバリュエーションに関わる言葉が出てきました。
    第14回となる今回は、あらためて基本に立ち返り、プレマネー、ポストマネー、希薄化という3つの考え方を整理します。

    企業価値がどのように決まるのか、そして高すぎるバリュエーションにどのような落とし穴があるのかは、次回の第15回で扱います。

    【はじめての資金調達さくせん会議】

    【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】

    バリュエーションとは|未上場の会社では「交渉で決まる」

    上場している会社の企業価値は、市場で取引される株価に、発行済みの株式数を掛けることで計算できます。
    毎日、多くの投資家が売り買いをするなかで、株価が決まっていくからです。

    一方で、未上場のベンチャー企業の株式には、そうした市場がありません。
    そのため企業価値は、資金調達のたびに、会社と投資家の交渉によって決まります。

    このとき、バリュエーションが持つ意味は、立場によって異なります。

    • 投資家にとって:その会社の株式を「いくらで買うか」を決める数字

    • 経営者にとって:必要な資金を得るために「どれだけの株式を渡すか」を決める数字

    同じ金額を調達するのでも、バリュエーションが高ければ渡す株式は少なくて済み、低ければ多くの株式を渡すことになります。
    だからこそ、バリュエーションの基本的な仕組みを理解しておくことが大切なのです。

    プレマネーとポストマネー|4つの式で押さえる

    バリュエーションを考えるうえで、まず押さえておきたいのが、プレマネーとポストマネーの2つの言葉です。

    • プレマネー(プレマネー・バリュエーション):資金を調達する前の企業価値

    • ポストマネー(ポストマネー・バリュエーション):資金を調達した後の企業価値

    この2つの関係と、そこから導かれる数字は、次の4つの式で整理できます。
    A社のシードの調達(プレマネー8億円、調達額2億円)を例に、関係を示したものが次の図です(数字はすべて説明のための仮のものです)。

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    ① ポストマネー = プレマネー + 調達額

    調達後の企業価値は、調達前の企業価値に、投資家が払い込んだ金額を足したものです。
    A社の場合、8億円に2億円を足して、ポストマネーは10億円になります。

    ② 投資家の持株比率 = 調達額 ÷ ポストマネー

    投資家が得る持株比率は、払い込んだ金額が、調達後の企業価値に占める割合です。
    A社の場合、2億円を10億円で割って、20%になります。

    ③ 1株あたりの価格 = プレマネー ÷ 調達前の株式数

    1株あたりの価格(株価)は、調達前の企業価値を、調達前の株式数で割って求めます。
    A社の場合、8億円を1万株で割って、8万円になります。

    ④ 新たに発行する株式数 = 調達額 ÷ 1株あたりの価格

    新たに発行する株式数は、調達額を株価で割って求めます。
    A社の場合、2億円を8万円で割って、2,500株になります。

    確認のため、調達後の株式数は1万株と2,500株を合わせた1万2,500株です。
    投資家の2,500株は、そのうちの20%にあたり、②の式の答えと一致します。
    この4つの式さえ押さえておけば、第6回の資本政策表の数字は、すべて自分で計算できるようになります。

    「プレ」か「ポスト」かで、同じ10億円でも意味が違う

    ここで、交渉の場で注意していただきたい点があります。
    それは、投資家から提示された企業価値が、プレマネーなのかポストマネーなのかを、必ず確かめることです。

    たとえば、A社が2億円を調達する際に、投資家から「企業価値10億円で出資します」と提示されたとします。

    • プレマネーが10億円の場合:ポストマネーは12億円となり、投資家の持株比率は2億円÷12億円で、約16.7%です。

    • ポストマネーが10億円の場合:プレマネーは8億円となり、投資家の持株比率は2億円÷10億円で、20%です。

    同じ「10億円」という言葉でも、どちらを指しているかによって、渡す株式の比率は3ポイント以上も変わります。
    交渉の場では、「それはプレマネーですか、ポストマネーですか」と、必ず確かめるようにしましょう。

    希薄化とは|比率は下がっても、価値は増える

    資金調達のたびに新しい株式を発行すると、既存の株主の持株比率は下がっていきます。
    これを「希薄化」と呼びます。第6回でもお伝えしたとおり、希薄化は、成長のための資金を得る以上、避けられないものです。

    ただ、希薄化という言葉には、実は2つの意味があります。

    • 持株比率の希薄化:株式の総数が増えることで、既存の株主の持株比率が下がること

    • 株式の価値の希薄化:前回より低い株価で株式を発行することで、1株あたりの価値が下がること

    多くの経営者が心配するのは前者ですが、本当に注意すべきなのは後者です。
    どういうことか、A社の創業者を例に見てみましょう(数字はすべて仮のものです)。

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    A社の創業者の場合

    A社の創業者(代表取締役)は、設立時から8,000株を持っています。
    その持株比率は、ラウンドを重ねるごとに次のように下がっていきました。

    • 設立時:80%

    • シード:64%

    • シリーズA:48.5%(ストックオプションの枠を含めた比率)

    持株比率だけを見れば、創業者の取り分は小さくなっています。
    ところが、持っている8,000株の価値を計算すると、まったく違う姿が見えてきます。

    • 設立時:1株500円×8,000株=400万円

    • シード:1株8万円×8,000株=6.4億円

    • シリーズA:1株20万円×8,000株=16億円

    持株比率は80%から48.5%まで下がった一方で、創業者が持つ株式の価値は、400万円から16億円にまで増えているのです。

    パイの取り分は小さくなっても、パイそのものが大きくなる

    これを、よく「パイ」にたとえて説明します。
    資金調達をするたびに、創業者が切り分けるパイの取り分の割合は小さくなります。
    しかし、調達した資金で事業が成長し、パイそのものが大きくなれば、取り分の大きさはむしろ増えていきます。

    反対に、持株比率の希薄化を恐れて必要な資金を調達しなければ、パイを大きくする機会そのものを逃してしまうかもしれません。
    大切なのは、持株比率の数字だけにとらわれず、「調達した資金で、どれだけパイを大きくできるか」を考えることです。

    ただし、これは株価がラウンドごとに上がっていく場合の話です。
    前回より低い株価で調達せざるを得なくなると、持株比率が下がるうえに、1株あたりの価値まで下がってしまいます。
    この点については、後ほどあらためて触れます。

    潜在株式と「完全希薄化後」の考え方

    第6回で、資本政策表では、すでに発行されている「顕在株式」に加えて、将来株式になりうる「潜在株式」も含めて持株比率を計算するとお伝えしました。

    潜在株式には、ストックオプションのほか、第9回で扱ったJ-KISSなどの新株予約権も含まれます。
    こうした潜在株式がすべて株式になったと仮定して計算した持株比率を、「完全希薄化後」の持株比率と呼びます。
    投資家は、多くの場合、この完全希薄化後の比率で持株比率を考えます。
    将来、確実に株式の総数が増えることがわかっているからです。

    ストックオプションの枠を、どちらに含めるか

    完全希薄化後の考え方で、特に交渉の論点になりやすいのが、ストックオプションの枠の扱いです。
    新たにストックオプションの枠を設定する場合、その枠を「プレマネーに含める」のか、「ポストマネーの外に置く」のかによって、誰が希薄化を負担するのかが変わります。

    A社のシリーズA(プレマネー25億円、調達額5億円、ストックオプションの枠1,500株)で比べてみましょう(数字はすべて仮のものです)。

    ① ストックオプションの枠を、ポストマネーの外に置く場合(第6回の資本政策表)

    • 1株あたりの価格:25億円÷調達前の1万2,500株=20万円

    • 新たに発行する株式数:5億円÷20万円=2,500株

    • 完全希薄化後の株式数:1万2,500株+2,500株+1,500株=1万6,500株

    • 創業者の持株比率:48.5%/シリーズAの投資家の持株比率:約15.2%

    ② ストックオプションの枠を、プレマネーに含める場合

    • 1株あたりの価格:25億円÷(1万2,500株+1,500株)=約17.9万円

    • 新たに発行する株式数:5億円÷約17.9万円=2,800株

    • 完全希薄化後の株式数:1万2,500株+1,500株+2,800株=1万6,800株

    • 創業者の持株比率:約47.6%/シリーズAの投資家の持株比率:約16.7%

    ②では、ストックオプションの枠の分だけ1株あたりの価格が下がり、シリーズAの投資家はより多くの株式を受け取ります。
    つまり、ストックオプションの枠による希薄化を、創業者などの既存の株主だけが負担し、新しく加わる投資家は負担しない形になります。
    一方で①では、新しい投資家も含めたすべての株主が、ストックオプションの枠による希薄化を分け合います。

    同じ「プレマネー25億円」でも、ストックオプションの枠の扱いによって、創業者の持株比率は約1ポイント、持っている株式の価値は16億円から約14.3億円へと変わります。
    第6回で「交渉で決まる重要な論点の1つ」とお伝えしたのは、このためです。
    投資家から条件が提示されたら、企業価値の金額だけでなく、ストックオプションの枠がどちらに含まれているのかまで確かめましょう。

    1株あたりの価格の推移で、成長を語る

    もう1つ、バリュエーションを見るうえで大切な視点があります。
    それは、ラウンドごとの1株あたりの価格の推移です。

    A社の1株あたりの価格は、設立時の500円から、シードで8万円、シリーズAで20万円へと上がってきました。
    シードからシリーズAにかけては、2.5倍に上がっています。
    これは、シードで調達した資金を使って、A社がマイルストーンを達成し、企業価値を高めてきたことを示しています。

    ラウンドごとに株価が上がっていくことは、既存の株主にとって、出資した株式の価値が増えたことを意味します。
    VC X社は、シードで1株8万円で取得した株式が、シリーズAの時点で1株20万円の価値になりました。
    だからこそ、VC X社はシリーズAでも追加で出資してくれたのです。第10回でお伝えした「既存の株主が評価し続けている」ことは、株価の推移にも表れます。

    株価が下がる「ダウンラウンド」

    反対に、前回のラウンドより低い株価で資金を調達することを、「ダウンラウンド」と呼びます。

    たとえばA社が、マイルストーンを達成できないまま資金が尽きかけ、シリーズAを1株6万円で調達せざるを得なくなったとします。
    そうなると、シードで1株8万円で出資したVC X社は、株式の価値が下がることになります。
    創業者にとっても、持株比率が下がるうえに、1株あたりの価値まで下がる、先ほどの「株式の価値の希薄化」が起きてしまいます。

    ダウンラウンドは、既存の株主との関係や、その後の資金調達にも大きな影響を与えます。
    なぜダウンラウンドが起きるのか、そしてそれを避けるために何に注意すべきなのかは、次回の第15回でくわしく解説します。

    バリュエーションでよくある誤解

    最後に、バリュエーションについてよく見かける誤解を4つ紹介します。

    1. バリュエーションが高いほど、調達は成功だと思い込む:高いバリュエーションで調達できれば、渡す株式は少なくて済みます。しかし、次のラウンドでそれを上回る企業価値を示せなければ、ダウンラウンドのリスクが高まります。この点は、次回くわしくお伝えします。

    2. プレマネーとポストマネーを混同する:先ほどの例のように、同じ「10億円」でも、プレマネーかポストマネーかで、渡す株式の比率は大きく変わります。

    3. 持株比率の希薄化を恐れるあまり、必要な調達額を小さくしすぎる:持株比率を守ろうとして調達額を小さくした結果、マイルストーンに届く前に資金が尽きてしまっては、元も子もありません。パイを大きくするために必要な資金は、しっかり調達することが大切です。

    4. 潜在株式を数えずに持株比率を計算する:ストックオプションやJ-KISSを含めずに計算すると、実際の持株比率を高く見積もってしまいます。持株比率は、完全希薄化後で考えるのが基本です。

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    まとめ

    今回のポイントは、次の3つです。

    1. 未上場のベンチャー企業の企業価値は、会社と投資家の交渉で決まる。プレマネー、ポストマネー、持株比率、株価、発行株式数は、4つの式で整理でき、交渉の場では、提示された金額がプレマネーかポストマネーかを必ず確かめる

    2. 希薄化には、持株比率の希薄化と、株式の価値の希薄化がある。株価がラウンドごとに上がっていけば、持株比率は下がっても、持っている株式の価値は大きく増える

    3. 持株比率は、潜在株式を含めた完全希薄化後で考える。ストックオプションの枠をプレマネーに含めるかどうかで、誰が希薄化を負担するのかが変わる

    自社のバリュエーションの理解を確認するためのチェックリスト

    • プレマネー、ポストマネー、持株比率、株価、発行株式数を、4つの式で自分で計算できるか

    • 投資家から提示された企業価値が、プレマネーかポストマネーかを確かめているか

    • 持株比率だけでなく、持っている株式の価値の推移も確かめているか

    • ストックオプションやJ-KISSを含めた、完全希薄化後の持株比率を把握しているか

    • ストックオプションの枠が、プレマネーに含まれるのかどうかを確かめているか

    • ラウンドごとの1株あたりの価格の推移を把握しているか

    • 持株比率を守るために、必要な調達額を削りすぎていないか

    次回予告

    次回は「企業価値の決まり方と、高すぎるバリュエーションの落とし穴」です。
    ベンチャー企業の企業価値は、どのような方法で、どのような考え方で決まるのか。そして、なぜ「高すぎるバリュエーション」が危険なのかを、ダウンラウンドの仕組みとあわせて解説します。

    お問い合わせ・ご相談について

    「はじめての資金調達、何から準備すればいいのかわからない」「次のラウンドに向けて、3点セットをきちんと作り込みたい」とお考えの経営者様へ。

    弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
    銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
    この連載でお伝えしてきた内容を、貴社の実情に合わせて、一つずつ形にしていくのが私たちの仕事です。

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    社長の「右腕」になる社外CFO。メガバンク出身。プライム上場企業執行役員経験。中堅中小企業には銀行との付き合い方を、ベンチャー企業には資金調達と成長の財務戦略を。銀行・コンサル・上場企業の現場で見てきた「お金の勝ち筋」をnoteで発信中。

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