メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【クリエイターが知っておくべきこと】AIでパクられる時代の課題・戦い方|隠すより、情報の出し方を変える

    先日こんなニュースが飛び込んできた。

    開発中のゲームの映像をSNSに投稿したところ、思った以上に反響があって、たくさんの人に見てもらえた。ところがその翌日には、名前も見た目もそっくりなゲームが、別の場所で公開されていたというニュース。

    悪夢のような話ですが、これはここ数週間(2026年10月21日時点)、インディーゲームの世界で実際に起きたこと。

    そんな矢先、先日韓国のゲームメディアの友人からDMが飛んできた。

    画像

    今は日本のXでもこの生成AIに関するテーマは大変話題になっているし、あの桜井神も言及しているほどであった。

    確かに、いまはAIを使えば、わかりやすいゲームであれば、映像を見ただけで似たゲームを作れてしまいますし、配られた体験版のデータから、ゲームの中身を読み解くこともできてしまうかもしれない。

    その結果として、新作の体験版を出すのをやめたり、作っている途中の映像や画像を出すのを控えたりするスタジオが出てきたともいう。

    私はこの流れは個人やインディー業界にとってはかなり重い足かせになると思って、この問題が抱える課題について少し記事を書いてみたいと思う。

    そもそもインディーが体験版や制作途中の情報を出せない、出しづらくなることは、小さなチームが発売前に自分のゲームを知ってもらうための、いちばん大事な材料がなくなるに近しい状態です。

    この小さなネタを出せなくなると、発売前の宣伝がほとんどできなくなり、ただでさえ埋もれやすいインディーゲームが、ますます目立たなくなってしまうのではないかという懸念ですね。

    さらにもう1つ、あまり語られていない怖さもあります。

    私も今AIを使ってゲーム開発をしていますが、それはあくまで補助ツールとしての役割が中心ではありますが、まぁまずAIで何かを参考にして真似しただけのゲームはガチでつまんないです。やってみればわかります。どっちにしてもチューニングが必須ですし、全く同じものを参考にして制作してみてもおもしろくならないことがあるぐらいです。

    ところが、そういうつまらないポッと出の偽物が出回ることで、本家のゲームまで「つまらなそう」と見られてしまうことや、遊ぶ人が実際に質の悪いゲームをつかまされて、その手のゲーム全体の評価を下げてしまうことが、起こり始めていると聞きます。

    いま騒ぎになっているのはゲームの世界ですが、これは漫画やイラスト、音楽、グッズなど、作ったものを発売前に見せてファンを集めてきた創り手なら、誰にでも関わってくる話だと思います。

    では、私たち作る側は、真似されるのを恐れて黙って我慢するしかないのか?

    今回は、私たち作り手に対策はあるのかを考えてみたいと思います。変えるべきなのは「出すか、出さないか」ではなく、「どんな情報を、どの順番で出すか」だと私は考えています。

    Ⅰ|発表した翌日に、そっくりなゲームが出る

    10月14日、あるインディー開発者が、壁をパンチして脱出するゲームの映像をXに投稿しました。この映像は大きな反響を呼び、10月16日の時点で約450万回も見られています。ところが、投稿の翌日の10月15日には、名前までよく似たゲームが、Robloxで公開されてしまいました。Robloxというのは、利用者が自分でゲームを作って公開できる、ゲームの遊び場のようなサービスです。似たゲームを出した人たちの中には、「盗むだなんて大げさだ」と反論する人もいれば、AIに全部作ってもらったと隠さずに話している人もいます。

    これは1つの事例にすぎませんが、いまSteamでも、体験版を取りやめる動きが起きています。スペインのDigital Sunというスタジオは、Steam(パソコン向けの大きなゲームストア)で予定していた新作の一般向けのテストを取り消して、Discord(ファンが集まるチャットのサービス)での小さなテストに切り替えました。発売まで何か月もある時期に、大勢が遊べる形でゲームのデータを配るのは危険が大きすぎる、というのがその理由です。また、韓国の姉妹が2人で作っているレストラン経営ゲームも、「このゲームをAIでまるごとコピーしたものを作っている」という連絡を受けて、Steamでの体験版の配信をやめています。

    日本でも同じような動きが出ています。デッキ構築ゲームを作っているある開発者は、それまで週2回出していた開発の進み具合の投稿を、しばらく控えると発表しました。さらに、日本のインディーのシミュレーションRPGの開発者のもとには、「24時間以内に200ドル相当を払わなければ、AIで作ったそっくりなゲームを先にSteamで出す」という脅しのメールまで届いたと報じられています(メールには、実際にゲームを作ったという証拠は付いていなかったそうです)。本当にひどい話です。

    ここで起きていることは、大きく2種類に分けて考えたほうが分かりやすくなります。

    1つ目は、公開された映像や、誰かが遊んでいる様子を見て、AIに似たゲームを作らせるやり方です。最初に紹介した壁をパンチするゲームの件は、こちらにあたります。仕組みが単純なゲームであれば、早ければ数時間で似たものができてしまうと言われているくらいです。

    2つ目は、AIによる逆コンパイルです。
    逆コンパイルというのは、完成して配られているゲームのデータから、そのゲームの設計図にあたるプログラムを読み解き直すことです。これまでは高い技術と長い時間が必要だったので、一部の詳しい人だけがやることでした。それに、昔のゲームを今のパソコンで遊べるようにするといった、良い目的で使われることも多い分野でした。

    ところが、AIの登場でこれが一気に手軽になりました。どれくらい手軽になったかというと、昔のゲームを人の手で少しずつ読み解いてきた愛好家のコミュニティのサイトが、10月15日に新しい受け付けを閉じてしまったほどです。運営者によると、AIを使えば大勢で協力しなくても短い時間でできてしまうようになり、誰が何をやっているのかも見分けられなくなったので、人が集まる場として成り立たなくなったそうです。

    そして、手軽になったということは、悪用もしやすくなったということでもあります。先ほど紹介したDigital Sunがテストを取り消したのも、発売前のゲームが読み解かれて、本家より先にそっくりなものが出されたという報道を受けてのことでした。体験版を配れば、そのデータを読み解かれてしまうかもしれない。この心配が、各地で体験版を引っ込める動きにつながっているわけです。

    ただ、この2種類は、効く守り方がまったく違います。映像を見て真似する1つ目のやり方は、体験版を出さなくても起きてしまいます。一方で、データを読み解く2つ目のやり方は、配るデータの中身を工夫すれば防げる部分があります。この2つを混ぜたまま「とにかく全部隠そう」と考えてしまうと、守れないものまで守ろうとして、結局は何も見せられなくなってしまいます。

    パクられる世界は以前からあった

    今回紹介した事例の多くは海外のもので、日本とは文化も、ゲームの売られ方も、遊ぶ人との距離の取り方も少しずつ違います。

    ですから、日本の創り手にとっては的外れなところもあるかもしれません。それを前提にしたうえで、26年間ゲームを作って売ってきた立場から、いま私が考えていることを書いておきたいと思います。

    まず押さえておきたいのは、真似されること自体は、決して新しい話ではないということです。売れているゲームがあっという間に真似されて出回ることは、1970年代のゲームセンターの時代から起きていたことです。

    流行りのゲーム性をまねたゲームがRobloxでリリースされて流行るということは、AIが出てくる前からありましたし、アプリゲームなんてその典型例とも言えます。

    ヒットしたゲームの遊び方を真似た作品が次々に出てくるのも、ゲームの歴史では何も珍しいことではありません。

    それでも、ここ最近のAIによる真似は、これまでとは2つの点で違っています。

    1つは、本家より先に出てしまうことです。
    これまでの真似は、ゲームが売れてから後を追いかけてくるものでした。それがいまは、発表した映像や配った体験版をもとに、まだ発売されていないゲームのそっくりなものが、本家より先に出回るようになっています。

    もう1つは、本家が意図していない出来のものが、本家と見分けのつかない形で広まってしまうことです。

    この2つの変化は、ゲームの作り方にも、売り方にも、そしてどれだけ稼げるかにも、大きな影響を与えています。特に後者はタチが悪いです。遊ぶ人は本家と偽物を見分けられないので、偽物の出来の悪さが、そのまま本家の評判として返ってくるからです。

    そして前者のせいで、発売前に作品を見せて期待を集めるという、これまで当たり前だった売り方が成り立ちにくくなり、作る側は「何を、いつ見せるか」を、作り始める前から考えておかなければならなくなっています。

    普通に考えれば不正競争防止法に引っかかりそうなものですが、この法律が守るのは商品の「形」で、遊びのルールやアイデアまでは守れません。しかも相手が海外にいれば、なおさら手が届きません。ゲームの世界は、この辺りがグレーなまま、やったもん勝ちになっているのが実情です。

    Ⅱ|情報を隠すと、売上にダイレクトに響く

    正直に言うと、体験版や途中経過を引っ込めるスタジオの判断は、私にもよく分かります。何年もかけて作ったものを、発売前に横取りされてしまうかもしれないと思えば、扉を閉めたくなるのは当然のことです。ただ、その判断には、かなり大きな代償があります。

    小さなチームが作るゲームは、テレビCMやネット広告に大きなお金をかけることができません。だからこそ、作っている途中の映像や画像をXに出し、体験版を遊んでもらい、配信者に取り上げてもらい、ウィッシュリストに入れてもらうことが、知ってもらうためのいちばんの手段でした。

    ウィッシュリストもそうだし、アプリの事前登録、コンシューマの発売前情報は、発売日に向けて期待を頂点に持っていくための興味訴求や認知拡大の活動行為です。

    この事前情報の提供と活動によって、予約数やウィッシュリストの数が、売れ行きを測る目安であり、発売日の売れ行きを大きく左右します。
    Steamには、たくさんの体験版をまとめて遊べるお祭りのような催しもあって、そこでの反応が、発売までの道のりを決めることも少なくありません。

    私自身、情報を出し続けることに今もこだわっていますし、原則垂直立ち上げ(発表と同時に発売して、一気に売り出すやり方)をしたゲームで上手くいった試しがありません。
    以前担当したあるタイトルで、発表した直後に大きな延期が決まり、発売までの期間が1年も伸びてしまったことがありました。

    普通なら、1年も待たされるうちに、遊ぶ人の期待はどんどん冷めていきます。それでも何とか持ちこたえられた一番の支えは、その1年間、途切れずに情報を出し続けて事前登録(発売前に「出たら遊びたい」と登録してもらう仕組み)という出口を常に用意したことで、延期後1年でも忘れられずにプレイしてくれた方がたくさんいてくれたという経験をしています。

    とはいえ、毎月のように新しい発表ができたわけではありません。同じ話題を角度を変えて出したり、少しずつ新しいものを混ぜたりして、「何も情報が出ていない期間」を作らないようにしていただけです。そして、そのときに出していた材料の多くは、制作途中の画像や映像、決まったばかりの設定でした。

    つまり、制作途中のデータを出しづらくなるということは、この「出し続けるための材料」が少なくなるということです。何も見せられないまま発売日を迎えれば、たとえ誰にも真似されなかったとしても、売れる見込みはぐっと下がってしまいます。

    クローン(本家をそっくり真似た作品)を恐れて全部を隠してしまうと、守ったはずのゲームが、誰にも知られないまま終わってしまうおそれがあるわけです。

    実際、ゲームがどうやって見つけてもらえるのかを長く分析しているアメリカの専門家も、10月20日の記事で、ほとんどのゲームは体験版の予定を変えなくていいと書いています。仕組みが複雑で、作り手の個性がはっきりしたゲームは、真似しようとしても中身まではなかなか再現できず、仮にクローンが出ても広まりにくいからです。その専門家の見立てでは、本当に気をつけるべきなのは、仕組みが単純で、一言で伝わるアイデアが話題になったゲームだということでした。

    では、ゲームの何が真似されやすくて、何が真似されにくいのか? そこに目を配る必要がありそうです。

    Ⅲ|面白さは、そう簡単には真似できない

    私自身も、いまAIを使ってゲームを作っています。その中で何度も思い知らされてきたのは、ゲームの面白さは、考え抜かないと本当に出てこないということです。

    見た目や仕組みだけなら、AIを使えば驚くほど早くそれらしいものができあがります。私の試作でも、遊びの仕組みを言葉にしてAIに渡すと、骨組みまではすぐにできてしまいます。けれども、本当に大変なのはそこから先です。敵が出てくる間隔をどれくらいにするか、ごほうびをどれだけ渡すか、失敗したときにどこまで戻されるか。

    こうした数字を1つずつ動かしては遊び、また直すということを何度もくり返して、ようやく「もう1回やりたい」と思える手触りになっていきます。

    ゲームを作ったことがある人なら、この調整に一番時間がかかることを知っていると思います。私はこの作業を、狙い(遊ぶ人にどう感じてほしいか)、型(どんな遊びの形にするか)、つまみ(どの数字を動かして調整するか)という3つに分けて考えています。

    そして、外から見える映像やプログラムをいくらなぞっても、作り手が何を狙って、どのつまみをどこまで回したのかまでは見えません。

    もちろん、じっくり遊んで観察すれば、調整の中身をある程度まで推測することはできますし、時間をかけて本家に負けないものを作る人もいるでしょう。それでも、短い時間でAIに真似させただけのものが、本家と同じ手触りまでたどり着くのは、かなり難しいはずです。

    実際に、Steamで出した自分のゲームを何度も盗まれた海外の開発者は、こんな話をしています。出回ったクローンはどれも出来が悪く、広告と課金だらけで評価も低かったので、かえってクローンに触れた人が本家のほうへ流れてきた、というのです。そのゲームはいま、Steamで「非常に好評」という高い評価を得ています。

    ここまでの話だけを聞くと、「すぐ真似されたものは面白くないのだから、怖がる必要はない」と思えるかもしれません。しかし、私が一番怖いと思っているのは、実はその先です。

    Ⅳ|本当の怖さは、偽物で本家の評判が下がること

    面白さは真似されにくいというのは、あくまで作り手の側から見た話です。遊ぶ人の側から見ると、話はまったく変わってきます。

    というのも、遊ぶ人は、どちらが本家でどちらがクローンなのかを、ほとんど知らないからです。作り手がどれだけ時間をかけて調整したのかという背景も、当然知りません。そんな状態で、ストアに見た目のそっくりなゲームが2つ並んでいて、先に遊んだほうがつまらなかったとしたら、どう思うでしょうか。おそらく「これがつまらないなら、こっちも同じようなものだろう」と考えて、本家のほうは開いてもくれないはずです。

    これが実際にどのくらい起きているのかは、まだ数字では分かりません。ただ、その一歩手前のことは、すでに起きています。韓国のゲームメディアは、人気のゲームに似せた紛らわしい画像をストアに並べたクローンが出回り、買った人から払い戻しを求める声が出た例を紹介しています。

    また、干し草の山から針を探すゲームが今年の夏に話題になったときには、海外のゲームメディアKotakuの記者が10月18日に記事を書いた時点で、Steamに少なくとも14本ものクローンが並んでいました。

    本家はとうとう、自分のゲームのサムネイルに「Original(本家)」と書き足すことになっています。さらには、クローン同士が「自分のクローンを真似された」と言い争うという、笑えない騒ぎまで起きています。

    このように、遊ぶ人が迷ってしまい、どれが本家か見分けられていないというところまでは、もう起きているわけです。そこからさらに進んで、一度「この手のゲームはつまらない」と思われてしまえば、見た目の似ている本家まで避けられるようになります。本家が、自分で作ったわけでもない駄作の評価を背負わされてしまうのです。私は、これが一番怖いことだと考えています。

    ゲームの歴史を振り返ると、1982年の終わりごろから、アメリカで家庭用ゲーム機向けの質の低いゲームが大量に出回り、遊ぶ人がゲームそのものを信用しなくなって、市場が一気に縮んだことがありました。日本では「アタリショック」と呼ばれている出来事です。

    ただ、今回はさすがにそこまでにはならないと私は見ています。大手のゲームはすでにしっかり確立されていて、AIで簡単に真似できるようなものではないからです。

    心配なのは、インディーの世界のほうです。真似が当たり前になった世界では、発売前に作品を見せて期待を集めるという事前のプロモーションが成り立ちにくくなります。そうなると、インディーの世界から新しい名作が生まれにくくなっていくのかもしれません。もともと宣伝の手段が限られている個人は、ますます勝ちにくくなり、作って稼ぐことの厳しさが、いっそう際立ってしまうのではないか。私は、ここをいちばん危ないと見ています。

    もちろん、Ⅲで紹介したように、粗悪なクローンからかえって本家に人が流れてくるという逆の例もあります。どちらに転ぶかを分けるのは、遊ぶ人が「どっちが本家なのか」をちゃんと見分けられるかどうかだと私は見ています。

    つまり、本当に怖いのは「面白さを盗まれること」よりも、「面白くない偽物と、見分けてもらえないこと」なのです。

    Ⅴ|これは、すべての創り手の寿命を縮める

    ここまでゲームの話をしてきましたが、私はこれが、ゲームだけの問題ではないと考えています。

    作ったものを発売前に見せて、知ってもらい、楽しみに待ってもらうという流れは、ゲームに限らず、漫画でも、イラストでも、音楽でも、グッズでも同じです。どの分野でも、制作途中を見せること自体が、ファンを作るための大事な手段になってきました。それが「見せたら真似される」という状況に変わってしまうと、創り手は、発売前に味方を集める手段を失ってしまいます。

    発売前に知られていなければ、発売日に買ってくれる人は少なくなりますし、最初に売れなければ、次の作品を作るためのお金も入りにくくなります。そして次の作品を作れなければ、創り手として続けていくこと自体が難しくなっていきます。まだ数字で確かめられる話ではありませんが、真似される怖さで情報を出せなくなることは、作品1本の問題ではなく、創り手の寿命そのものを縮めかねないと私は思っています。

    では、この先、創り手はどうなっていくのでしょうか。

    考えられる道は、大きく2つあります。

    1つ目の道は、発売してから宣伝するという形に寄っていくことです。
    発売までは何も見せずに、出した瞬間に一気に宣伝するというやり方なら、真似される時間は減らせます。けれどもその代わりに、発売日に待っていてくれる人がほとんどいない状態から始めることになります。

    発売前にウィッシュリストや事前登録を積み上げて、発売初日に大きな山を作るという、これまでの勝ち方が使えなくなってしまうのです。

    特に、アニメや漫画、グッズなどに作品を広げていくメディア展開では、この道はほとんど選べません。メディア展開は、発表から公開までに長い時間をかけて、キャラクターや設定、映像を少しずつ出しながら期待を育てていくことが前提になっているからです。

    2つ目の道は、著作権や商標(名前やロゴを自分だけが使えるように登録する仕組み)で、アイデアや作品を守る取り組みが欠かせなくなっていくことです。

    ただ、遊びのアイデアやルールそのものは、一般に著作権では守られにくいとされていますし、名前やロゴの商標登録にもお金と時間がかかります。個人や小さなチームが、作品ごとにそこまで手間をかけるのは簡単ではありません。

    それに、正直なところを書いておくと、権利で守るという道には、もう1つ大きな壁があります。私たちは、世界中の作り手と同じ土俵で作品を売っています。そこには、ルールをきちんと守る人たちがいる一方で、法律もルールもお構いなしに、真似したもので稼げるだけ稼いでいる人たちも山ほどいます。

    Ⅲで紹介した、何度もゲームを盗まれた開発者も、申し立てをするたびに相手に素材を少し変えられて言い逃れされ、少人数のチームでは追いきれずに、最後は申し立てをあきらめています。

    個人が権利だけで戦い続けるのは、現実にはかなり難しいのです。相手が海外にいれば、なおさらでしょう。こちらがルールを守っているからといって、相手もルールを守ってくれるわけではありません。

    私がこのことを最初に思い知ったのは、2007年ごろ、中国・台湾・韓国で仕事をしていたときでした。

    当時、MMORPG(大勢の人が同時に1つの世界で遊ぶオンラインのRPG)やソーシャルゲームの世界では、真似されることが当たり前になっていました。もともとゲームの仕組みが似ているジャンルだったこともあって、あるゲームのデータを解析して、外側だけを変えて出す。キャラクターの見た目も、有名なゲームの3Dモデルをそのまま持ってきて使う。そういうことが、ごく普通に起きていたのです。

    私自身も、それで痛い目を見ています。海外のあるゲームを、そうした中身を知らされないまま契約して、日本に持ってきたことがありました。結果は、日本のメーカーに訴えられて、すぐにサービスを終了することになりました。ところが、それはあくまで日本での話です。同じゲームは、本国では何事もなかったかのように、そのままサービスを続けていました。

    そういう理不尽な世界が普通にあるということです。
    日本で当たり前だと思っていたルールが、同じ市場で戦う相手にとっては当たり前ではない。それでも、そういう相手とも勝負をしなければならないし、正直に言えば、まともな勝負にならないことも多い。これは、当時の私にとって大きなカルチャーショックでした。

    そのときに学んだのは、ルールを守らない相手と、同じやり方で正面からぶつからないということです。どう戦うのか、どの市場で売るのか、何をどう作るのかを考えるときに、相手が真似しにくく、たとえ真似されても負けにくい形を、作り始める前から慎重に選んでおく。

    AIで真似がこれだけ速くなったいま、この教訓は、海外で仕事をする人だけのものではなくなったと感じています。

    こうして見ていくと、「隠す」ことも、「発売してから宣伝する」ことも、「権利で固める」ことも、どれか1つだけでは創り手は戦えないことが分かります。そうなると、残っている道は、情報を出し続けながら、出す情報の中身と順番を変えていくことです。

    Ⅵ|戦い方は、情報の出し方を変えること

    先に言っておくと、作品のすべてを守る方法はありません。だからこそ大事なのは、守れるものと守れないものを分けたうえで、出す情報の中身と順番を変えることです。

    まず、守るのが難しいものから見ていきます。「壁をパンチして脱出する」「干し草の山から針を探す」といった遊びのアイデアやルールそのものは、一般に著作権では守られにくいとされています。

    似ているとか、自分のほうが先に作ったというだけでは、権利の侵害にはなりにくいのです。また、ゲームのプログラムも、手間はかかるものの、読み解かれる可能性があります。プログラムを読みにくくする工夫もありますが、海外の開発者向けの記事でも、それは「読み解く手間を増やすだけで、止めることはできない」と整理されています。

    一方で、実際に描いた絵や、作った音楽、書いた文章、そしてプログラムそのものは、作り手の表現として守られやすいものです。これらが無断で使われた場合には、申し立てを考えることができます。ゲームの名前やロゴについては、著作権ではなく、商標として登録しておくことで守る道があります。そして、面白さを生む調整の中身は、外からは推測するしかありませんし、作り手と遊んでくれる人とのつながりは、そもそも真似のしようがありません。

    このように整理すると、出す情報を3つに分けて考えることができます。

    1つ目は、先に出していい情報です。
    (絶対ではありませんが)ゲームの名前やロゴ、キャラクター、世界観、描いた絵、そして作り手の顔や、作っている過程の話がこれにあたります。このうち、実際に描いた絵や作った音楽は表現として守られやすく、名前やロゴは商標登録で守る道があります。

    キャラクターの設定や世界観そのものは、権利で守るのは難しいものの、先に出して覚えてもらえばもらうほど、真似されたときに「本家はこっちだ」と分かってもらうための目印になります。権利で守れるかどうかとは別に、覚えてもらうこと自体に効果があるわけです。

    2つ目は、発売の近くまで取っておく情報です。
    一言で伝わる遊びの仕組み、いわば「このゲームの一発ネタ」がこれにあたります。ここは一番真似されやすく、しかも一番守りにくいところです。見せてはいけないとは言いませんが、見せてから実際に買えるようになるまでの期間を、できるだけ短くします。

    3つ目は、出さない情報です。
    調整の細かい数字や、まだ見せていない本編の中身、そして外に出てはいけない秘密の情報がこれにあたり、体験版のデータにも入れないようにします。

    これまでのインディーゲームの告知では、一番目を引く遊びの映像を最初に出して、一気に話題を取るというやり方がよく使われてきました。けれども、AIで真似される時代には、情報の出し方はより精査して出す順番やタイミングを入れ替えたほうがいいのだろうと考えています。

    まず「誰が作っている、何という作品なのか」を覚えてもらい、一発ネタは発売の近くで見せる。そうしておけば、話題になったその瞬間に、遊ぶ人が迷わず本家にたどり着きやすくなるだろうという仮説です。

    Ⅶ|個人はどうするか:出す中身と順番を精査する

    ここまでの話を、個人で作っている人の立場に置き換えて考えてみます。

    小さなチームや個人にとって、一番やってはいけないのは、怖さにまかせて全部黙ってしまうことだと私は思います。
    黙っていれば、クローンからは守れるかもしれません。けれども同時に、遊んでくれるはずの人にも見つけてもらえなくなります。多くの個人にとっては、誰にも知られないまま発売日を迎えることのほうが、クローンを出されることよりも、ずっと大きな損になるはずです。

    それよりも、情報を出し続けながら、出す中身と順番を選ぶほうが、ずっと現実的です。そのためには、まずどの市場で、どんな形のものを作って売るのかを、真似される可能性も含めて選んでおくことが大切です。一発ネタだけが売りの作品を、真似されるのが速い場所で売るのであれば、それなりの覚悟が必要になります。

    そのうえで、制作途中の投稿は遊びの仕組みではなく、キャラクターや絵、作っている人の話に寄せていきます。一発ネタは発売の近くまで取っておき、体験版はデータの中身と配り方を選んで出します。

    そして、名前とキャラクターに作品らしさを込めて、どの投稿からでも本家の置き場所にたどり着けるようにしておきます。こうしたことは、どれも発表する前から決めておけることです。

    私がいつも書いている、作ったものが「受け入れられて、いいと思われて、使われて、買われる」までの段階に当てはめると、クローンは、一番手前の「受け入れられる」と、その次の「いいと思われる」の段階を、横から邪魔してくる存在だと言えます。だからこそ、作る力と同じくらい、作ったものを届けるための段取りが大事になってくるのです。

    AIで作るのが速くなった分、真似するのも速くなりました。それでも、考え抜いて作った面白さは短い時間では写し取れませんし、作品を遊んでくれる人とのつながりは、AIでは作ることができません。隠して守るのではなく、出し方を変えて、本家として先に知ってもらうことで守る。私は、これがAIでパクられる時代における、小さな作り手の戦い方だと考えています。

    あとはシンプルにこれはすぐに真似されそうだなと確信した場合は、早々にリリースを早めて、アーリーアクセス(完成前に販売を始める仕組み)などでリリースし、その後にアップデートしながら収益の回収を図るといったケースも可能性としてあるかもしれません。あるいは完全なるスタンドアローンでは完結しないゲーム性にするとかでしょうか。

    ここから先は、ここまでの話を自分の作品に当てはめるための手順を、シートの形で参考としてまとめていきます。

    【実践編】AIでパクられる時代の、情報の出し方

    ここで書く権利や申し立ての話は、筆者の経験と公開されている情報をもとにした、一般的な整理です。似ているかどうか、権利の侵害にあたるかどうかの判断は、ケースによって変わります。実際に揉めてしまったときは、必ず弁護士などの専門家に相談してください。

    Ⅷ|手元の情報を、3つに仕分ける

    最初にやるのは、自分の作品について出せる情報を全部書き出して、Ⅵで説明した3つに仕分けることです。投稿するたびに頭の中で「これは出していいのかな」と迷うよりも、先に一度仕分けておけば、毎回迷わずに済むようになります。

    情報の仕分けシート
    先に出していい(覚えてもらうための情報):
    名前・ロゴ/キャラクター/世界観・舞台/描いた絵・音楽/作り手の顔と、作っている理由/作る過程の苦労や決めたこと
    発売の近くまで取っておく(真似されやすい情報):
    一言で伝わる遊びの仕組み/ゲームの一番の見せ場が分かる映像
    出さない(読み解かれたくない情報):
    調整の数字/まだ見せていない本編の中身/秘密の情報

    実際に書き出してみると、たいていの人は「先に出していい」の欄が思ったより少ないことに気づくはずです。遊びの仕組みのことばかりで、キャラクターも世界観も、作り手の話もほとんど書けない、ということがよくあります。その場合は、情報の出し方を考える前に、まず作品の顔を作るところから始めてください。名前やキャラクターがはっきりしない作品は、仕組みを真似された瞬間に、どれが本家なのか分からなくなってしまうからです。

    反対に、仕組みがとても単純で、それ自体が一番の売りになっているゲームもあります。その場合は、「発売の近くまで取っておく」の欄が、ほぼ作品のすべてになります。こういう作品では、Ⅹで説明する「見せてから発売までの期間を短くする」組み立てが、特に大事になってきます。

    ゲーム以外の創り手であれば、この仕分けは次のように置き換えることができます。漫画であれば、キャラクターと世界観は先に出していい情報で、物語の一番の仕掛けや大きな展開は、発売の近くまで取っておく情報になります。イラストやグッズであれば、作り手の名前やシリーズの名前、キャラクターを先に覚えてもらい、新しい商品の企画の核になる部分は、発売の近くまで出さないようにします。

    音楽であれば、作り手の顔や曲ができていく過程は先に出して、完成した音源は発売の近くで出します。そして、ゲームの体験版にあたるのが、試し読みやサンプル、デモの音源です。分野が違っても、先に覚えてもらうべきなのは「誰が作っている、何という作品なのか」だという考え方は変わりません。

    Ⅸ|制作途中の情報は、中身を変えて出し続ける

    制作途中の投稿は、やめるのではなく、出す中身を変えて続けます。私が延期の1年間を持ちこたえたときも、毎回新しい遊びを見せていたわけではなく、同じことを角度を変えて出しながら、「何も情報が出ていない期間」を作らないようにしていました。

    出す中身としてまず向いているのは、キャラクターや絵ができあがっていく様子です。下書きから完成までの変化や、没になったデザイン、色を決めるまでの迷いといった投稿は、遊びの仕組みを明かさずに作品を覚えてもらえるうえに、真似されたときには本家の目印にもなってくれます。

    作り手自身の話も、とても強い材料になります。なぜこの作品を作っているのか、いま何に苦労しているのか、何を決めて、何を捨てたのか。こうした話は、AIでどれだけ真似されても写し取ることができません。作っている人の顔が見えている作品は、偽物と並んだときにも見分けてもらいやすくなるという考えです。

    遊んでくれた人の反応も、出し続けるための材料になります。試遊会でもらった感想や、知り合いに遊んでもらったときの様子などは、遊びの仕組みを全部見せなくても、「遊んだ人がこう言っていた」という形で伝えることができます。

    その一方で、新しい遊びの仕組みを丸ごと見せる映像や、作品の一番の見せ場は、発売が近づくまで取っておきます。どうしても見せたいときは、遊びの一部だけを切り取って見せるか、キャラクターや演出が主役になる映像にするとよいでしょう。

    そして、出すものには必ず作品の名前とロゴを入れておきます。画像の隅や、映像の最初と最後、投稿の本文などに入れておけば、誰かに転載されたり切り抜かれたりしても、そこから本家にたどり着いてもらえるからです。あわせて、投稿には毎回、ストアのページや公式アカウントなど、本家の置き場所へのリンクを付けるようにします。

    Ⅹ|発表から発売までの順番を組み直す

    情報を出す順番は、発売日から逆算して決めます。これは以前書いた、ゲームの発表日の決め方の記事と同じ考え方で、まず発売まで情報を出し続けられるだけの材料があるかどうかを数えます。そのうえで、AIで真似される時代に合わせて、出す順番を次のように組み直します。

    最初に出すのは、名前とロゴ、キャラクター、世界観です。それと同時に、ストアのページや公式アカウントを用意して、「本家はここです」と言える場所を作っておきます。ウィッシュリストの受け付けも、この段階から始めます。

    次は、制作途中の情報を出し続ける期間です。Ⅸで書いたように、キャラクターや絵ができていく様子、作り手の話、遊んだ人の反応などを出していきます。この期間が長くなっても、出し続けられる材料さえあれば、期待は冷めにくくなります。

    そして、遊びの仕組みが分かる映像や体験版は、発売が近づいてから出します。一言で伝わる単純なゲームほど、この「見せてから買えるようになるまで」の期間を短くしてください。反対に、仕組みが複雑で、作り手の個性がはっきりしたゲームであれば、早めに遊んでもらって、感想や配信で広げていくことを優先してもいいと私は考えています。

    ただし、遊びの核を見せるのを遅らせれば、その分、映像や体験版で集められたはずのウィッシュリストや感想を手放すことになる点には注意が必要です。ここは、損と得を比べて決めるところです。まず「何を見せれば、遊んでみたいと思ってもらえるか」を考えて、それがキャラクターや世界観で十分に伝わるのであれば、遊びの核は後に回すことができます。反対に、一発ネタそのものが一番の魅力なのであれば、隠して温めておくよりも、早めに見せて、そのぶん発売も前倒しにするほうが合っています。

    何か月前に何を出すべきかという、決まった数字はありません。自分の作品がどれくらい真似されやすいか、発売まで出し続けられる材料がどれくらいあるか、そして体験版でどんな反応を集めたいかを考えて決めてください。

    Ⅺ|体験版は、真似されやすさで出し方を決める

    体験版を出すかどうかを「パクられるのが怖いかどうか」で決めようとすると、たいていは出さないほうに流れてしまいます。そうではなく、自分のゲームがどれくらい真似されやすいかで決めるのがおすすめです。

    確かめることは4つあります。一言で伝わるアイデアが売りになっているか、遊びの仕組みが単純で素材も少ないか、名前や絵、キャラクターだけで本家だと分かるか、そして体験版を出してから発売までどれくらいの期間が空くか、の4つです。

    最初の2つが「はい」で、3つ目が「いいえ」、そして4つ目の期間が長いのであれば、体験版を出す前に、名前と見た目の個性を固めることと、発売までの期間を短くすることを先に考えてください。反対に、最初の2つが「いいえ」であれば、そのゲームは複雑で真似しにくいゲームです。体験版は予定どおりに出して、見つけてもらうことを優先したほうがいいと私は考えます。

    体験版を出すと決めたら、次は出し方を選びます。ただし、ここで紹介する工夫が効くのは、主に「配ったデータを読み解かれること」に対してだという点は覚えておいてください。映像を見て真似されることは、体験版を出さなくても防げません。そちらに対しては、Ⅸ・Ⅹで書いた情報の出し方と、次のⅫで書く「本家だと分かる状態」で備えます。

    データの読み解きに対していちばん効くのは、体験版のデータに本編の中身を入れないことです。体験版で遊べる範囲のデータだけを入れて、残りのステージや素材は外しておきます。遊べない部分のデータが中に眠っていると、読み解かれたときに、まだ見せていない中身まで持っていかれてしまうからです。そもそも配られていないものは、読み解きようがありません。

    体験版をどこまで遊べるようにするかは、それとはまた別の判断になります。短く区切ったとしても、遊べば手触りはある程度まで観察されてしまいます。ですから、長さで調整の中身を隠そうとするよりも、作品の魅力がちゃんと伝わることと、感想を集められることを優先して長さを決めてください。長さに決まりはありません。

    オンラインで遊ぶゲームであれば、勝ち負けの判定やランキング、ゲーム内のお金の計算といった大事な仕組みは、配るデータの中ではなく、サーバー(運営側のコンピューター)で処理するようにします。配るデータの中に、パスワードや秘密の鍵のような情報を入れないことも基本です。配ったものは、全部読まれる前提で考えておくのが安全です。

    配り方にも選択肢があります。誰でもダウンロードできる形にするのか、期間を区切るのか、配信者や登録してくれた人だけに鍵を配るのか、という選び方です。全部を閉じてしまうのではなく、配る相手と期間を選ぶという考え方です。ただし、期間を区切ったとしても、一度配ったデータは相手の手元に残ります。期間や相手を絞るのは、あくまで広まる範囲を小さくするためで、配ったものを取り戻せるわけではない点には注意してください。

    Ⅻ|本家だと分かる状態を、先に作っておく

    クローンが出てしまったときに一番効くのは、遊ぶ人が「どっちが本家なのか」をすぐに分かる状態です。そして、この状態はクローンが出てから慌てて作っても間に合いません。

    最初に手をつけたいのは、名前とキャラクターです。「〇〇シミュレーター」のような誰でも付けられる名前だと、似た名前のクローンの中に埋もれてしまいます。検索したときに自分の作品だけが出てくるような名前にしておけば、遊ぶ人が迷わずに済みます。名前やロゴを商標として登録しておくことも、守り方の1つです。

    名前が決まったら、公式の置き場所を1つに決めて、毎回そこへ案内するようにします。ストアのページや公式のXアカウント、Discordなど、「本家はここです」と言える場所を固めておき、発表の投稿にも毎回同じ場所へのリンクを付けます。

    それと並行して、作っている記録を日付つきで残しておきます。プログラムの変更の履歴や、絵や音の元データ、発表した日の投稿などが残っていれば、クローンが出たときに「自分のほうが先に作っていた」ことを示す材料になります。

    そのうえで一番強いのが、遊んでくれる人とのつながりです。体験版を遊んでくれた人や感想をくれた人、配信してくれた人たちが、「本家はこっちだよ」と言ってくれるようになれば、それがどんな告知よりも強い見分けの手がかりになります。

    ⅩⅢ|クローンが出たときの手順

    もしクローンが出てしまったら、慌てずに、次の順番で動いてください。

    見つけたら、まずは記録を取ります。クローンのストアのページや画像、公開日、作った人の名前を、画面の保存とURLで残しておきます。後から消されてしまうこともあるので、見つけたその日のうちに残しておくことが大事です。

    記録が取れたら、何が真似されているのかを見分けます。アイデアや遊び方が似ているだけなのか、自分の絵や音、文章がそのまま使われているのか、プログラムそのものがほとんど同じなのか、それとも名前やロゴが紛らわしいのか、という見分け方です。アイデアが似ているだけであれば、申し立てでクローンを消してもらうのは難しいと考えて、Ⅻで書いた「本家だと分かる状態」を強めるほうに力を使います。一方で、自分の素材やプログラムが使われているように見える場合(一部を変えたものも含みます)や、名前やロゴが紛らわしい場合は、比較の資料をそろえて、どの権利の、どの部分が、どのように使われているのかを整理します。見た目が似ているというだけで権利の侵害だと決めつけることはできないので、この段階で専門家に相談するのが安全です。

    そのうえで、そのクローンが実際に広まっているかどうかを確かめます。海外の専門家は、プログラムを明らかに丸写しされていて、しかもそれが人気になっているのであれば、証拠をそろえてSteamに著作権の侵害として申し立てるべきだと勧めています。反対に、ほとんど誰にも遊ばれていないクローンであれば、時間をかけて追いかけるよりも、自分のゲームを前に進めることに時間を使ったほうが得な場合もあります。

    追いかけると決めたら、申し立てをします。Steamやスマートフォンのアプリストアには、権利を持つ人が侵害を申し立てるための窓口があり、著作権と商標とで窓口が分かれていることもあります。申し立てるときは、自分の作品と相手の作品のどこがどう同じなのかを、画像やファイルを並べて示せるようにしておき、先に作っていた記録はその裏付けとして添えます。申し立ての内容や、自分の名前・連絡先が相手に伝わる場合があること、そして事実と違う申し立てをすると責任を問われることもあるので、窓口の説明をよく読んでから出してください。相手が素材を少し変えて言い逃れることもあるので、1回で終わらない可能性も覚悟しておきましょう。

    そして、脅しには応じないでください。「お金を払わなければ先に出すぞ」というメールが届いたとしても、払ったからといって出されない保証はどこにもありません。メールは消さずに保存しておき、プラットフォームや、必要であれば警察にも相談します。メールをそのまま公開するかどうかは、相手を刺激してしまうこともあるので、慎重に決めてください。それよりも、遊んでくれる人たちに「本家はここです」と知らせることに力を使うほうが、ずっと意味があります。

    おわりに|隠して守るより、出し方を変えて守る

    最後に、今回の話をまとめておきます。

    - AIを使って、映像から似たものを作ったり、配られたデータを読み解いたりすることが、一気に手軽になった。その結果、海外でも韓国でも日本でも、体験版や制作途中の情報を出さない動きが出ている
    - 情報を隠すと、発売前の宣伝ができなくなる。個人にとっては、目立たないまま発売日を迎えることのほうが、クローンを出されるより大きな損になりうる
    - 面白さを生む調整は外からは推測するしかないので、AIで短い時間に真似したものは、本家と同じ手触りにはなりにくい
    - 私が一番怖いのは、つまらない偽物と見分けてもらえずに、本家の評判まで下がってしまうおそれがあること(どのくらい起きているかは、まだ分からない)
    - 隠すことも、発売してから宣伝することも、権利で固めることも、それだけでは戦えない。特にメディア展開では厳しく、創り手の寿命を縮めかねない問題だと私は考えている
    - 情報は「先に出していい」「発売の近くまで取っておく」「出さない」の3つに分けて考える
    - 先に名前やキャラクター、作り手を覚えてもらい、一発ネタは発売の近くで見せる。出すものには必ず本家の目印を付けておく

    AIで作るのが速くなったのと同じだけ、真似するのも速くなりました。けれども、考え抜いて作った面白さは、短い時間では写し取れません。

    そしてこれは、ゲームに限らず、多くの創り手に言えることだと思います。黙ってしまうのではなく、情報の出し方を変えて、作品を受け取ってくれる人たちに先に届けておくこと。それが、これからの創り手の戦い方なのだと思います。

    ※情報の仕分けや体験版の判断は、筆者の経験と公開されている報道・解説をもとに作ったものです。事例の多くは海外のもので、日本の事情とは違うところもあります。法律の判断ではありません。

    関連記事

    【AI時代のキャリア戦略】AIで「作れるだけの人」は、もう選ばれない|最後まで求められる人の3つの力
    https://note.com/ukyousan/n/nf27f2e52a472

    作ったゲームを「遊びたい」と思ってもらうためのテンプレ集|サムネの型・投稿ネタ30
    https://note.com/ukyousan/n/n6a152ce71bcf

    人気記事

    AIゲーム開発の基礎知識|面白さを言語化して的確に設計する方法と、フレーム数の基礎
    https://note.com/ukyousan/n/n7f10bf449a58

    30代・40代からのキャリア戦略「何屋さんですか?」に、うまく答えられない人へ
    https://note.com/ukyousan/n/n10cd1e80e700

    発売まで情報を出し続けるための、ゲームの発表日の決め方は、こちらの記事で詳しく書いています。

    ゲームの発表日は、いつ決めるべきか|発売まで告知を出し続けられる時期を見極める
    https://note.com/ukyousan/n/nfdb9683603e9

    ゲームの面白さを、狙い・型・つまみに分けて調整する考え方は、こちらの記事です。

    AIで作ったゲームを調整するための「狙い・型・つまみ」の作り方
    https://note.com/ukyousan/n/nc7294c97d599

    メンバーシップ「創る力をお金と仕事に変える工房」では、こうした話を月10本以上書いています。
    https://note.com/ukyousan/membership

    参考資料

     
     
    職場で詰んだと感じている人のための仕事設計術|評価・キャリア・報酬の構造を自分で動かす方法を発信||ゲーム業界26年・100タイトルの現場から。ゲームプロデューサー兼マーケッター|

    あなたへのおすすめ