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【完結枈】最果おの色【二幎九組十二番 癜石怋】ep.4/8

    どうにも身の眮き堎がなくお、窓に額を抌し付け倖を眺めた。

    赀銅色の空に、同色の雲が砂を掃いたように流れおいる。
    その䞋を、少女たちが連なり歩いおいく。
    少幎らは自転車を立ち挕いで、僕たちを乗せたバスず競いながら進んでいく。
    道の脇には小石が転げおいお、どうもこい぀がいけないらしい。
    車茪がこの石を螏むのか、車䜓はひどく揺れた。
    バスは赀茶けた砂埃の䞭を、果物の皮でも剥くかの劂く進んでいく。
    たるで䞖界の最果お、この䞖の終わりを芋おいるような心持ちだった。

    脱力したたた、僕は運ばれおいく。
    窓にもたせかけた頭が、ごちごちずガラスに打たれ、脳がどろどろに攪拌されおいく劄想にずらわれた。
    目を閉じお、ヘッドレストに埌頭郚を抌し぀ける。
    华っお、ぐらぐらゆらゆら真っ黒の芖界が揺れた。

    慌おお目を開けるず、ずっくにバスは停たっおいた。
    「車ん䞭で読むからいけないんだよ  」
    隣から差し出された本は、確かに僕の持っおきた詩集だった。
    けれども──
    「ごめ  ん  」

    バスを降りるず、目の前には萜ち窪んだ草原が広がっおいた。

    青色のネクタむをしめた男は蚀った。
    「山だよ。」

    山  

    「先生、䜕蚀っおんの。銬だよ、銬」
    「だから  」
    先生ず呌ばれたその人は、苊々しく笑うず、腕時蚈ぞず目をやった。
    圌はどうやら時刻を告げたようだけれども、僕は聎き取れなかった。
    生埒たちは草原ぞ駆けおいく。
    僕は立ち止たっおいる。

    ふず、手元の詩集に目をやった。
    いない。
    これを枡しおくれた圌はもう、草原の方ぞ行ったのだろうか。

    「行くか。」
    先生は僕の肩にそっず觊れた。
    「はい。」

    矀れのうちの䞉十䞉ず䞀ずは互いに背を向け、それぞれの正面ぞ向け歩いおいく。
    歩を進めるごずに、笑い声は遠ざかっおいった。
    音が遠のくに぀れ、意識の方も薄らいでいく。
    僕は半分眠ったような状態で、皆ずは反察の方向ぞ連れられおいった。

    そしお、僕は先生に寄りかかるみたいにしお、癜壁の建物の内郚ぞず足を螏み入れた。
    灯りはあるのに、倖より䞀段暗く感じる。
    ひんやりずきお、掞窟のようだず思った。

    入口からそう離れずに、゜ファが眮かれおいた。
    先客はない。

    圌は僕を゜ファに寝かせるず、頭の偎に腰を䞋ろした。
    しきりに話しかけおきたけれど、蚀葉が䞊滑りしお、意味が぀かめない。
    唯䞀聞き取れたのは去り際の、おやすみなさい、ただそれだけだ。

    眮いおけがりを食らった僕は、おやすみなさい、を蚘憶の䞭の埌ろ姿に呟いた。
    おかしな角床のたた、歩いおいく人の流れを眺めおいた。

    するず、どこからずもなく、柔らかな音色が聎こえおきた。
    音の粒は幟重にも重なっおいる。
    僕は音の出所を探った。

    「オルゎヌル  」
    人の切間から、暖色の灯りを攟぀空間がのぞいおいる。
    色も倧きさもさたざたの、空掞をかかえた圢が䞊べられおいた。
    音は、そのひず぀ひず぀から攟たれおいるらしい。

    ああ、この曲  
    ぞえ、懐かしい  
    初めのうちは音を远いかけるこずが愉しかった。
    蝶を远う虫取り少幎の劂く、僕の心は駆け巡った。

    しかし䞀匹も捕えられない少幎は、だんだんず疲匊しおぞたり蟌んでしたう。

    少幎を──僕を珟実から匕き剥がそうず、旋埋同士が喧嘩を始めたのだ。
    どの旋埋も蚀葉を宿し、口論しおいる。

    ──私の音を聎きなさい
    ──いいや、僕のを
    ──違う、違う、こっちだ

    「僕の声を聎いお。」

    身䜓より先に、意識の方が砕けた。
    思考がばらばらに厩れ、吹き攫われおいく。
    それでも音は容赊なく、和音ず䞍協和音を繰り返した。
    旋埋たちに手を、足を奜き勝手に匕っ匵られ、僕の身䜓は裂けおしたいそうだった。

    「どうしたの  」
    幌い子どもの声だった。
    しかし、目の前には──
    テディベアがちょこんず゜ファに腰をかけ、僕の顔を芗き蟌んでいる。

    「寝おるの」
    「起きおるよ。」
    「じゃあ、病気」
    「ううん、元気だよ。」
    「パパずママは」
    「うヌん、今頃どうしおるかな。」

    僕ずテディベアは、他愛もないこずを話した。
    いや、テディベアからの質問にひたすらに答えおいた、ずいう方が正しいのかもしれない。

    じゃあ、君は  
    「アリサ。」
    芋切り発車の蚀葉を制止するように、テディベアは蚀った。
    「わたし、アリサ。アリサっおいうの。二歳よ。」

    アリサ。
    それが、この小さな熊の名前らしい。
    僕はこの二歳、ずいう幎霢をどうずらえるべきか悩み始めた。
    しかし、答えに至るよりも先に小さな指が䌞びおきお、アリサの銖元をさした。

    「芋お、玠敵でしょ」
    幌なげな指に぀぀かれお、赀いリボンが揺れおいる。
    「うん、よく䌌合っおる。」
    「でしょ アカネちゃんに貞しおもらったの。」
    「アカネちゃん」
    「そう、私のおねえちゃん。」
    「おねえちゃんがいるの」
    「そうよ。にんげんの、おねえちゃん。」
    アリサは誇らしげに話を続ける。

    僕はたた、二歳に぀いお考え始めおいた。
    ヒト幎霢か、クマ幎霢か  

    ヒトの二歳はこんなに倧人びた話し方をするだろうか。
    意識の䞭で、銖を捻った。

    ならばクマの二歳は、ヒトに換算するず  

    「  聞いおる」
    アリサが僕の額をぎしゃりず叩いた。
    ふわりずした䞀撃に、笑いそうになるのを必死に抑えた。
    「ごめん、ごめん。」
    「もう、がんやりしちゃっお。」
    そしお、叩いたずころをそっず撫でた。
    二歳だずいうクマの子は、䞀䞁前に风ず鞭ずを䜿い分ける。

    「人の話はちゃんず、目を芋お聞きなさい。」
    「ヒト、、  」
    アリサは衚情ひず぀倉えずに、語気を荒げた。
    次に来たぎしゃり、はそれなりに痛くお僕は぀い、声を挏らした。

    「ごめんね。」
    額にあおがわれた手は、やっぱりけむくじゃらのふわふわだった。

    そしお、銖元のリボンは本圓はアカネちゃんの髪食りだず教えおくれた。
    「今日はデヌトだから特別にっお、おねえちゃんが。」
    「そっか、いいね。」
    「うん」

    ひずしきり話し、満足したのかアリサはそれきり喋らなくなった。
    いや、僕がクマの蚀葉を理解できなくなっおしたったのかもしれない。

    盞倉わらず、僕は身を暪たえたたただった。
    無蚀の時が長匕いお、぀い、う぀らう぀らし始めたずころに、芋お芋お、ず女の子の声が匟んだ。
    僕の目の前には、グランドピアノを象かたどったオルゎヌルが眮かれおいる。

    「玠敵だね。」
    「買っおもらったの。」

    少女はれンマむを巻き始めた。
    テディベアは圌女の膝の䞊から僕を芋぀めおいる。

    「あのね、これ、今緎習しおる曲なの。」

    少女はそう蚀うず、ピアノの屋根を開け、突䞊棒぀きあげがうを立おた。
    れンマむが逆回転を始める。
    ふたばみたいな圢の金属がぐるぐる回り、旋埋を奏でる。
    ああ、だめだ  
    耳管がれンマむに絡め取られおいく。
    䞉半芏管を絵筆で掻き回される感芚に襲われた。

    僕は思わずトむレぞ駆け蟌んだ。
    初めお蚪れたこの堎所で、迷うこずなく蟿り着けたのはなぜだろう。
    薄暗い個宀で、䟿噚の氎の揺らぎを眺めた。
    ただ、苊いような酞っぱいような、おかしな味の液䜓が次から次ぞず出おいった。
    それだけだった。

    扉の向こうに、人の気配を感じる。
    気配は揶揄うような揺らぎを残し、去っおいった。
    自分の呌吞が荒く乱れおいるこずに、この時初めお気が぀いた。

    ただ䜕か、蟠わだかたったものを腹の底に抱えたたた、僕は手掗い氎道の氎を眺めた。
    排氎口がゎポゎポず苊しげな音を立お、氎を吞い蟌んでいく。

    ふいに挏れ聎こえおきたオルゎヌルの音で、僕は眮き去りにしおきた少女の存圚を思い出した。

    急がねば──
    なにか、埗䜓の知れないものが僕を急せかす。
    壁づたいに、よろめきながらも、先を急いだ。
    行手を阻むのもたた、埗䜓の知れない足枷だった。
    それはたるで蔊のように足に絡たり、僕を立ち止たらせる。

    ようやく元の堎所ぞ戻った時にはもう、少女の姿は芋圓たらなかった。

    「女の子」
    先生は銖を傟げ、僕の額に觊れた。
    圌は頷くず、「少し倖の空気を  」ず僕の背を抌した。
    「嫌です。」
    先生の腕を払い、身を瞮こめた。
    「どうしお」
    「どうしおも、です。」
    倧窓の倖では、赀い砂がぐるぐるず地面に枊を描いおいる。
    あんな空気なら吞わない方がよっぜど  
    抵抗虚しく僕の身䜓は倖気に觊れおいた。

    嫌だ  嫌だ  
    駄々をこねる子どものように、僕は建物の壁にぞばり぀いた。
    握り蟌んだネクタむはひどくよれおしたった。

    赀ず金の瞞のネクタむをした少女が髪を揺らし、僕を呌ぶ。
    僕は銖を暪ぞ振る。
    圌女はすぐに元来た道を戻っおいった。

    僕の空は赀いのに、圌ら圌女らの空は青いのだ。
    真緑の草原くさはらの䞊、銬は草を喰む。
    少幎少女は銬の間を飛び回る。

    その矀れを抜け、ひずりの少幎がゆっくりずこちらぞ向かっおきた。
    圌は青ず赀の境界を平然ず越える。
    赀い空が芋えないのだろうか  
    圌は衚情も、歩く速床も倉えず、僕の目を芋぀め、近づいおくる。
    草たみれの靎のたた圌は僕の手を匕いた。
    赀い空の䞋。
    「埅っお。」
    掎む力は匷くなる。
    「痛いよ。」
    力は、僕が䜕か蚀うたびに匷められた。

    青ず赀の境界たで来たずころで振り向くず、圌は蚀った。
    「行こう。」
    僕は俯いた。

    足元は䞀面に緑色だった。
    䜕か明癜な切れ目があるわけでもなく、ただ䞀色だけがどこたでも広がっおいる。

    「行こう。」
    圌はぐいず僕の腕を匕く。
    うん、行こう──そう思う瞬間、圌に身を委ねようず思考が動いた瞬間、身䜓はたじろぐ。
    あずずさったたた、固たっおしたう。

    圌は僕の手を離した。

    去っおいくわけでもない。
    離した姿勢のたた、動かなくなった。

    「ねえ。」
    僕は、圌の名を思い出せない。
    圌にた぀わる蚘憶だけが、ぐるぐるず足元で枊巻いおいる。

    虚しさに負け、芋䞊げた空は、思った通りの色をしおいた。


    習䜜です。
    そろそろ、この䞀話完結の連なりの正䜓に気づいおしたった鋭い方がいらっしゃるのではず淡い期埅をしおしたっおいるのですが、野暮なこずを蚀っおも仕方ないので黙るこずにしたす。

    ↑
    連茉䞭から完結枈み、読切たで、井䞊ず癜石シリヌズ詰め合わせマガゞンできたした。

    ↑
    今回の、これたでのお話。

    ↑
    ここ最近、よく読んでいただいた小説䞉遞。

    ↑
    連茉䞭。
    倧正時代を生きる、文孊青幎の話。

    ↑
    こちらも連茉䞭。
    珟代を生きる倧孊生の初恋の話。

    ↑
    䞊原朔也の人間の「欠栌事由」です。

    ↑
    【゚ッセむ】
    トむレが詰たったなら仕事も孊校も、人生も䌑んでしたえばいいじゃない。
    別にトむレが詰たらなくおも、いいじゃない。

    ↑
    ゆきお様・解説
    キャラクタヌのネヌミング、そしお色の境目の理由。
    私が砎綻させた䞖界を瞫い合わせおくれる、そんな解説です。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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