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【完結枈】たた、明日【神無月狂想】ep.11/11

    西厎先生の携垯が震えた。
    ぶぶ、ぶぶ、ず原皿甚玙を掻き分け這い぀くばっおいる。
    「どうぞ、出おください。」
    先生は黙ったたた携垯をポケットに滑り蟌む蟌たせた。
    音はただ、鳎り止たない。
    ぶぶ、ぶぶ──ぶぶ、ぶぶ  
    先生がポケットに手を突っ蟌むず、死にかけの蝿の足掻きのような音が消えた。

    パむプ怅子に䜓育座りで乗っかっおいる癜石が、砎れた座面のスポンゞをむしっおいる。
    机には食べさしのカステラがひずきれ転がっおいた。
    床にばらばらず散らばる黄色の砎片は、カステラなのか、はたたた怅子の腑ザンガむなのか、刀別が぀かない。

    窓の倖では䞭倮線ず東西線が競うように走っおいる。
    西から東ぞ。
    わずかに䞭倮線が速い。
    しかし、最埌たで芖界に残っおいたのも橙色の線ラむンだった。
    い぀、入れ替わったのだろう。

    倖はもう暗い。

    俺は少し、思い出しおいた。
    スヌツケヌスを匕いお、雚に濡れたアスファルトを䞀駅分、䜙分に歩いた晩のこずを。

    あの日、雷でフラむトが遅れた。
    確か、䞀時間ず二十六分の遅れ。

    あんなに晎れおいたのに、ずクラスメむトたちは口々に蚀ったけれども、俺からすればなるべくしおなったずいう感じでさほど驚きはなかったずいうのが正盎なずころだった。
    隣で䞀緒に空を芋䞊げおいたはずのこの男は、がんやりするばかりで党然同調しおくれなかったのだが。

    皲劻が玫色の空を切り裂くたびに、腹を抉る雷鳎が響くたびに、悲鳎ず絶叫が湧き起こった。
    窓に打ち぀ける雚が景色ごず党おを掗い攫っおいくようだった。

    「痛。」

    烈しい雚音の䞭で、その声だけが劙にはっきりず聎こえた。
    決しお倧きな声ではない。
    唇のほんのわずかな隙間から挏れ出たような、埮かな声。

    「どうした」
    俺が蚊くず、よくあるこず、ず癜石は笑った。
    膝に乗せた本がぱたりず閉じた。

    右手の小指、第䞀関節の内偎。
    癜い筋が走っおいた。
    俺はその筋を芋぀めおいた。

    本のペヌゞをめくるずきに、切ったのだず蚀う。
    はお、ず思った。
    右手の小指、第䞀関節の内偎、そんなずころを切っおしたうような玙の繰くり方。
    想像が぀かなかった。
    同時に心臓の䞭が冷たくなった。
    想像なんかじゃなく、蚘憶の䞭にあるはずのこい぀の指の動きが、どれだけ朜っおも芋えなかった。

    癜い筋はだんだんず色を垯び始めた。
    玅く。
    喉から呻めきに䌌た息が挏れたず同時に、倧粒の雫が膚れ、指を぀たい始めた。
    さほど倧きな傷には思えなかった。
    しかし──

    「どこたで読んだか、忘れおしたいたした。」
    もう平気なの、ず蚊くず、じんじんする、ず蚀う。
    笑いながら立おた小指の絆創膏は、貌ったばかりなのにもう玅く滲んでいた。

    目の前の窓ガラスには氎膜が匵られ、倖の様子をうかがい知るこずはできなくなっおいた。
    肺がやたらに重く感じられた。

    「倧䞈倫、ですよ。」
    傷のない方の手が、俺の背をさする。
    どうしお。
    答えはなかった。

    やがお雷鳎は遠ざかり、雚は䞊がった。
    切り裂かれおいた玫色の空は元の通りに繋がっお、黄色の倕空ぞず倉わった。

    䞀時間ず二十六分の遅れ。
    機䜓は高床を䞊げおいく。
    小さくなっおいく街を芋ようず開け攟っおいた窓  景色に氎膜がかかる。
    隣で閉じかかっおいる瞳に声をかけ続ける。
    もう、䜕を話したか芚えおいない。
    本圓に、隣の瞳が閉じかかっおいたかも本圓のずころはわからない。
    ただなにかに急せき立おられるように、喉から声を溢れさせおいた蚘憶だけが残っおいる。

    結局、俺は街を芋逃した。

    目が芚めた時、そこはもう東京だった。
    街明かりが星を隠し、安っぜいレヌザヌが月を貫いおいた。

    俺ず癜石は、なにか話すでもなく䞊んで電車に揺られおいた。
    時折肩に頭が觊れた。
    昚日の宿のシャンプヌの匂い。
    ただ埮かに残っおいる。

    「君はもう䞀駅、先でしょう」
    誀差の範囲内、ずだけ俺は蚀った。
    行き亀う人々の傘の先から雫が垂れおいた。
    改札を抜ける前から、濡れた埃のような匂いがしおいた。

    「こちらも、降ったようですね。」
    「ああ。」
    街路灯がアスファルトを照らす。
    氎たたりは揺るぎなく街路灯の光を映しおいる。
    雚はもう止んでいた。

    「小指は、どう」
    改札を抜けおからただ䜕も話しおいかなかった。
    だから、ずいうわけでもないけれど俺は尋ねた。
    「おかげさたで。もうすっかり。」
    そう、ならよかった──を銖で蚀った。
    それっきり、キャスタヌがコンクリヌトにこすれる音だけになった。
    その音はしずかな䜏宅街で悪目立ちしおいた。
    音のない、ずはこういうこずを指すのだろうず俺は思った。

    「怋。」

    はい、ず返す癜石の声がする。
    「遅えよ。」
    ちょうど電車が通った。
    西ぞ向かう電車。
    車窓から芋る景色の䞭を今、俺は歩いおいる。
    「ここ、毎日通るのか」
    「ええ。よほどのこずがなければ。」
    癜石は背埌うしろを歩いおいる。
    よほどのこずっおなんだよ。

    癜石はのんきに柿が食べごろだずか、窓蟺の猫だずかを芋぀けおは立ち止たった。
    さも、初めおの堎所でも歩くかのように。
    子どもみたいに目を茝かせお。

    「早くしろよ、もう九時になる。」
    蚀うが早いか、長針がたっすぐに空をさす。
    「倧䞈倫ですよ。」
    䜕がだ。
    「あれ、五分進んでたすから。」
    「え」
    「倉わらないんですよ。僕が通っおいた時からずっず。ずっず、ああなんです。」
    黄色い壁が、倜の空にがんやり色を映しおいる。
    倧䞈倫、の意味がわからなかった。
    「誀差の範囲内、ですよ。」
    癜石はけらけら笑う。

    五分ず䞀駅。
    誀差の範囲内。
    そんな曖昧な䞭、やっず暪䞊びになった。
    車通りは少ない。
    俺はわざず癜線の倖を歩く。

    ひずりになった。
    街路灯は信号を越えるごずに数を増しおいく。
    静寂が止む。
    喧隒に玛れる。
    もっず、ひずりになった。

    ふいにあくびが出た。
    「あ、移しちゃいたしたか。」
    隣で癜石が目をこすっおいる。
    机に残されおいた食べさしのカステラは、もうなくなっおいた。

    「指は もう倧䞈倫なの」
    癜石は照れたように笑っおから蚀った。
    「たた、やっおしたいたした  」

    叀い傷が芋えなくなった頃、たた新しい傷ができる。
    それが治らないうちに別の傷が生たれおいたりする。
    芋えなくなった傷が疌くのか、目に芋える傷だけが疌くのか──

    「気を぀けろよ。」

    絆創膏の䞋の傷は芋えない。
    それでも今、こい぀は痛みを感じおいるのだろうか。

    先生が原皿甚玙をたずめおいる。
    五十二枚の、玙の束。

    垰ろうか、ず先生が蚀った。
    はい、ず玠盎に答えられた。

    さようなら。
    たた。

    「遅刻、すんなよ。」
    先生が念をおす。

    たた、明日。
    おはよう、ず圓たり前に蚀うのだろうか。
    蚀えるのだろうか。

    確蚌もないたた駅ぞ向かい、電車に揺られる。

    「じゃあな。」
    「たた、明日。」

    誀差の範囲内をひずり、超えおいく。

    俺は今、少し笑ったみたいだ。

    (完)


    #井䞊ず癜石
    修孊旅行線(井䞊ver.)、完結です。

    ↑
    こずの発端は癜石の䜜文。

    ↑
    ここに党郚、入れおありたす。

    ↑
    なお、䞀぀前の井䞊はこちら。

    ↑
    井䞊線の䞀話目はこちら。

    ↑
    本圓は、ホリタッツォずいうお菓子を食べる話を曞こうずしおいた。

    ↑
    文化祭が近い。
    締切間に合わん
    そんな矎術郚の皆様ぞ、枅銙先茩の技を䌝授したす。

    ↑
    アスカの台詞「あんた、バカア」の生みの芪、川端康成説。

    ↑
    倧正時代にもあの草は䌞びたくっおいた。
    䞊原朔也の孊生服が終了したす。

    ↑
    【゚ッセむ】
    䜙蚈なこずは忘れないのに、䜙分なこずは芚えおいる。

    ↑
    ゆきお様・解説
    たた、明日
    その明日が意味ありげになっおしたう理由ずは

    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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