
二十四節気を整える。 供え、いただき、季節によりそい暮らす。
私の書棚から三冊、私の人生で大切な本を選ぶなら、迷わずすぐに選べる。
決定版お茶の心 茶懐石
家庭画報編 昭和53年12月1日発行
京都・竹之御所風 おそうざい精進料理 三光院・祖栄禅尼の手づくり277品
暮らしの設計131号 中央公論社昭和55年4月1日発行
つなげていきたい 野崎洋光の二十四節気の食
家の光教会 2011年11月1日発行

世界文化遺産である和食の真髄が一冊にまとめられた世代を超えて手渡したい貴重な一冊だと思う
三光院の精進料理の本は初読から40年以上経って三光院を訪れ、料理を味わい、これからも訪れ、味わい、学ぶときに何度も読み返している本
どの本も料理の奥に広がるのは、日本の四季折々の、つなぎつながる日々の暮らしだ
「つなげていきたい野崎洋光の二十四節気の食」
十五年前の秋の日。
晩御飯のとき、夫がダイニングテーブルに置いた本。
野崎洋光さんの本だ。
「これ、あげるよ」

今も読むたびに新しい気付きをいただいている
逍遥の児 ふるさと福島への想い
秋の夕暮れ時。東京・南麻布の料理屋「分けとく山」。木陰の離れで総料理長、野崎洋光さん(58)に取材した。白い帽子に白衣。野崎さんは椅子に正座。にこにこ。にこにこ。
「つなげていきたい野崎洋光の二十四節気の食」(家の光協会)を出版した。ふるさと・福島の郷土料理を軸に四季折々の食と思い出を記している。
野崎さんは流鏑馬の町、石川郡古殿町の旧家で生まれた。9人兄弟の8番目。父は教師だったが、家族ぐるみで農業も営んでいた。
少年時代の懐かしい記憶。「結い返し」。新緑の季節。田植えが始まる。近所総出で助け合う。手伝ってくれた人たちにごちそうをふるまう。野外。木箱に雨戸をのせて即席のテーブルにする。大根と豆腐の煮物。うるいの酢味噌がけ。けんちん汁。赤飯。そして、とっておきの「初鰹」。山間の町まで魚屋が新鮮な鰹を運んできたという。
「結い返しのごちそうは、それは豪華でした。大人たちは農作業が終わると、宴会です。子供もそれぞれの家で、ごちそうになります。10日ほど祭りのような日々が続くのです」
村落共同体。幸せに包まれた野崎少年の笑顔が浮かぶようだ。
高校卒業後、上京。吉祥寺と荻窪の料理屋で板前修業を始めた。親方は「鬼」と恐れられた男だった。1年目は壁にぶつかった。深夜、せんべい布団にもぐりこんで、その日、覚えたこと、学んだことをノートに書いた。
「書くくせをつける。学ぶ気持ちがむくむく。つらい仕事が楽しくなります」
60歳の還暦を前に再び、郷愁がわいてきた。そのふるさと・福島が大震災に襲われた。「なにかしなければ」。福島出身の料理人たちと現地に向かった。先輩料理人が宿泊用のアパートと調理道具を用意してくれた。
「料理人仲間の心意気がうれしい。涙が出ました」
被災者たちに郷土料理や熱々の天ぷらなどをふるまった。100食。200食。1000食分の料理を作った。
今回、出版した本1冊につき、400円を復興支援として寄付している。
「まだ、終わっていないんです。これからなんですよ」
2007年6月から2016年3月まで毎週SANKEI EXPRESSに掲載された夫のコラム(「野菊」ー「逍遥の児」)からの引用
「福島の方言でいうまでい(ていねい)に生きる暮らしの原点がここにある」この本には、野崎氏の故郷・福島での子どものころの情景が、二十四節気ごとの料理と故郷の風景とともに紹介されている。
同世代の私にとって故郷こそ違えども、あのころの同じ日本の情景が重なり、懐かしい電灯の橙色みたいに心がぽっとあたたかくなる本だ。
それから数年が経ち、なにかと 気忙しい日々に流されている、そう感じたとき。
一年間、我が家の二十四節気の献立を作って心を整えた。
さらに十年以上の月日が流れた2026年立春。
時々、二十四節気の献立は作ってはいたけれど、再び、「暮らしの歳時記」とタイトルをつけ、シリーズとしてnote記事をスタート。
無理せず気負わず、半世紀にわたって収集してきた古伊万里などの器に盛り付けた我が家の二十四節気の献立を夫といただき、それらは私たちの静かに満ち足りた暮らしの要となった。

立春朝搾りで立春を祝う膳
夫撮影
「お酒が主役なんだから」とお酒を薄はりグラスについで、立春朝搾りにフォーカス

春待ちランチ

古い古い私のひな人形を飾る

古伊万里色絵八寸皿に盛り付けます

ぼたもち


「ああ、おかわりしたいなぁ」
「ソメイヨシノのころには、桜ごはんだよ」
「きゃっほ~、それは楽しみ」

我が家の春スペシャル
「玲子さんから筍が届いたら、今年もたけのこの姿ずし、作るからね」
「やった~!ありがたいねぇ」

ちょうど朝倉山椒の黄色い花が咲く季節
春分の翌日
「いってらっしゃい」
と出張に行く夫を、玄関で見送ったのが、永訣の朝となる・・・。
夫は、私たちが半世紀以上前に出会った地で旅立ってしまった。
二人で紡いできた季節の歳時記の献立は、夫への供物になった。

さくらさくら一汁五菜

たけのこの姿ずし一汁五菜

柏餅 筍ちまき一汁五菜

鰹の手こね寿司一汁五菜

そら豆ごはん 淡竹の磯辺揚げ一汁五菜

たこ飯一汁五菜

蕎麦づくし天茶と夏越そば
どんなことが起きようが
どれだけ悲しい日々がやってこようが
季節は巡る。
だから整え、供え、話しかけ、いただく。
無心になって、季節の献立を考え、料理する。
夫と紡いだ五十二年分の愛しい記憶をひとつひとつ、手繰りよせ、
止まらず、前に進む。
季節の巡りが生きる営みとなり、道標となる。
暮らしの歳時記
私の歳時記