
うまみは、じつはある。
これまであまい・にがい・しょっぱい・すっぱい、五味をかんがえてきました。あとからいもですけど。では、さいごのひとつ、「うまい」はどうでしょうか。
「うまみ」が、日本人が昆布のグルタミン酸から見出した「味覚」であることは、よく知られているでしょう。英語でもUMAMIそのままですし、スワヒリ語で聞いたことはありません。
ですが、呼び名がないことは、活用されていないこととイコールではありません。
私は、タンザニアの料理にもうまみはちゃんとあると思います。
まず、野菜ではないと言われてしまったニャニャ(トマト)です。
トマトにはグルタミン酸が含まれていて、熟すにつれてふえます。タンザニアで流通しているトマトはどれも真っ赤に完熟していますから、トマトをベースにして作られるムチュジはとても濃厚な味わいです。

しかも、 ugali na nyama 【ウガリと肉】や wali na nyama 【ご飯と肉】のように、「ニャマ」――どうぶつ、もとい肉――が主菜であるメニューは、肉そのものはひとかけくらいしか入っていなかったりしますけれど、骨付きのままトマトと煮込まれています。ムチュジにはイノシン酸などのうまみ成分も溶けだしているはずです。
トマトは野菜ですとは断固として主張したいところですけど、少なくともこの(しかもタンザニアでとてもメジャーな)用法では、トマトはコンソメのように「うまみ」をもたらす食材として使われていることをみとめざるをえません。ぐぬぬ。
スプ(スープ)でも、肉や魚を骨ごと煮込むのがふつうです。おそらく「味」つけは塩くらいだと思いますけど、とてもうまみがあり、チャパティといっしょにいただくと朝食にぴったりです。
(ライムや塩やピリピリはテーブルにあり、おこのみで味を変えることもできます。)

また、 kuku wa kisasa ――直訳すると「現代的なニワトリ」つまりブロイラーよりも、 kuku wa kienyeji 「地元のニワトリ」つまり平飼いのニワトリが好まれ、お値段も高いわけも、筋肉質で味が濃いからだと思います。歩き回っていて、脂は少ないのですから。

さらに興味深いのは、ダガーです。ダガーといっても、中二病のあらわれとされる†闇の帝王†これではありません。日本でいう「煮干し」のような、小魚を干したもので、煮干しがそうであるようにうまみ成分が豊富なはずです。

タンガニーカ湖畔のキゴマという町から出荷される淡水魚のダガーが、いっぴきいっぴきも大きく高級とされます。
いっぽう、ザンジバルで獲れる海水魚のダガーは、遠くコンゴ民主共和国などまで運ばれていくそうです。スワヒリ語はDRCでも通じます。
これもニャマとおなじように、トマトで煮込み、主菜として供する ugali na dagaa などが基本です。(新鮮な魚がたべられる海沿いでは、素揚げも定番ですけど。)

なので、いりこだしのように「出汁」として少量をもちいるのとは違います。ですが骨付き肉を煮込むのとおなじように、ダガーとトマトの合わせ技で、うまみ成分がたっぷりムチュジに溶け出すと思います。
※ちなみに日本語には「タチウオ」や「いかなごのくぎ煮」のように、金物のようだという名づけがあります。けれどダガーの場合は、日本の命名や、えびがひもであるのとは違い、ヨーロッパのダキア人に由来するとされる「短剣」とは関係なさそうです。銀色でまっすぐなので刃物を連想するところまではありえると思いますけど、アラブやアフリカの人たちは短い刃物をダガーとは呼びませんから。スワヒリ語だとナイフは「キス」です。日本の魚「鱚」はたしかにナイフみたいかもしれません(が、もちろん関係ないです)。
これらのことから、タンザニアでもうまみ成分を活用した料理を作って食べていると言えると思います。
スワヒリ語では、うまい(おいしい)は、 tamu =甘いという単語で表すことをみました。
いっぽう日本語も、うま味が味覚として定義されるまでは、「うまい」は五味のひとつではなく総合的に「おいしい」ことであり、くだものが「熟む」に由来する、「甘い」ルーツなのでした。
うまみを引き出していることも、うまさを甘さで表すことも、どことなく似ています。スワヒリ語圏に親近感がわいて、行ってみたくなったのではないでしょうか。かりぶーにさーな。
Chakula cha Tanzania kina utamu.【タンザニアの料理には、うまみがある。】
スワヒリ語味覚シリーズは以下です。