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🥢『好きになる味は、いつだって少しずつ。』



    愛妻弁当の男



    昼休みになると、


    営業二課の佐伯直人、三十二歳は、

    決まって窓際の席に座った。


    そして、


    紺色のランチクロスに包まれた弁当箱を取り出す。



    蓋を開けると、ふっくら焼けた卵焼き。

    照りの美しい鶏の甘辛焼き。

    ほうれん草の胡麻和え。

    小さなタコさんウインナー。


    そして、白いご飯の真ん中には梅干しが一つ。


    「相変わらず、すげえな」


    同僚の田中が、コンビニのおにぎりを頬張りながら覗き込んだ。


    「佐伯の奥さん、料理上手すぎだろ」

    「いや、だから――」

    「いいよなあ、愛妻弁当。俺も結婚してえ」


    直人は何か言おうとして、やめた。

    説明するのが面倒だったのだ。



    直人は独身である。彼女もいない。

    そして、


    その弁当を作っているのは――直人自身だった。


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    料理男子の朝



    直人の朝は早い。


    午前六時。


    目覚まし時計が鳴る前に起き、顔を洗い、エプロンをつける。


    炊飯器を開けると、真っ白な湯気が立ち上る。

    昨夜から下味をつけておいた鶏肉をフライパンへ入れる。


    ジュッ――。


    醤油とみりんの香りが、小さなキッチンいっぱいに広がった。


    次は卵焼き。


    直人は甘い卵焼きが好きだった。


    子どもの頃、母親が作ってくれた味だ。



    料理を始めた理由は単純だった。

    大学進学を機に一人暮らしを始めたものの、

    毎日の外食で財布も胃袋も悲鳴を上げた。



    仕方なく料理を始めた。


    それだけだった。



    ところが――やってみると、面白かった。


    同じ卵でも、火加減ひとつで味が変わる。

    同じ煮物でも、一晩置けば表情が変わる。


    料理は、正解が一つではない。


    だから直人は、料理が好きになった。

    弁当を作るのも、その延長だった。


    ところが会社では、いつの間にか、


    **「佐伯=愛妻弁当を持ってくる幸せな既婚者」**


    ということになっていた。



    訂正するタイミングを失ったまま、三年が過ぎていた。


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    その卵焼き、一個ください



    事件が起きたのは、六月の月曜日だった。


    「佐伯さん」


    昼休み。


    向かいの席から声をかけてきたのは、

    同僚の小野寺美咲、二十九歳だった。



    仕事は速い。資料も完璧。取引先からの評判もいい。

    ただし、一つだけ致命的な欠点がある。



    料理が、壊滅的に下手だった。


    「……何?」


    美咲は直人の弁当を見つめていた。

    正確には、卵焼きを見つめていた。



    「その卵焼き、一個ください」

    「え?」

    「お腹すいたんです」

    「弁当は?」


    美咲は静かに、自分の弁当箱を開けた。


    直人は絶句した。

    そこには――黒い物体が入っていた。


    「……何、それ」

    「ハンバーグです」

    「炭じゃなくて?」

    「ハンバーグです」

    「黒すぎない?」

    「ちょっと焼きすぎました」

    「ちょっと?」


    美咲が箸で触れる。


    カツン。



    硬質な音がした。

    直人は思わず言った。


    「それ、箸で叩く音じゃないよね?」

    「……食べます?」

    「遠慮します」


    美咲は悲しそうに黒いハンバーグを見つめた。

    直人はため息をつき、卵焼きを一つ差し出した。

    美咲は口に入れた。


    そして――目を丸くした。



    「……おいしい」

    「普通だよ」

    「これ、奥さんが?」

    「いや、俺が」

    「え?」

    「俺が作った」


    数秒、沈黙が流れた。


    「…………え?」


    美咲はもう一度言った。


    「…………え?」


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    秘密がバレた日



    「佐伯さん、独身なんですか?」

    「独身だけど」

    「じゃあ、この弁当は?」

    「だから俺が作ってる」

    「毎日?」

    「毎日」

    「卵焼きも?」

    「俺」

    「煮物も?」

    「俺」

    「この前の炊き込みご飯も?」

    「俺」


    美咲は両手で頭を抱えた。


    「騙された……」

    「俺、一度も結婚してるって言ってないけど」

    「三年間、愛妻弁当だと思ってました」

    「みんなが勝手に言ってただけだよ」


    すると美咲は、急に真剣な顔になった。


    「佐伯さん」

    「何?」

    「お願いがあります」


    嫌な予感がした。


    「明日から――」


    美咲は深々と頭を下げた。


    「私の分も作ってください」

    「嫌だよ」


    即答だった。


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    二人分のお弁当



    ところが翌朝。


    直人はキッチンで卵を三個割っていた。

    いつもは二個なのに。


    「……何やってんだ、俺」


    昨夜、美咲からメッセージが来たのだ。


    『一食五百円払います』


    断った。


    『六百円』


    断った。


    『食器洗いします』


    会社でどうやって。



    そして最後に届いたのは――


    『明日も黒いハンバーグを食べることになります』


    直人は負けた。



    こうして、二人分のお弁当生活が始まった。



    最初は週に一度だけの約束だった。

    それが週二回になり、三回になり、気づけば毎日になった。


    「今日は生姜焼きですか!」

    「声大きい」

    「昨日の煮物も最高でした」

    「会社で褒めるな」

    「卵焼き、あと二個増やせません?」

    「弁当箱を大きくしろ」


    いつしか昼休みになると、二人は並んで食べるようになった。


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    空っぽの弁当箱



    直人には、一つだけ嬉しいことがあった。


    美咲は必ず、全部食べた。


    嫌いなピーマンも。

    少し焦げた魚も。

    味付けに失敗した煮物も。


    そして毎日、


    「ごちそうさまでした」


    と言って、空っぽの弁当箱を返した。



    ある日。


    その弁当箱の上に、小さな付箋が貼ってあった。


    『今日の唐揚げ、今までで一番好きでした』


    直人は、その付箋をなぜか捨てられなかった。



    次の日には、


    『卵焼き、やっぱり世界一です』


    その次の日には、


    『午後も頑張れそうです。ありがとう』


    気づけば直人の机の引き出しには、美咲の付箋が増えていった。


    料理というのは、不思議だ。


    自分のために作るより、

    誰かが食べてくれるほうが――少しだけ丁寧になる。


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    お弁当のない月曜日



    そんなある日、美咲が会社を休んだ。


    風邪だった。


    直人はいつもの癖で、二人分の弁当を作ってしまっていた。


    昼休み。


    隣の席は空いている。

    弁当箱だけが二つ。


    「……多いな」


    直人は呟いた。


    その時、初めて気づいた。

    二人分作ることが、いつの間にか面倒ではなくなっていたことに。


    むしろ――一人分に戻ることのほうが、寂しかった。



    仕事帰り。


    直人は美咲の家へ寄った。

    インターホンを押す。


    「……はい」


    鼻声だった。


    「佐伯だけど」

    「えっ?」


    ドアが開いた。美咲はパジャマ姿だった。


    「どうしたんですか?」


    直人は紙袋を差し出した。


    「弁当」

    「え?」

    「朝、間違えて二人分作ったから」


    嘘だった。



    間違えたのではない。

    もう――二人分作るのが当たり前になっていた。


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    初めてのお弁当



    数週間後の昼休み。


    美咲が突然言った。


    「佐伯さん」

    「何?」

    「今日は私がお弁当を作ってきました」


    直人の箸が止まった。


    「……自分で?」

    「はい」


    嫌な予感しかしない。



    美咲が弁当箱を開ける。


    卵焼き。

    ウインナー。

    ほうれん草。

    おにぎり。


    見た目は――普通だった。



    「食べてください」

    「俺が?」

    「はい」


    直人は恐る恐る卵焼きを食べた。


    しょっぱい。

    ものすごく、しょっぱい。



    「どうですか?」

    美咲が不安そうに聞く。


    直人は少し考えてから言った。


    「……七十点」

    「嘘です」

    「バレた?」

    「顔が百点満点で苦しそうです」


    二人で笑った。


    けれど美咲は、少し照れながら言った。


    「佐伯さんが毎朝やってくれていることを、

    一度くらい自分でやってみたかったんです」


    直人は黙った。


    「朝早く起きて、ご飯炊いて、おかず作って、冷まして、詰めて……」


    美咲は弁当箱を見つめた。


    「大変なんですね」


    そして、小さく笑った。


    「毎日、本当にありがとうございます」


    その瞬間。

    直人の胸の奥で、何かが静かにほどけた。


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    愛妻弁当じゃありません



    翌日の昼休み。


    田中がいつものように言った。


    「今日も愛妻弁当か。羨ましいなあ」


    すると直人は初めて、


    「違うよ」


    と言った。


    「え?」

    「これ、俺が作ってる」

    「マジで?」

    「それと――」


    直人は隣に座る美咲を見た。

    美咲の前にも、同じ弁当箱が置かれている。



    田中は二つの弁当を見比べた。

    そして、ニヤリとした。


    「なるほどね」

    「何が?」

    「いや、別に」


    美咲は顔を赤くして、黙々と卵焼きを食べていた。

    直人も黙ってご飯を口に運んだ。


    ただ――二人とも少しだけ笑っていた。


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    エピローグ お弁当ラプソディ



    一年後。


    午前六時。


    小さなキッチンに、


    トントントン――。

    包丁の音が響いている。


    「美咲、それ塩」

    「はい」

    「それ砂糖」

    「……え?」

    「卵焼きに塩入れようとした?」

    「危なかったですね」

    「他人事みたいに言うな」


    美咲は笑った。


    キッチンには二つの弁当箱。

    いや――今日は三つある。


    「田中さんの分まで作る必要あった?」

    「昨日、『一度でいいから食べたい』ってうるさかったから」

    「五百円取ります?」

    「取るなよ」


    二人で笑った。


    あの日、一人分だった弁当が、二人分になった。

    そしていつしか、朝のキッチンにも二人で立つようになった。


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    直人が卵を焼き、美咲が不格好なおにぎりを握る。


    「佐伯さん」

    「何?」

    「今日の卵焼き、少し大きくしてください」

    「また?」

    「好きなんです」


    直人は笑いながら、卵焼きを一切れ多く入れた。


    「はい」


    美咲は弁当箱を覗き込み、嬉しそうに笑った。


    「ありがとうございます」


    直人は思う。


    料理には、不思議な力がある。


    たった一個の卵焼きから、誰かと話すようになって。

    一つの弁当箱から、誰かを待つようになって。


    二人分の朝ごはんを作ることが、


    いつしか――

    二人で生きていく練習になっていた。


    豪華な料理じゃなくていい。

    少し形の崩れた卵焼きでもいい。

    焦げたウインナーだっていい。


    大切なのは、蓋を開けた時、誰かの顔が浮かぶこと。

    そして、


    空っぽになった弁当箱が、また自分のところへ帰ってくること。


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    今日も二人は、同じキッチンで、同じ朝を迎える。


    トントントン。

    ジュウッ。

    カチャカチャ。


    それはきっと、どんな音楽よりも幸せな――



    二人だけの、お弁当ラプソディ。。。💓🎵💓


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    💗柊紅葉💗


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    夏の名残を感じながらも、

    朝晩には涼やかな風が吹くように

    なりましたね。💝🍂😌🍂💝

    最近、急に秋を感じます。🍁🥰🍁

    秋はすぐそこまで、来ています。🥰🍁🍂🥰


    こちらは、段々、風が強くなってきました。😥🌪️😥

    台風が、近づいています。😥🌪️😥


    明日から、荒れ模様です。😥💓😥


    皆さん、お気を付けください。😌😊😌

    そして、くれぐれもご自愛ください。💐💝💐


    いつもありがとう。🥰💝🥰


    そして、

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